006

「……てなことが今ありまして!」


「マジ? ついに車椅子の君とお知り合いに?」


興奮気味に語る陽茉莉に、結子は興味津々とばかりに囃し立てる。


「ヤバかったです。めちゃくちゃかっこよかったです!」


「おおー、陽茉莉ちゃんの推しメン。で、名前は?」


「名前……? あっ、そういうこと何も聞いてないや」


「ちょ、せっかくの好機を逃すとは。そういうとこ大事でしょう?」


そういわれるとそうなのかもしれないが、陽茉莉にとってみたら憧れの車椅子の君と話ができたことだけでもう大満足だ。別に最初から連絡先を聞きたいなどという希望は持ち合わせていない。


「いやー、あの空気に触れただけで大満足です。勇気出して声かけてよかったです」


「それだけでいいなんて、陽茉莉ちゃんって安上がりよね」


「そうですかねぇ? でもこれでまた見かけたら声かけられるかも。おはようございますって」


「肉食なのか草食なのかわかんないわー」


その後は客が来店したため、二人は通常の仕事に戻った。


次に見かけたらきっと挨拶をしよう、いつかレトワールにも来てくれないかな、などと淡い期待を抱きながら陽茉莉は仕事に励んだ。


そしてそんな淡い期待は外れたまま月日は流れ、今に至るのだ。


「でもさ、向こうも陽茉莉ちゃんを訪ねてきたってことは、脈アリなんじゃないの?」


「脈アリですか……」


うーん、と陽茉莉は考える。

脈アリ云々よりも、せっかく訪ねてきてくれたのに会えなかったことの方が申し訳なく思う。


もし仮に亮平が陽茉莉に脈アリだったとしても、だったら何故今さらとも思うわけだ。車椅子を押してから随分と月日が経つというのに。


「私、会いに行ってみようかな?」


「マジ? 陽茉莉ちゃんやっぱり肉食?」


「いやいや。水瀬さん、きっとレトワールのお菓子食べたかったと思うし。レトワールのこと知ってもらいたいし」


「……それってレトワールの営業じゃん?」


至って真面目に考える陽茉莉を、結子は呆れながらクスクスと笑った。


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