第35話 原爆ドームダンジョンその5

 シオンさんから結界結晶と呼ばれる結界を起動させる魔導具を受け取ると、指定された場所に向かう。

 指定された場所といっても、ただ広い平野にロープで区切った囲いがあるだけだ。


「へぇ・・・これが結界」


 隆司くんが区切られた場所に手を差し出して呟く。端から見るとパントマイムをしているみたいだ。


「テント建てるよ」


 結界内に入ってスペースから開拓者ギルドで借りたワンタッチタープテントを取り出して建設する。

 テントと言っても屋根とそれを支える支柱。そこに支柱と支柱を囲うように壁布が張り巡らされるという簡単なもの。

 まあ、ここには結界があるので、周囲から視線を遮るものであればテントである必要はないんだけどね。


「中に寝袋を置いてテント前にコンロ置いて・・・準備完了と」


 キャンプセット袋と書かれた袋から寝袋やらカセットコンロを取り出す。

 スペースのスキルの面白いところは、袋に入れればどんなに多くの種類を詰め込んでも一個とカウントされること。

 なお、スペースはレベル1で3m×3m×3mの立方体を10個持てるスキルなので、水なら30トンの量が運べるらしい。

 近年では地震や土砂災害の被災地での物資輸送や瓦礫撤去に駆り出されている。

 まあ、収納した泥水や瓦礫が瞬間的に分別までされるのだから便利よね。

 だから、スペース持ちは年に1回、近くの海岸美化のは清掃活動に駆り出されることがある。開拓者ギルドへの貢献値は得られるけど実に面倒くさいです。


「うちの子たちは寝る必要がないから夜通し番をするけど、人間の方はどうする?」


「夜9時から3時間おきに交代。朝の6時に出発かな?」


「今回は野営の練習を兼ねているからそれでいい」


 隆司くんが頷く。


「じゃあ順番はどうする?2番目が一番きつそうだけど」


 心ちゃんが指摘する。確かに連続6時間と3時間2回の睡眠だと後者の方がきついだろう。


「あぁ俺が立候補するよ」


 隆司くんが立候補する。どうやら8月末に学校のクラブで合宿があるので慣れておきたいということらしい。ジャンケンで心ちゃん・隆司くん・自分の順番で見張りにつくことになった。



「マスター。そろそろ交代の時間です」


 ペンタントちゃんに肩を揺すられて起きる。


「おはよう」


 カセットコンロにヤカンをかけ、隆司くんと場所を交代。

 マグカップにインスタントコーヒーと砂糖を入れてお湯が沸くのを待つ。


「ゴロゴロ」


 右にチビ、左に疾風を侍らせモフモフを堪能する。


「ねぇペンタントちゃん・・・」


「なんでしょうか?」


 お湯が湧いたのでマグカップに注ぎながらペンタントちゃんを見る。


「天使とか悪魔が人と話せるのはどういう理屈なの?」


 前から不思議に思っていたことを聞く。


「そうですね・・・マスターに分かりやすく説明するなら、自動的に翻訳してくれるスキルがあるから・・・でしょうか?」


 へぇ・・・


「なんか、異世界からやって来たみたいだね」


「そうですね。ダンジョン中のモンスターは、魔石を依り代にこちら側に召喚されている・・・と言っていいでしょうね」


 なんかしれっとダンジョンの秘密を教えられたような・・・


「精神だけこちらに召喚されているパターンですか・・・ということはこちらで討伐されても問題ないってこと?」


「それはどうなのでしょう?私は死んだことはないので」


 そりゃあそうか。


「向こうに戻りたいとかは?」


「召喚された影響でしょうか?望郷の念とかは無いですから、別にどうでもいいです」


 クールだ。


「元の世界に戻る方法が無いわけでもないんでしょ?」


「ありますよ・・・例えばゲートってアイテムを使えば」


「レアそうなアイテムっぽい名前!」


 ペンタントちゃんの言葉に思わずツッコミを入れる。


「まあ、出るとしてたら確実に金箱以上ですね・・・」


 金箱以上ということは白金プラチナ箱とか金剛ダイヤモンド箱。上級ダンジョンの最下層でドロップする宝箱クラスということになる。

 ソロというか、今のメンバーだと箱自体、手に入れるのは当分先のことだ。


「詳しいんだね」


「第一階層の受け付けの先輩に詳しいのがいてね。雑談がてら教えてくれたの」


 なるほど・・・伝言板に情報を流しておこうか。検証班が色々調べてくれるだろう。

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