⑦
「おお、火事があったというのに営業しているね」
大仰な事を言っておきなが、彼女は最初の火事現場を知らなかったので、私がそこに案内する事になった。
そして、今、私達は最初の火事現場でもあるコンビニに着ていた。その現場は、も
う火事の被害に遭ってから日数が経っているとは言っても、すでに営業を再開していた。
「それで、ここからは
コンビニを見ながら訊いてみる。
「うーん、もう時間が経っているからなんともなんだよね」
「じゃあ、判らないって事?」
「そうなるね」
それじゃあ、ここに来た意味がないではないか。
「お姉さんの事だから、この一件目について調べているんだろ?」
とんだ肩透かしを喰らい、落胆している私に乃兎は訊いてくる。こっちの気も知らないで。
私は、スマホを取り出すと、メモ帳アプリを起動させる。
「紙ではなく、端末でメモを取っているんだね」
「ええ。仕事上ではメモ帳を使う事もあるけど、ちょっとした事のメモなんかには、スマホでメモしているわ」
「これも、時代だね」
何だか。とても年配の方が言うみたいな事を言うな、この子は。
「という事は、この火事の事は本当に興味本位で調べていたんだね、仕事とかじゃなくて」
「………あったわ」
もしかしたら、これから仕事になるかもしれないからいいでしょ。私が、調べていたメモのページを開く。
「夜中に、火が出たみたい。火事と言っても小火程度で、火は従業員によって消火されたそうよ」
「出火元は判っているんだよね」
「ええ。フライヤーから出火したみたい。でも、発見が早かったから大事には至らなかったみたい」
「それは、良かった」
そう言いながら、彼女はコンビニに入っていく。
「ちょっと!」
私も急いで彼女の後を追う。彼女は、レジ前で従業員に話掛けていた。
「すまないけど、あんまんと肉まん、それとピザまんを一つずつで」
「かしこまりました」
従業員の女性は、それぞれを袋へと入れていく。
「何を優雅に買い物しているのよ?」
「なに、ちょっと小腹が空いてしまってね」
小腹が空いたからって、三つも買うのは少しカロリーオーバーではないだろうか?
「そういえば、お姉さん。ここで火事があったと聞いたのだけれど、大丈夫だったのかい?」
一瞬、お姉さんと言われ、私かと思い、反応しかけてしまったが、どうやら話を掛
けた相手は従業員の人だった。
しかし、意外とシビアな話題だから、警戒して話をしてくれないのではないか?
「そうなのよ、本当にびっくりちゃって!」
そんな事はなかった。そうか、この人もあれだ、あの主婦の方々と同じ空気を感じる。だって、もう顔が話をしたくてしょうがないって顔しているもん。
「お姉さんは、実際のその現場に鉢合わせしたのかい?」
「いいえ。私は基本的に、日中しかシフトに入らないから。その時は、ちょうど店長が出勤してくれていたから、迅速に事に処理出来たみたい。それに、被害もそんなに大きくななかったから助かったの、でも、その後、消防車と警察が来て大変だったみたいよ。でも、幸い、そんなに被害も無くて、こうして早くに営業再開出来たわ。でも、フライヤーは駄目になったから、揚げ物なんかの食べ物は提供できないのよね」
もう、こっちが訊く前に、全部話をしてしまった。ゲームのお助けキャラでも、こんなにヒントくれないですよ。
「他に何かあったかい?」
乃兎は、更なるヒントを引き出そうとする。
「そう言えば、一つあったわ」
「何かな?」
「飛び火した火が、商品の一つに引火したのよね」
「えっ、大丈夫だったんですか?」
「そっちもすぐに対処したから大丈夫だったみたい」
それは、初耳かも。どの、新聞にも載ってなかったし、話も聞いていない。
「ちなみに、何に引火したんだい?」
「花火よ」
「えっ、滅茶苦茶引火しちゃまずい物じゃないですか!」
とんでもない物に引火してる! てか、ここの店長凄すぎでしょ!
「ねぇ、本当に良かったわ」
その一言で終わっちゃうんだ。
「ありがとう、お姉さん。そろそろお会計をした方がいいかな」
気が付けば、店の中にはまばらであるが、お客さんが居て、ずっと話をしているわけにはいかなくなっていた。
「あら、ごめんなさい。話過ぎちゃったわね」
ええ、本当に。
乃兎は、財布から現金でお会計を済ませると、商品を受け取る。
「あっ、そうだ」
このまま退店するかと思いきや、彼女は人差し指を立てる。
「最後に、一つ訊いてもいいかい」
そう言って、ある事を質問していた。
「次はどうするの?」
私達は、公園のベンチに座って休憩していた。というのも、乃兎が買ってきた物を食べる為に良い所はないかと訊いてきたので、ちょうど近くに公園があったので、ここで休憩する事になったのだ。
しかし、本当に美味しそうに食べる。私の一つぐらい買っておけば良かったかな。
「ほうはね」
「せめて、食べてからにして」
「……失礼。そうだね、順当に行けば、次の火災現場に向かうのが筋だろうね」
まあ、そうなるのは当然の流れだ。
「そこに向かう前に、キミの情報を聞こうか、霧子君」
「はいはい」
霧子君だなんて、呼ばれたのは生まれてから、初めてだが、彼女に言われるのは不思議と悪い気がしなかった。私は、促されるままに、スマホのメモ帳を確認する。
「二件目は、飲食店よ」
「有名な所なのかい?」
「いいえ、どこにでもあるチェーン店よ」
凄く安くて、ちょっとした休憩に最適なのよね。本当に出来た良かったのに、あんな事になるなんてって思ったのよね。
「そこは、さっきコンビニのように小火だった」
「そうね。規模的に言えば、さっきのコンビニよりも被害がそれなりにあったみたい。そこは、この前通りかかった時、店が休業していたから行っても、店は閉まっている可能性は高いわ」
「となると、従業員に話を聞くのは難しそうだね」
やっぱり、訊くつもりだったのか。
「三件目は?」
「三件目は、雑貨屋ね。ここは、先日の四件目と同じく、店が全焼してしまっているわ」
そうこの三件目から、事故が事件へと移り変わった。そして、私も本格的に調べようと思い立ち行動し始めた。
「二件目までは判るけど、三件目の雑貨屋で火事というのは中々に珍しいね」
「そこが不思議な所なのよね。それで、警察からも詳しい出火元は不明で、発表もなかったから、もしかしてって噂が立ち始めたのよね」
そこから、警察も一件目と二件目も改めて調べ始めたから、その噂が噂で無くってしまった。
「ちなみに、その噂って、放火の疑いがあるって事かい」
「そう。実は全部が人による物だとか。そういえば、不審者がうろついていたとか、色々とね」
「本当に噂ってやつは厄介だね。でも、話を聞いてみて、一件目は少なくとも、人によるものではない、ただの事故の可能性が高いね」
「それは、私も実際に話を聞いてみて、そう思ったけど、あなたの言う創想像のせいの可能性はないの?」
未だに、半信半疑ではあるのだが。
「うーん、時間が経っているっていうのもあるけど、創想像の気配は無かったからね。完全にその線が消えたわけじゃないけど、ただの事故の可能性が高いかな」
「って事は、二件目か、もしくは三件目からがそのせいって事?」
私の言葉に、ピザまんを頬張りながら頷く。
「だとすると、やっぱりその現場に行ってみないとね」
「しょのひょうり」
「だから、食べてから返事してくれる」
彼女は、結局その場であんまん、肉まん、ピザまん三つを全て平らげてしまった。
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