13. クビにされた理由③〜3年前〜

 王襲撃事件から2週間経ち、国王であるリカルドと高位貴族たちの議論はヒートアップしていた。


「陛下!今回の暗殺は元ゼラム王国の者、しかも元王女が推薦し王宮に迎えたものです!彼女たちが彼を推薦しなけれぱ起こり得ませんでした。もしかしたら、彼女たちが祖国を滅ぼされた復讐によって計画されたものかもしれませんぞ!!」


「大臣、何をおっしゃいますか!このままいけば亡国の王女が王妃になれるのですぞ。そんな危険冒しますまい!」


「彼女たちは祖国を滅ぼされたのです!我が国に恨みがあってもおかしくないではありませんか!そもそも、犯人を推薦したのは元王女たちです!それだけでも責任があります!!王に暗殺者を近づけた責任を取らせるべきです。ああ、あとヒルデ将軍にも責任を取らせねば。護衛の任務を果たせなかったのだからな」


「なっ!?それを言うならキール将軍だって同じだろうが!平民出身だからとヒルデ将軍を侮るのか!」


「今は将軍たちのことはおいておくべきでしょう。王女がたの処遇を決めねば……」


「彼女たちは自ら父王の首を差し出したのだ。それに祖国では酷い扱いだったと聞いている。確かに育った国への情はあるだろう。だが、今の待遇を蹴ってまで暗殺などしないだろう!それにこのままいけばオハラ様はこの国の王妃となり、いずれは子を産み、その子が男の子であればこの国の主となる。女子であっても、王女として高位貴族に嫁ぎ後世に名を、血を残していくことができる。祖国の血は絶滅しない、後世に継がれるのだ。暗殺するよりもよほど栄華を極められて良いではないか!」


「そんなもの……復讐心があれば栄華など、まして後世のことなど気にならないものです!そもそも、先程も申し上げましたが犯人が王女の推薦で王宮にいるものだということが既に問題なのです!!」


 カオスだ……。家臣たちがぎゃあぎゃあと言い争う声に頭痛がする。言っていることは同じことばかり…何も進んでいない。リカルドは一旦止めることにした。


「とりあえず皆落ち着け。それと……先程から責任責任と言うが、推薦をしたのは確かにオハラだ。しかし、許可したのは我だ。我の責任ではないか?自業自得ということか?」


「陛下!貴方様は国王です!この王国で唯一無二の存在です!滅ぼされた国の王女と同じものとしてご自分を考えてはなりません!!」


「なんだそれは?我も彼女たちも同じ人間であり、同じだけの価値がある」


「本来であれば敗戦国の王族は処刑、捕虜となるのが常です。陛下の御慈悲で生きていられるものを同列に考えてはなりませぬ」


「言葉が過ぎるぞ!!彼女たちは紛れもなく王族であったし、彼女たちのおかげで戦が終わったと言っても過言ではないのだぞ!それに忘れるな、オハラは私の最愛の者。今日は解散せよ。話しにならぬ」


 年若いが絶対的な君主を怒らせるのは良策とは言えない。高位貴族たちは先程まで言い争っていたにも関わらず、目配せをし合うと言った。



「「「………御意」」」





~~~~~


 リカルドは執務室に戻ると、椅子に腰掛けた。すっと額に手を当てるとそのまま目をつぶり天を仰ぐ。暫くそのままの姿勢でいたが目を開き視線を前に戻す。そして、ゆっくり瞬いた後、侍従にヒルデを呼ぶように命令した。


 暫くするとドアをノックする音がした。


「ヒルデにございます。お呼びと聞き参上いたしました」


「入れ」


 執務室に入ったヒルデは執務机の椅子に腰掛ける王の顔が険しいものであるのに気づいた。言いにくいことなのかなかなか言葉を発しない主君にヒルデは片膝をつき、すっと頭を下げると……


「申し訳ございませんでした」


 謝罪した。


「なんだ……?」


「その傷は私のせいで負われたものです」


(誰かが責任を取らねばならぬのなら私がとりましょう)


「なんだ……密偵でもいるのか。会議の内容を何故知っている?」


 淡々と言葉を発するヒルデに王は気が抜けたのか背もたれに身体を預けた。そんなリカルドにヒルデはフフッと笑うと言った。


「私を邪魔に思うものは山ほどいます。この機会に消そうという意見が出るのは察せられます。それよりも陛下は大変お悩みのよう。私にご命令を」


 リカルドはヒルデの顔をじっと見た。その顔に浮かぶのは忠誠心でも責任感でも悲哀でもない。ただこちらを見返す美しい瞳があるだけ。そっと視線を逸らす。


「……大臣共が責任責任とうるさい。このままではオハラを手放さなければならない」


 うんざりしたように吐き捨てた後、はーっとため息をつくとヒルデに視線をやった。


「お前にその責任とやらを負わせたい」


「喜んで」


 拒絶するでもなく、悲嘆にくれるでもなく、一切変わらない表情のまま即答するので王は思わず笑ってしまう。


「怒りも悲しみもなしか……」


「上に立つものは責任を負うものです。当時護衛についていたものは我が黒蝶のものですしね。平民出身のしかも孤児の私が侯爵の位、将軍職を授かっていることを気に食わないものはたくさんおります。それに、周辺国は皆属国になり残りの国々は私がいなくなったとて、キール将軍が残っていれば兵力は拮抗。むしろ、飛び抜けて有能な私がいることで警戒されると危ぶむものもいますしね。今は将来の王妃を攻撃しているものが多いですが、その後は本格的に私に飛び火しましょう。陛下の毛が抜ける前に私が一手に責任を負います」


 ベラベラと自分を卑下しているのかほめているのかわからない言葉を発するヒルデに王は思わず顔がひきつってしまう。それに最後のいるか?代々苦労している割に王族はフサフサの家系なので余計なお世話だ。いかんいかん……とゴホンッと咳をすると命令を下した。


「お前には将軍でありながら暗殺者に気づかず、護衛として俺を守ることができなかったとして、将軍職を解雇する。そして一旦軍から離れてもらい、時期を見て軍に復帰させる。お前を解雇することに反発はあるだろう。だが、お前の失脚を望んでいる貴族も一定数いる。高位貴族であればあるほどその傾向が強いから解雇されるのとになるだろう」


「天才的な頭脳を持つ私が気づかなかったことをオハラ様が気づけるはずがないだろうとし、責任を私一人に被せると言うことですね。オハラ様を王妃にするため私を切り捨てる……と」


「……そうだ。辞令だ」


 やろうとしていることはそうだが、もう少し言葉を選べないものかと呆れてしまう。呆れながらも辞令を言い渡す。


「御意に。今までお世話になりました」


 辞令を受け取った後、すっと頭を下げて顔を上げたヒルデの口角が少しだけ上がっていることに気づく。


「?」


 その顔に、言葉に違和感を覚えたリカルドは引き留めようとしたが……


「陛下!ヒルデ将軍!」」


 執務室の外から激しいノックと大声が聞こえてきた。


「何事だ!?」


「申し訳ありません!しかし、オハラ様とイバラ様が言い争っていまして……お付きのものではどうにもならないので、陛下か将軍にお越しいただきたく」


 陛下はため息を吐くと


「わかった。すぐに行く。ヒルデこの続きはまた後でだ」


「陛下、引き継ぎや荷物を纏めたいので明後日に伺っても宜しいでしょうか?」


「急ぎでないし、構わない」


「それでは失礼いたします」




 この話しの続きがされることはなかった。



 翌日ヒルデが解雇されたことが王宮に大々的に公表された。


 しかしその時ヒルデの姿は王宮にはなく、最低限の荷物もなくなっていた。


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