第93話 テンプレの予感

「これが王都の商業ギルドに持っていって貰う書類と荷物です」


 神無月さんは封書と木箱を目の前に下ろす。


「箱の中味は?」


「は?」


「神無月さんは信用しているけど、商業ギルドはまだ信用してないのよ。それに、事前の中味確認は必要でしょ?」


 ないとは思うけど、中味が入れ替わっていたり抜かれていたりするとこちらの信用はガタ落ちだからね。


「分かりました」


 神無月さんはそう言って運んだの蓋を外す。


「Aランクの魔石が3個。アイアンボアの牙が2本。オークの睾丸が1組ですね。あります」


 神無月さんと一緒に中味を検品して、木箱にダックテープで封印をする。


「なんですか、それ?」


「テープという密封と固定を行う・・・布ですね。まあ、固定出来るのは紙だけで、今回は箱を密封しているだけですが・・・」


 ビッとダックテープを木箱に張りベリベリと剥ぐ。剥がれたダックテープは吸着力を失い木箱に張り付かない事を見せる。


「まぁ、中味は触ってませんって見せてるだけですね。使い方は他にもありますが・・・お試しになります?」


 神無月さんはぶんぶんと頭を縦に振る。


「はい。じゃあお預かりします」


 封筒と木箱をスペースにしまい込み、商業ギルドを後にする。

 冒険者ギルドにも顔を出すが、こちらは王都の冒険者ギルドに届ける書類があったので、一回り大きな封筒に入れてダックテープで封書にする。

 こちらでもダックテープに興味を持たれた。粘着力がある金属光を放つ布のようなモノ・・・興味引くよね。

 書類をスペースに預かり、冒険者ギルドを後にする。


「出発ね!」


 門の外で待ち構えていたシャーロッテさんが音頭を取って王都に向けてバギーを走らせる。

 魔石電動のバギーなので騒音が気にならないのはいいことだ。

 徒歩で旅する人をスイスイ追い抜いていく。そのときの旅人の顔は結構笑えるものだったけど・・・間違いなく噂になるだろう。

 駐屯地からウジナは旅人とか居なかったから噂にはならなかったけど、こっちは王都に行く者も王都から来る者もそれなりにいるからね。


「目立ってるね・・・」


 お気づきになられましたか?


「スピードが段違いですからね。それだけでも目立ちますよ」


 同行していた田中さんが突っ込みを入れる。馬とかよりも遥かに早いもんね。


「目的地についたら異次元の扉に仕舞えますから盗難を心配する必要は無いけど、売ってくれって言われるとは思いますよ?」


 間違いなく・・・


「売れないでしょ?いくらなんでも」


 シャーロッテさんは苦笑いをする。まぁ魔導具を買えるお金持ちだアフターケアとか考えるとトラブルの種にしかならないもんね・・・


「さて・・・いますね」


 道の脇、森の中にスキル気配察知に引っかかるものがある。


「カイヤ。偵察お願い」


「うぃ」


 パタパタとカイヤが空を飛んで行く。


「多分、野盗の斥候だと思うんですけど・・・」


 田中さんに判断を仰ぐ。


「こういう時、異世界モノでは野盗を殲滅してお宝を簒奪するのがお約束テンプレです」


「田中さんなら、お仕事的に治安維持って理由でいいと思います」


「それだと簒奪できない・・・」


「押収品ですよ。後はこちらの法に従う」


 そう提案する。異世界モノの定番だと、貴重品は持ち主が買い取りそうでないモノや貨幣、宝石は討伐した人の総取りだ。


「商人か貴族が襲われているのを助けるというお約束テンプレも捨てがたいが・・・」


 それは斥候がいた時点で望み薄いと思いますが。


「斥候がいたということは、程なく目的のものが通るということですね?」


 シャーロッテさんがそれらしいことを指摘する。

 なら少し待つか?


「少し行った所で休息しよか・・・」


 田中さんの提案に乗って、少し行った所でバギーを降り、簡単な竈を作りお湯を沸かす。

 自分は疾風、チビ、紅桃、ペンタントちゃんを田中さんはコボルトのポチをシャーロッテさんはパペットの木人トムを召喚する。


「主!森の中に人間の集団がいるぉ。数は20」


 へぇ・・・結構いるな。明らかに襲撃態勢を整えている。


「田中さん。野盗とはちょっと違うかもしれません。数が20って、結構多い・・・」


 田中さんに報告する。


「20ね・・・野盗退治の報酬が楽しみだ」


 田中さんはいい笑顔を浮かべた。

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