第2章:清司さんの独自サービス

オーナーの清司さんは、コンビニを始めて3年くらいたったころから『メニエール病』を患っていた。メニエール病は、女性に多い病気で男性が発症するのは珍しいですが、精神的なストレスから患う人が多いと言われる病気でもあるので、コンビニを立ち上げる連日の激務と、次女を亡くした時期が丁度1973年で重なったため、心労から来るものだろうと清司さんは思っていました。


メニエール病を患ってからは耳鳴りが酷く、お客さんと会話していても眩暈がしてしまうことがあり、還暦を迎えたころから老眼も進み、コンビニの営業については、奥さんの英恵さんと長女の君枝さんが主に店頭に立っていました。清司さんはバックヤードで慣れないパソコンを使いながら、帳面とにらめっこして、管理部分を受け持っていました。


清司さんが店頭に立つことがあるのは、お客さんからお中元や贈り物を注文された時でした。アルバイトが対応することもありますが、毎回清司さんはお客さんへ声をかけ『本当にありがとうね。ウチで買わなくたっていいのに。本当にありがとうございます。』と頭を下げていました。


『そんなことないよ田村さん、地域柄外に出ていく人が少ない土地だからさ、俺たちは一生田村さんのコンビニを使わせてもらうことになるんだしな。』常連の男性がそう言いました。山梨県は盆地という特性もあり、ほかの地域に比べて上京したりする人が少なく、生涯を山梨県で過ごす人が多いそうです。


『じゃあ、お預かりします。あ、今度の盆の野菜送りますから、あっちの帳面にもお願いしますね。』清司さんが常連さんにそう声をかけると、『いつも悪いね。田村さんちの長ネギは太くて甘くてうまいんだよなー。ガッハッハ。』常連さんはニコニコしながら田村さんが野菜を送るために記帳しているノートに、名前と電話番号と住所を書き込んで、アルバイトのスタッフに渡しました。

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