二十九、エピローグ
結果発表と講評を経て洞天仙会は閉幕し、
そして夜も深まった頃、
「晩酌なんて背徳的ですね! 修仙者としていいのかなぁ」
「ふふ、師尊もたまには構わないと言っていた」
目の前の机の上には珍しく、小さな酒盃が置かれている。この男は真面目そうに見えて案外そうでもなく、柔軟な男なのだ。
(なんか、いつもより大人っぽい……)
正直に言えば、自分も飲みたいのだがまだ若く新入り弟子という手前、その楽しみは将来にとっておくことにする。
「ねえ師兄。師兄は皆に優しいけれど、特に俺には優しくしてくれてる気がします。俺だけ特別扱いしちゃっていいんです?」
「なにを今更」
そして、ぽんっと
「こうやって共に食事を摂るのも、君に家伝の術を教えたのも君を特別扱いしているからだ。殊に信頼している者にしか教えないよ」
(ええええ……!! そんなの、期待してしまいますけども!)
挙動不審な
「君の中にある仙人様の力に気づいた時から、絶対に逃がさないと思っていた」
「随分、情熱的なんですね」
「意外だろうか?」
「い、いえ……はい」
「そうか」
(こんなの、まるで
早鐘を打つ鼓動が、ドクドクと鮮明に聞こる。
言いたいことを言うには今しかない。この雰囲気なら、気恥しいことも見逃してくれる気がする。
「師兄から貰ったこの鉄扇に何度も助けられたし、今日は秘術のおかげで死なないで済んだし……師兄は本当に俺の命の恩人です」
「……それは私の台詞だ」
「え?」
「君は器という形式ばった言い方をしていたが、妖魔王は君に転生したということなのだろう? 君も私の命の恩人だ」
「でも、それは前世のことだし……修仙者からすれば妖魔王は快くない存在のはず……
「今の君は立派な修仙者で、私の弟弟子だ。追い出すわけがないだろう」
凛と真面目な声で告げられ、
「……妖魔王が仙界から戻ってこないとなると、妖魔界が天地を揺らして騒ぎ出すかも。そうなったら助けてくれます?」
「ふふ、その時は私がなんとかしよう」
「なあ
「……師兄、酔ってます?」
「よっていない」
そうはいいつつも、
思わぬ告白に、
(こ、恋だって!?
先程から
ちらりと、
それは気になるけど、でも、他の人には知って欲しくない。作者ですら知らなかった一面。これは転生後の自分だけの特権だ。
(俺が死んだらどうなるんだろう……
「もし、もしもですよ。俺の自我が消えちゃって、元の妖魔王として復活してしまった時は……彼が仙界を滅ぼさないように、非道に走らないように抑え付けてくださいね」
「……わかった。しかし、君が消えてしまうのはとても辛い」
「その時は俺のために悲しんでくださいね! でも、俺は死ぬ気も手放す気もないから、このお願いは不安解消のための自己満足です!」
目に見えて分かるほどしゅんとする
「師兄にも、妖魔王にもわるいけど、俺は俺として生きていきます! 絶対死にません!」
「その意気だ。君が他でもない"
あまりに優しい笑みを浮かべる
転生しなかったら、自分が妖魔王の器じゃなかったら、今こうして
(最初は不純な動機もあったけど……今は他の何よりもはっきりとした、願いがある。心の底から
「師兄、見てください! 綺麗な月ですよ……!」
そして、暗闇を照らすその光に、転生してから幾度目かの"カミサマありがとう!"という感謝の言葉を送るのだった。
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます