レヴンズスクエア
黄緑ドリィ
プロローグ
第1話 レヴンズスクエアというレストラン
夕方5時。お店を開ける時間だ。
チリンチリン……
木製の入り口のドアを開け、札を「あいてます」に返す。
もう冬場も近い。店長の特製Tシャツ(結構可愛い)にエプロン姿の私の腕に、冷気が沁みる。
(この制服いいよね、センスがある)
なーんて心の中で呟いたりしながら、仕事を始める私だ。
「レヴンズスクエア、本日も開店しました!」
―――
瞬く間に動き始める店内。
床から天井まで全面が木材で覆われていてオレンジの電球に照らされた温かい雰囲気に、4人がけのテーブル席が4つとカウンターが6席。狭い店だが、路地裏の奥という立地のせいか客は多くはなく、あまり窮屈には感じない。
「梨々ちゃーん、お水もらえる?」
「あ、わかりましたヨシノさん!」
その代わり常連さんは多い。当たり前だよ!こんな素敵な店、もう一度来たくなるに決まってる!
「しかしよー、
「間違いない。店長だけじゃ限界があったよ。いい人なんだけどね。」
「えー?嬉しいです!あ、これ、生姜焼き、は、……誰でしたっけ?」
「あ、僕だよー」
「そうだナツメさんだ!はいどうぞ〜」
そう、私、
「ヨシノさん水でーす。」
店長が奥の方で鍋を振るう音や、ナツメさんたちの話し声に、グラスを置く音がかき消される。
「ありがと!あ、梨々ちゃん、トリ焼きお願いできる?」
「わかりました!てんちょー!トリ焼き一つ!」
くるりとカウンターの奥に向かって声を張る。
「……(ジュ~)(カチャカチャ)」
「あはは、相変わらずですね、店長は。」
「あれが良いんだよ。梨々ちゃんもそのうちわかるって!」
「そんなもんですかねー」
レヴンズスクエアの従業員は2人。私と、店長だけだ。店長も結構若い。顔は悪くないのに、かなーり無口で、なよなよしている。けどとっても優しく、総合的に考えると最高の店長といっていいだろう。
「でもヨシノさんとはよく喋りますよね、店長は。」
「まぁ知り合ってから長いからね〜」
「店長って、心開くんですね……」
この後ろで結んだ髪型が似合うスポーティな女性がヨシノさん。毎日のようにここに来ている常連さんだ。カウンターの右端が定位置になっている。
「……(コトリ)あ、トリ焼き……」
「はいはーい!」
トリ焼き。近くで取れたという真っ赤なよくわからないトリを豪快に捌いてじっくり煮込んでから味噌風味に焼いた一品。ヨシノさんの「いつもの」だ。
(もう匂いだけでウマいってわかるよね)
運びながら、思わずそう感じる私。店長の料理は、はっきり言って絶品中の絶品だ。いつ見ても適当に鍋を振ったり変な色の食材を刻んだりしかしていないのに、何故か異常にウマい。
「はい、トリ焼きでーす」
トリが重たいからか、今度は喧騒の中でもはっきりとゴトンと置く音を聞けた。
「ありがと!(モグモグ)……(*^ ^*)」
至福の極み、といった表情だ。
自分が作っているわけではないのに、とりわけヨシノさんのこういった顔なんて飽きるほど見てきたのに、やっぱりお客さんが料理を喜ぶ姿を見ると、嬉しくなる。
優しい店長と、心地よいお客さんたち。
私はこの奇妙な店で働けるのが、幸せなのだ。
……でもいったい何が奇妙なのか?
料理のことではない。ご覧の通り、味付けは至って普通。普通すぎて話のタネにもならない。
確かに料理の素材はちょっと、というかかなーり変だが、もしかしたら私が知らないだけかもしれない。
店の空気でもない。お客が少ないのに賑やかで、温かい雰囲気を保てているのはある意味で奇妙ではあるが、広い世界を全力で探したら少なからずそういったお店は見つかるだろう。
でもこの店は、お客さんが……
バキャッ!!!!!!(ヂリッ!)
突如店内に響く、何がが折れる音。
(この音は……【予想】入り口がベルごと壊された音?)
恐る恐る目を向ける私。
「は、はわわ……またやっちゃいました……」
見覚えのある女の子のお客さんが、ガタガタ震えながらドアがあったはずの場所に立っていた。どうやら私の【予想】は当たっていたようだ。
「どーしたのそんなに震えちゃって、寒いの?」
「は、はい……寒くも、あります……」
おー、咄嗟のジョークで場を和ませるヨシノさん……オトナだ。憧れる……
それはともかく、この状況!これこそが奇妙なのだ。こんな可愛い女の子が扉をいとも容易く破壊するなんて、普通はあり得ないだろう。
でも、この店ではあり得るのだ。
なぜならここ、レヴンズスクエアは、人間にそっくりな謎の生命、「レヴン」が集まるレストランなのだから……
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