◇Phase 12◇

 【渓谷】


ドライアンとグレモリアが背中を合わせて立っている。

二人、天使に囲まれている。


ドライアン:くそったれ! 罠だったか!

ウル:(天使A)ふふふふふ。憐れな悪魔が鳥籠に迷い込んだようですねぇ。

グレモリア:どうするっすか先輩? これ結構やばめの状況っすけど。

ドライアン:どうするもこうするもねぇ、決まってんだろ。

グレモリア:智恵と勇気で乗り越えよう、的な?

ドライアン:力と筋肉でぶっ倒す!

グレモリア:うへぇ脳筋っすね。

ウル:(天使A)たった二匹の小鳥風情がこの私メグサ・ハーケルの包囲を抜けられるわけ無いでしょう! お前達、行きなさい!

レリア:(天使B)はぁぁぁぁぁ!

カルミア:(天使C)とぁぁぁぁぁ!

ドライアン:……ふん!

レリア:(天使B)な!

カルミア:(天使C)馬鹿な!

ウル:(天使A)剣を素手で?!

ドライアン:動きが、止まってんぞ! おらぁぁぁっ!


ドライアン、拳を振るう。はじけ飛ぶ天使。


カルミア:(天使C)うべら!

レリア:(天使B)ぐべべ!

ウル:(天使A)……ひ、ひぃ!

ドライアン:所詮は雑魚、どれだけ束になろうと同じだ。……こんなモノ、鳥籠とりかごとは断じて呼べねぇな。

グレモリア:いやいや。いつからそんなゴリラになったんすか。剣使いましょうよ。

ドライアン:こんな奴らに剣を抜く気はねぇよ。

ウル:(天使A)っく! 悪魔ごときが調子に乗って! この私を舐めるなよ! 囲んで叩き潰せ! 数で圧倒しろ! あっはははははは! この私にたて突いたことを地獄で懺悔ざんげするんだな!

レリア:(天使B)うわああああああああ!

カルミア:(天使C)おおおおおおおおおお!


天使達の突撃。

それを打ち倒すドライアン。


ドライアン:ふん! っはぁ! 遅い遅い遅い遅い遅い! るぁああああっ! はぁああっ! ……後ろだグレモリア!

グレモリア:大丈夫、見えてるっす! てやぁ! ……不意打ちたぁ卑怯ひきょうっすね、天使の旦那。

ウル:(天使A)黙れ、勝てば良いのさ!

グレモリア:ふぅん。確か天使って「勝てなきゃ生きる意味が無い」とか、なんかそういう感じの野蛮やばんな奴らでしたよね。納得っす。

ウル:(天使A)野蛮だと? 貴様らの方がはるかに野蛮じゃないか! あの悪魔の姿を見ろ、アレを野蛮と言わずして何という!

グレモリア:そんなの決まってるっすよ。

ウル:(天使A)何?

グレモリア:強く気高い悪魔の中の悪魔――魔王っす。

ウル:(天使A)ほざけ。仮にそのようなモノだとして、この戦力差をどう乗り切る? どんな手があるというのだ?

グレモリア:手? 何をさっきから分かりきったこと言ってるんすかねぇ、この天使――はぁっ!!

レリア:(天使B)ぐぁぁ!

グレモリア:おいこら。ひとが話してる途中に何攻撃差し向けてんだてめぇ。

ウル:(天使A)戦いの最中にべらべら喋ってる方が悪い。

グレモリア:それもまぁ然りっすね。けどそれ、ブーメランっすよ!

ウル:(天使A)は。貴様の相手なぞ喋りながらでも出来る。おごるなよ悪魔。

グレモリア:どっちが傲ってるんだか。先輩の言ったこと忘れたんすか?

ウル:(天使A)何を言っている? あいつが何を言った?

グレモリア:剣を抜く気はねぇ。そして力と筋肉でぶっ倒す!

ウル:(天使A)何を世迷よまいごと――。

ドライアン:うおおおおおおおおっっ!!!!


無数の天使が空を舞う。


ウル:(天使A)なっ……?!

グレモリア:片付いたみたいっすね。

ウル:(天使A)……なんだと? こちらの手勢が何人いたと思ってるんだ、十や二十じゃない、二百五十五だぞ!? 桁が違う! それを、たった、たった二体……いや一体の悪魔に……! そんな、冗談だ、悪い夢だ、そんな、そんな馬鹿なぁ!

グレモリア:ドライ先輩ってば、やっぱ寝て覚めても素敵な雄姿っす。

ウル:(天使A)ドライ……? そ、そうか、アレが悪魔――いや魔王ドライアン・ダラス! くそ……いや、しかしここでやつを仕留めればこの失態も……!

グレモリア:残りはあんた一匹っすけど、どうします? 投降……とか、してみます?

ウル:(天使A)……ふざけるなぁ! 天使は決して退かない! 天使は決して負けないんだ! うぁぁぁぁぁぁ! ……ふ、ふふ、ふふふふふふ! 見せてやるよ! この私、第十七師団団長『天空』のメグサ・ハーケル様の――!

グレモリア:っはぁ!

ウル:(天使A)な……っ?

グレモリア:長いっす。

ウル:(天使A)馬、鹿な、くそ、この私がこんな……! っく、貴様、卑怯……だ、ぞ。


天使A倒れる。


グレモリア:……憐れなやつ。

グレモリア:先輩。こっちも片付きましたよ。

ドライアン:おお。大将首任せてすまなかったな、グレモリア。

グレモリア:いえいえ、見た目通りの雑魚でしたから。

ドライアン:でも、名乗ってただろ? 天空の……目くそ?

グレモリア:何でも良いっすよそんなの。私達の愛の前では所詮目くそ鼻くそってことで。

ドライアン:ひでぇな。

グレモリア:ひでぇのはあいつらと先輩の実力差っすよ。というかいつの間にそんなに強くなったんすか? 戦い方もなんか違うし。

ドライアン:俺は変わってねぇよ。敵が、変わっただけだ。

グレモリア:ふぅん? まぁ、確かにあいつら今まで以上に死にものぐるいで、その分冷静さが足りないって言うか、ぶっちゃけ前より弱くなってますよね。

ドライアン:そうかもな。

グレモリア:……。なんか悩み事っすか?

ドライアン:いや、何でも無い。

グレモリア:なんかあったら、話して下さいね。

ドライアン:ああ。

グレモリア:このグレモリア・グリモニー。先輩の為なら、脱ぎます。

ドライアン:ああ。

グレモリア:……いやツッコんで下さいよ! ほんとに脱ぐっすよ!

ドライアン:先を急ぐぞ。

グレモリア:あ、先輩! もう、つれないなぁ。


ドライアン、懐の『羽根』を握りしめる。


ドライアン:――カルミア。俺はこの剣を抜くのが怖い。

ドライアン:いつかお前を斬るのが怖い。

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