共通ルート完了。


ーー共通ルートが完了しました。



「は?」


白木との放課後デートをした翌日の朝、突然頭の中でそうアナウンスされた。


「..いや、言う相手間違ってるぞ。」


寝起きの頭ながらも、そのアナウンスが俺へ向けられるべきではないものだと呟いた。


ーー.....。


が、それがシステムに届く事はなく、アナウンスの主とコミュニケーションを取れる事はなかった。






「ーー・・ったく、何だったんだ...」


登校中、朝の奇妙な出来事を思い返していた。


確かに、ゲームのパケジャ表紙に載っているヒロインたちとの交流は一通り終え、知り合いくらいの関係性にはなったと思われる。


この世界に来て十五年経った中、今更ながらも、わざわざアナウンスする必要があると言うのはどこか腑に落ちなかった。



結局、その答えが見つからないまま学校の正門に着いた。


「ーー・・おはようっ!海道!」


すっかり挨拶運動が板についている楢崎は、朝にも関わらず元気に笑顔を振りまいていた。


「..あぁ。はよう。」


 彼女の悩みとか無さそうな真っ直ぐな笑顔に触れ、モヤモヤしていた事が霧散していくのを感じた。


「か、か、海道が...挨拶を返した、だと..」


いつも無表情で素っ気ない相槌しかしない彼の反応が信じられない、といった様子で、彼女の空いた口はしばらく塞がらなかった。



「ふっ..」


(....可愛い奴だな。)


その様子が背後から感じられ、彼女の元気一番な性格から彼は少なからず元気をもらっていた。






「...ふぅ。」


そうして、席に着き一息ついているとよく通る、もうすっかり馴染みになってしまった声が聞こえた。


「ふふっ、今日の清澄くんは機嫌いいですね。」


「悪いか。」


 彼は流し目で久留米を見ながら、からかうようにそう言った。


「..っ//..いえ、そう言うわけでは....《small》まさか昨日なんかあったんじゃ...《/small》」


 普段中々見せないような、色っぽい仕草に彼女は面を食らっており、小声で機嫌がいい理由を昨日の放課後のブラックボックスから憂慮していた。


「?」


彼はいつもの大人の余裕を醸しているような彼女ではなく、なぜか取り乱しているのを不思議に思っていると、メガネをかけたいかにも優等生のような女子生徒から恐る恐る話しかけられた。



「ーー・・あのぅ...海道さん。ちょっと良いでしょうか」


「なんだ」


「ひっ...」


一応機嫌は良くとも、そこそこ気心知れている久留米たちくらいしかそれを感じ取れないため、強面の彼は彼女を怖がれせてしまった。


「こらっ、清澄くん。脅かしちゃ、めっよ。」


すかさず久留米は彼の肩を叩き、子供を叱るように人差し指でバッテンポーズを示していた。


「はぁ....お前なぁ」


流石に理不尽すぎて、彼は眉間を手で抑えていた。


「....ぇ..」


彼らの様子を見ていた発端主は、驚いた様子で目を見開いていた。


「それで、用件は何だったの?奈緒子ちゃん。」


「え、えぇ...海道と篠蔵くんだけ、進路調査表を出していなかったので...」


そういって、彼女は彼に進路調査の用紙を渡してきた。


「あぁ。悪いな....はいよ。」


 受け取った彼は、欄に簡潔に要項を書き終えその場で渡した。


「はやっ....うん..」


 あっという間に書き終え、渡された紙を受け取り全てかけているか確認していると、彼の意外な進路先に驚いた。


「...へぇ...なんだろう..凄いね。」


渡された進路調査用紙には、簡潔に金融とだけ書いてあった。


おそらく彼女は、その単語が指し示す意味の範囲を広さからそのような感想に至った。


「.....。」


 運よく既に叶った事をこれからの指針を示す紙に、書くと言うのは乙な体面だった。


「なになにー?....金融?....ん。」


 内容が気になった久留米は彼女が持っている紙を覗き込むと、何かに気づいたような様子だった。


「どうかしたか?」


「あの、もしかして清澄って....」


彼女の中で、この事と彼が豪華な設備が整った邸宅に一人暮らししていること、そして、彼は肉体面のみならず、そこそこ頭が回ることからあることを導き出した。

 


キーンコーンカーンコーン



しかし、いつもながらタイミングが良いことに、それを言う前にチャイムがなってしまい昼まで持ち越された。



「ーー・・くぅー...腹減ったぁー」


「篠蔵っ!学食行こーぜ。」


「おうっ!」


「きゃー、今日。マリトッツォ売店で売ってるんだって!行こ行こっ!」


午前の授業を終え、教室内の空気は弛緩していた。


そんな中、彼はノートを整頓している白木が目に入り、体が勝手に白木の方へと向かった。



「ーー・・白木。飯食おう。」


「っ..うん//」


 友達同士だったら、当たり前のやり取りでさえも白木にとっては嬉しいものだった。


そして、白木が弁当箱を持って立ち上がった所、死角から馴染みの声に声をかけられた。



「ーー・・ふぅーん...私たちに遠慮しているかと思えば、春ちゃんとイチャイチャしてたんですね。」


久留米はしめたっ!と言ったタイミングで、からかいエンジン全開でそう言った。


「えぇ?!久留米さん!?...いちゃっ..いや..違っ...わなく...も...」


白木はお耳を真っ赤にしながら、否定していたが昨日の出来事がフラッシュバックして、確かに否定はできないなと更に顔を赤らめていた。


「まぁ、そんなところだ。」


 一方で、彼は澄んだ顔でそう言い切った。


「もっ..ぅ...海道くんまで...」


白木の当惑した様子が可愛く、ついつい久留米に乗ってしまった。


「ふっ...すまん、可愛くてな。」ぽんぽん


「あっ...ちょ...うぅ//」


 さりげなしに、可愛いと言われながら優しく頭をポンポンされた白木は、抵抗する由もなく、されるがままに大人しくしていた。



「.....。」ジィーーー


「?...どした、久留米。」


 そして、意外にも久留米は彼らの様子を静観していた。


「...うん。何でもないですよぉ〜」


彼女はどこか納得した様子で、ニヤニヤと彼らを眺めていた。


「なんだ...気味悪りぃな」





それから、なぜか一緒に昼を食べることになり、いつもの屋上へと向かった。


ギィィ


「ーー・・なっ?!どなたなのだ?そこの可愛い子は?!」


「あら...また、新しい女?」


屋上のドアから、白髪赫目のボーイッシュな美少女が彼と共に現れ、屋上に先についていた楢崎たちは困惑していたり、あらぬ誤解を抱いていた。


「いや、彼は白木春。俺の友人だ。」


「あっ...初めましてっ!」


はじめに誤解を解くため、簡単な紹介をしたが聞き逃したのか、ソフィアたちは白木に握手を求めた。


「あ、うん。よろしくね。白木さん。」


「よろしく頼むぞ。白木くん。」


「は、はいっ。お願いします//」


 差し出された手に応じないわけにもいかなかった白木は、素直に握手に応じた。



「ん...彼?」


 やりとりを思い返したソフィアは、一つ引っかかっていた。


「えぇ、そうですよ。」


ソフィアの呟きに対して、久留米は改めてそういった。


「...えっと...失礼だと思うのだけれど、白木さんは...男の子?」


「え..あ、うん。そうなるかな...ははは..」


いつもの流れに、白木は申し訳なさそうに肯定した。


「「えぇぇぇぇ?!」」


本人からの言葉にソフィアたちは驚愕していた。


「本当なのっ?!清澄っ?!」


「あぁ。」


ソフィアは今一度彼に確認したが、事実は変わらなかった。


「信じられん...」


「そんなことってあるのね..私はてっきり...」


 久留米はソフィアが言いかけたことを続けた。


「ふふっ、彼女だと思いましたか?」


「っ...ま、まぁ、そうだけど..」


「仮に、女だとしても連れてるだけでそうはならんだろ。」


「だって...なんか距離近めだし..」


 確かに、扉から入ってくる際は久留米よりも距離感が近めだった。


「っ//...そ、そうかな?」ちらっ


無意識に少々近くなっていたことに、気恥ずかしくなりながら彼を一瞥した。


「..まぁ、男同士だからな。」


「むっ...それもそうか。」


 彼の最もな発言に、ソフィアは渋々納得したようだった。



「..あ...飲み物買うの忘れた...行ってくる」


手元の軽さを感じた彼は、買い忘れた飲み物を買いに行こうとしたら、駆け込み乗車の如く遣いをか飲まれた。


「あっ!私はアイスティー!」


「カフェオレ。」


「ナタデココ。」


「お前らなぁ...ついでだ、白木は?」


 その様子に、苦笑しつつも白木のも聞くことにした。


「えっ...そんなの悪いよ...」


「「「......」」」


白木の良い子さに彼女らはジーンとしていた。


「....良心あるのは白木だけか、まぁ適当に買ってくる。」


ギィィ


「あっ..ありがと。海道くん。」ニコッ


「なっ..人聞きが悪いわね。」


「ぐっ..言い返せぬ。」


「ふふっ」


彼のグサッとくる一言に、白木と久留米以外は良心に効いていた。

 

 それから、彼が居なくなった屋上にて、はじめに久留米が口火を切った。



「ーー・・ところで、白木さんは本当に海道くんとお友達なの?」


「えぅ?!...そ、そうだけど...」


 白木は肯定しつつも、どこか複雑そうだった。


「ふぅーん。私はてっきり、行くところまで行ってるかと思ったんだけど...」


久留米が彼と白木との絶妙な空気感と距離感を鑑みて、今はそういう関係でなくとも可能性はあると言えた。


「ブッ?!」


「なっ?!」


「むぅ?...白木くんは男の子なのであろう?したら...」


 久留米の突っ込んだ発言に、白木とソフィアは思わず吹き出しそうになるが、楢崎だけ疑問符を浮かべていた。


「..なーちゃん。今はそういうのもあるよ。」


見かねたソフィアさんは楢崎にそれとなく補足した。


「ん?そういうのとは....えぇ?!いやっ..え、どうやって...ゴニョゴニョ」


察した楢崎はかなり先まで妄想に及んでおり、顔を赤らめている白木さんを時折一瞥していた。



「...くぅ..違うってば...僕と海道くんは..まだそんな...あ」


「ふぅーん、まだ。ねぇ。ふふっ..」


白木はなんとか弁明したつもりが、久留米は言葉の端から真意を聴き取った。


「えぁっ...久留米さん、あの..そういう...意味じゃ...」


「ふふ、良いのよ。春ちゃん。」ヨシヨシ


変わらず久留米さんは、なんとなく彼を知っているかのように、彼をヨシヨシしながら悠々に微笑んでいた。


「もぅ//...酷いよぉ...久留米さん...」


 白木は彼女の大人の包容力のある空気に呑まれながら、大人しく撫でられていた。



キィィ


「ナタデココは無かったから、タピオカ...?...あー、どういう状況?」


 彼が飲み物を抱え帰ってくると、そこには何故か久留米が白木を撫でているのと、顔を好調させながらあわあわと頭を抱えている楢崎、そして、一転して冷静に何か考えているソフィアがおり、屋上は混沌に照らされていた。





「白木くんは確か夏のコンクールに入賞していたな。」


「は、はい。まだまだですが..」


「そうなの?凄いわね。」


「素敵な絵だったわ。創作者の真摯さが現れてて。」


「環奈、あなた絵とかわかるの?」


「あらあら、ソフィアさん...それは心外ですねぇ〜。」


 いつの間にか久留米さんによって、混沌だった屋上は平調を取り戻していた。



「.....」


(...せっかくできた男友達が。)


 そして、見事に俺は孤立していた。


 

キーンコーンカーンコーン



「ははっ、何いってるのよ...って、チャイムなっちゃったね。」


「うむ。時間か」


 彼女らは足早に教室へ向かって行ったが、一人だけ空に浮かぶラピュタが隠れてそうな雲を眺めていた。


「..あれ、清澄行かないの?」


もうみんな先に行ってしまい、残ったソフィアが彼に話しかけるが、一向に動こうとはしていなかった。


「ん...あぁ。」


 彼は今しか見れない蒼い空を見上げるあまり、心ここに在らずといった様子だった。


「.....」


ソフィアは釣られてどデカい雲が浮かんでいる蒼い空を見上げる。

 

 空なんていつでも眺められるし、関東であれば晴れてる日なんて冬でも秋でもなんら珍しいことではない。

それでも、彼はそれをわかっていて今しか見れない、かけがえのない平和な景色をのんびりと眺めていた。


ストンっ


「...もう少しここにいようかな。」


 彼女はそういって、のんびりと空を眺めている彼の隣に座った。


「...懐かしいな。」


「?」


 ふと呟いた彼の一言に、彼女は顔をコテンっとさせ彼に向いた。


 彼は目線だけ彼女を一瞥させ、続けた。


『ソフィアと初めに会った時も、こんな感じだったなと。』


 彼女と会った初めの日も、今日みたいな青天霹靂な良い天気だった。


『ふふっ...えぇ、そうね。』


 彼女は久しぶりに母国語で話しかけられ、初めて会った時の衝撃と嬉しさを思い出した。


そうして、何を交わさなくとも、ゆっくりと今に耽ってい中、彼はふと思ってたことを話した。



『...日本の生活は楽しいか?』


『えっ、何よ急に..』


 予想してなかった質問に、彼女は少しビックリするが空を見上げながら今までの時間を振り返っていた。


『...うん。楽しいわ、初めはどうなるかと思ったけれど、時々意地悪な環奈に、真面目すぎるけど面倒見がいい先輩ななーちゃん。そして今日も、可愛らしい白木ちゃんとお友達になれて、毎日楽しいわ』ニコッ


『ふっ...そうか。』


 楽しそうに語る彼女に安心した、彼は優しく微笑みながら相槌した。


「っ///....ほんと...ずるっ..」フイッ


 彼女も初めて見た、いつもキリッとしている様子からは予想できない優しい微笑みに、彼女はノーガードで心を酷く打たれ、紅潮した顔を隠すように顔を逸らした。


「?....変なやつだな。」


急に顔を逸らした彼女を不思議に思っていると、しばらくして、彼女は意を決したようにこちらに向き直った。


「...とにかくっ!あの時、清澄が話しかけてくれなかったら、今はなかったかもだから...ほんと...あり、がと///」


面と向かって誰かに感謝を伝えるのは、誰でも恥ずかしいが真面目な彼女は目を時折逸らしながらも、彼と向き合って感謝を伝えた。


「あぁ。どういたしまして。」ニコッ


 彼女の精一杯な思いを察し、彼は真摯に受け止め、またもや罪深く優しく微笑んだ。


「っ//...う、うん。」ニコッ


 彼女は気恥ずかしさを抑えながらも、素直な笑顔を彼へ向けた。


 昼食をとり終えた丁度この頃、スパイク血糖値の乱高下に弄ばれ、授業を受けている生徒達が眠気に転がされている中、程よい陽に照らされた屋上では、ささやかながらも心地の良い空気がゆったりと流れていた。




「ーー・・あっ、聞き忘れた。」


 一方、彼のいない教室で、午後の授業を受けていた久留米は彼に聞こうと思っていたのを忘れていた。






後書き


青鷺 奈緒子 あおさぎ なおこ 165cm 48kg

青髪、三つ編み。クラス委員長。

成績優秀。真面目



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