第148話 久しぶりの野良
『マスター! 起きて下さい! 緊急事態です!』
リユの声に反応して、ガバッと勢いよく身を起こしてみれば。
『おはようございます、兄貴! 近隣の調べ、終わりました!』
下っ端よろしく、genjiからも通話が入っていた。
あのですね、朝から騒がしい。
リユだけならまだしも、もう一人のテンションも高い。
などと思ってしまうが、彼はそのまま言葉を続け。
『車屋の情報を調べて来いって話でしたよね? 以前の特殊クエストにより車を購入する奴が多数、バイク屋も同様みたいです。やけに速い車を求めていたって話なんで、多分間違いないっすね。帳簿もちょろっと覗き見してきました。でもそれ以上に、盗み出す馬鹿も多いみたいです。そういうプレイヤーの被害が出ていない店を調べておきました。買うならそっちの方が良さそうっすね。どうぞ、此方です』
態度と雰囲気の割に有能なのか、すぐに車を購入できる店の一覧の情報を送信してくるゲンジ。
あ、俺が欲しがってた車が置いてある店もリストに載ってる。
未だ若干寝ぼけた頭で、彼が送って来たデータを眺めていれば。
『俺のお勧めは、オレンジ色のスー〇ラです。店先に飾ってあったんですけど、状態も良さそうっすよ』
「昨日仲間に断られたわ、ソレ。派手過ぎるから駄目だって」
『む、無念……』
と言う事でこっちに戻って来て一日目、無事翌日の朝を迎えられるのであった。
こういうのも、やっぱり心配事のある生活だと貴重――
『マスター! 限定車が出てますよ!? コレは買わないと駄目でしょう!? 早く、早く! 購入ページに! 今ならお高くて速い車に乗れますよ!?』
滅茶苦茶急いで起こしたリユに関しても、似たような内容だったらしい。
お前等、ふざけんなよ?
買わんわ、高いわ。
という事でもう一度毛布を被ってみれば。
『兄貴! 兄貴ぃ! どうっすか!? 仲間にしてくれます!?』
『マスター! 限定車ですよ!? 今じゃ買えない車なんですよ!? このタイミングで買わなくてどうするんですか!?』
「あぁもう、うるさい……」
枕元にリユを放り出し、もう一度目を閉じるのであった。
とりあえず、ゲンジが問題のあるプレイヤーで無くて良かった。
感想としては、それだけである。
昨夜も理沙さんに対して、あまり興味ないであろう車の話を散々した挙句。
相手には寝落ちされてしまったのだ。
あまりこっちの意見ばかり通すのはアレだろう。
でも、ちょっと乗ってみたいなぁ……いや、流石に目立つか。
※※※
「随分と増えたな……」
『全体的なプレイヤー数がというよりも、“攻撃的なのが”と言った方が良いんでしょうけどねぇ』
その日の夜、以前同様街中に踏み出してみれば。
サーチを掛けてみると、相手に困らないんじゃないかって程にそこら中で戦闘が繰り広げられている様だ。
デイリークエストとやらに“三回以上の対戦”なんてふざけた項目が出ているので、今日は特に多いのかもしれないが。
ついでに言うと、ゲンジにも周囲を探索してもらいつつプレイヤーをおびき出す餌役をやって貰っている。
戦闘面で、彼がどれ程役に立つかというチェックの意味でもあるが。
そんな状態で人の多い場所へと足を運んでみれば。
『兄貴、“強襲”が入りました。俺の位置マップに映ってますよね? フレンドリストから確認して下さい』
「了解、見つけた。すぐそっちに行く」
『お願いしまっす、俺はこのまま隠れてますね』
彼の報告を得て、此方もRedoにログインするのであった。
街中の人々は消え、周囲が一気に静かになる。
しかしながら、本日は。
「ホント、そこら中に居るな」
建物の上を移動中、チラッと適当に視線を向けてみれば。
簡単にプレイヤーが見つかる程、そこいらに鎧を着た者達が動いている。
これでは探知阻害を持っていないプレイヤーは、冗談抜きに一晩中戦う事になりそうだ。
ゲンジもその一人な筈なのだが、彼の場合は逃げ隠れが最も得意とする所。
現場に到着してみれば、アイツを探しているのであろう“臭う”プレイヤーが三名ほど。
「よぉ、誰をお探しかな?」
そんな声を上げつつリユのカメラを相手に向けてみれば、結構なキルログが確認出来た。
なんて事をやっていれば、相手は此方にすぐさま武器を構えてから。
「問答無用か……」
声を返す事もなく、急に銃を乱射して来た。
回避行動を取りながら接近を試みれば、相手パーティの前衛が大きな盾を持って此方に突っ込んで来る。
その背後にはもう一人ピッタリとくっ付いている御様子で。
前面のタンクを回避、または正面から受けた際には追撃が来るのだろう。
なかなかどうして、パーティとして戦い慣れている連中みたいだ。
という事で前から迫る相手の盾に蹴りを叩き込み、後ろの奴もろとも押し返してみれば。
「オイオイ、マジで良い連携だな」
前衛が崩れた瞬間再び銃弾の嵐。
印象としては普通、という感じではあるものの。
確かに戦い慣れていると感じられる動きをしている。
「こいつ結構強ぇぞ! いつも以上に警戒しろ!」
「もしかして賞金首か!? ハハッ! クエストの為に関東に来てみりゃ、大当たりじゃねぇか!」
おや、どうやら彼等は地元の人間ではないらしい。
確かにRedoで今までに発生しなかった特殊クエストなのだ。
稼ぎ時と考えたり、興味を持って遠征してくる奴も多いのか。
コレはまた……面倒だな。
更に相手は腕に自信があるのか、それとも賞金首との戦闘経験があるのか。
臆するどころか、余計に攻撃の手を強めて来る。
他所からクエストの為にわざわざ不慣れな地に訪れる程だ、それくらいの実力者じゃないとこんな事はしないか。
「んじゃ、“とっておき”出しときますか!」
なんて台詞を吐いた相手は、それぞれが別の武器をコンバートし始める。
後衛は、実際にソレは存在するのか? と聞きたくなる程馬鹿デカイガトリング砲を。
アタッカーは昔流行ったホラーゲームにでも出て来そうな、人間さえ真っ二つに出来そうなハサミを。
更にタンクは、アイアンメイデンかな? と言いたくなる棘の付いた両開きの扉の様な形をした盾を。
最後のはアレか、開けば盾が広くなり、挟み込めば相手は串刺しになるって感じの武器なのか。
というか大物相手の武器もちゃんと準備してあるって辺り、本当に腕利きがこの地域に集まって来ているらしい。
『どうしますか? マスター』
やれやれと言わんばかりに、リユがそんな声を上げるが。
決まっている、俺に出来る事なんて一つしかないのだから。
「正面から叩き潰す」
『でっすよねぇ~。爪、出しときますよ~』
と言う訳で、再び迫って来たタンクの盾に思い切り拳を叩き込んでみれば。
「がっ……あ、ぁ」
相手の盾より、此方の爪の方が硬かった様だ。
棘は曲がり、盾は貫かれ、拳から生えた爪は相手の胸に突き刺さった。
「まずは一人」
スクリーマーではなく、俺が表に出ていると言うのに。
そこまで大きな罪悪感は無い。
やはり俺自身、既に壊れているのだろう。
まぁ……今更だけど。
さて、久し振りに野良でソロの戦闘だ。
相手も殺しに来る以上、此方も全力で迎え撃ってやらなくては。
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