第38話 レイドへの参加要請

「あ、九竜美里くりゅうみさとさん。少しよろしいでしょうか?」


 自衛隊ダンジョンの開拓者ギルドに来ていた自分を呼び止める声がする。


「はい。なんでしょう?」


「九竜さんは薬師のスキル持ちでしたよね?」


 声を掛けてきたのは制服を着こなして、バリバリのキャリアウーマンって感じの開拓者ギルドの職員だった。


「はい。一応、中級薬師にはなれるほどの熟練度は持ってますが・・・」


 テイマー職が取れたから今はそっちを優先して、中級薬師は育てていないのです。


「ですが、今はテイマー職を優先的に育てています」


 なので素直に現状を話す。中級テイマーになればテイムした孑たちをレベル以上に強化出来ます。薬師レベルを育てるよりよっぽど優先すべきなのです。


「なるほど・・・今お時間はありますか?ギルドから依頼したいことがありまして・・・」


 ギルド職員の視線で開拓者ギルドの談話室を示される。あきません。これは逃げられないやつです。


「はい・・・」


 おとなしくドナドナされる。


「実はですね。急遽、回復ポーションがしかも大量に必要になったこと、あと薬師スキルを持っている人に手伝って貰いたい事態が発生しまして・・・」


 ギルド職員さんは困ったような顔をする。


「回復ポーションの納品を増やせと?」


「ギルドへの貢献度は普段の三倍。買い取り額は二・五倍。あと、指名依頼として、五日ほどこちらが指定した場所でのポーション作成をお願いします」


「5日の拘束と場所指定ですか?まさか縛りダンジョンの攻略・・・」


 かなり奇妙な依頼にピンときたので、そう指摘する。どうやら県内で新しくダンジョンが発見されたが、そのダンジョンが攻略に制限が掛けられたダンジョンと言うことだった。


「そのダンジョンは瀬戸内海の小島で、回復呪文禁止。鬼人種がメインのダンジョンです」


「まるで鬼ヶ島ですね?」


 攻略チームに回復役が入れない、モンスターが鬼人種。場所が瀬戸内海の小島ということは桃太郎がモチーフと考えたほうがいいです。


「薬師をかき集めているのはなぜです?」


「レイドなので、一度ダンジョンに入れば外からの補給が出来ません」


 レイドというのは複数のパーティーで挑む攻略戦のこと。ということは鬼ヶ島は迷宮型ダンジョンではなくフィールド型。鬼ヶ島というならそれに砦があるタイプだろう。

 回復役がいない上に外からの補給が出来ない。そりゃあ薬師が必要だわ。


「つまりレイドへの参加要請ということですか?」


 自分の質問にこくりと頷く職員さん。島に出来たダンジョンなので放置してスタンピードが起こっても大したことはないだろうが、そういうダンジョンが管轄区域に存在しているというのもギルドとしては体裁が悪いということだ。まあ、スタンピードが発生したときに放置するにしても脅威度は調査しておかないとマズイということでしょう。


「しかしなぜ自分なのでしょう?」


「九竜さんがテイマーで既に4体を従えているのが理由です」


 そう説明する職員さん。どうやらレイドメンバーにテイムモンスターは含まれていないらしく、水増しが可能らしい。

 自分はテイマーとして三体の戦闘型と一体の補助モンスターを保有しているので是非とも参加してほしいということらしい。レイド戦で三体の戦闘型が追加召集出来るのは確かに美味しい。レイドに参加する生産者はダンジョンの外苑。いわゆるレベルの低い所で待機だから、護衛役として期待出来ると踏んでいるらしい。まぁ、うちの子たちは弱体化したとはいえ上級ダンジョン中層まで踏破するレベルなので護衛としては十分だろう。


「レイドはいつを予定しているのでしょう?」


「15日です。当日ここに来て貰えればそこから先の交通手段はこちらで用意します」


 ちなみに鬼ヶ島ダンジョンの場所は教えて貰えなかった。

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