第7章:店からの電話

『ん・・・なんだ、目覚ましじゃないな。』


16和音の着メロの音で目が覚めた住吉さんは、そう言いながらシートを起こしました。


『ブーッ、ブーッ、ブーッ』


バイブレーションと共にサザエさんのオープニングテーマが鳴り響く携帯電話を手に取ると、そこには清司さん夫妻のコンビニの名前が表示されています。『あ、清司さん帰ってきたのかな。でもまだ21時過ぎだな。まぁいいか。』そんなことを言いながら、住吉さんは電話に出ました。


『はい、お待たせしました住吉です。』それまで寝ていたとは思えないような、歯切れのいい口調で住吉さんは電話に出ましたが、受話器から聞こえたのは、アルバイトの慌てふためいた様子の声でした。


アルバイト:『住吉さん!住吉さんですか?君枝さん、つながりました!』


住吉さん:『どうしたの、ちょ、ちょっと落ち着いて。何があったの?』


アルバイト:『清司さんが!お客さんと・・・!君枝さん!警察に電話してください!』


住吉さん:『警察?どうしたんだ!?大丈夫ですか!?』


アルバイト:『とりあえず来てください!早く!』


そういうと、恐らく子機で電話していたでしょうか、ガタガタッという落ちるような音と、ひどい雑音が住吉さんの耳を刺しました。何が何だか分からない状態ではありましたが、とりあえずお客さんと清司さんが揉めているらしいということと、『警察って言ってたから誰か怪我人でもいるのかな』と不安な思いに駆られました。急ぎ過ぎてシートベルトも上手く締められないままエンジンをかけた車を、住吉さんは清司さん夫妻のコンビニへと走らせました。10分ほどで到着できるはずですが、先ほどのアルバイトの緊迫した声が頭の中でこだましています。


何度か信号無視をしながら住吉さんは車を飛ばして、コンビニの駐車場へ斜めに停車すると、店の中をチラッと見ましたが、人影らしきものは見えません。車を降りると同時に、『あなた、ちょっと!』と叫ぶ英恵さんの声が聞こえます。これはただ事ではないなと察した住吉さんは、急いで店のドアを開けました。声のする方向に歩いていくと、住吉さんは自分の目を疑いました。


そこには血まみれの清司さんと、その清司さんを抱きしめて話しかけている英恵さん、バックヤードの奥でガタガタ震えているアルバイト数名の姿がありました。


『何があったんですか!?』


住吉さんは清司さんの目の前にしゃがみこんで、うつむいた清司さんの顔を覗き込みましたが、清司さんは放心状態で細い息をしているだけです。ただ、住吉さんはその瞬間に違和感を覚えました。それは、清司さんの体は血まみれですが、どうやら本人は怪我をしていないようです。


『英恵さん、何があったんですか?説明してもらえませんか?』住吉さんが少し大きな声で英恵さんを訪ねると、『私が帰ってきたら店の中から悲鳴が聞こえて、な、何事かと思って中へ入ったら、こ、この人が血まみれで店の棚をバンバン叩いていて。どうやらお客さんと揉み合ってたみたいでお客さんが怪我をしていたから、先に来ていた君枝がお客さんを、びょ、病院に連れて行ったらしいんですよ。』気が動転しているらしく英恵さんはところどころどもりながらこう話しました。


『とりあえず警察を待って、アルバイトは一旦バックヤードで非難させましょう。』


住吉さんは落ち着いた口調でそう言うと、アルバイトを監視カメラのモニターがあるバックヤードへ、清司さんと英恵さんを休憩室へ連れていきました。アルバイトの話では君枝さんが病院へ行く前に警察を呼んでくれたので、そろそろ到着するはずだとのことです。


『ああああぁぁ・・・ああぁぁ・・・』


清司さんは少しかすれたような声で、言葉にならない声でうめいているようでした。

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