五章
第135話 渋滞
「なぁ~まだ着かないのかよぉ」
「そう言われても、こうも渋滞ばっかりじゃね」
新しくパーティに加わった“rabbit”こと、霧島雫さん。
どうにも彼女は飽きっぽい性格の様で、後ろの席から度々同じような声が聞えて来る。
前回関東に来た時は、新幹線な上に電車内で眠っていたらしく。
今回の様な車での移動となると退屈以外何者でもない様だ。
とはいえ運転手はやはり俺一人なので、もう少し労わって欲しい所なのだが。
「唐沢さんばかりに運転を頼んでるんだから、贅沢言わないの。雫ちゃんちょっと我儘が過ぎるよ?」
「うわ、何かもう姉貴気取りしてる奴が居る……」
「あと口が悪い。学校とかどうしてるの? 友達にもそんな態度な訳じゃないよね?」
「うるっさいなぁ、お前には関係ないだろ」
理沙さんがどうにか収めようとしてくれているが、どうにも霧島さんの方が反発的。
これは……大丈夫なのか? とは思ってしまうものの、傍から見るとしっかり者の姉と、反抗期の妹みたいに見えなくもない。
まぁ、彼女と共に過ごせばもう少し柔らかい性格になるだろう。
多分、きっと。
そんな訳で改めて運転に集中しようとするものの、一向に車は動かず。
参ったなホント、連休中という訳でもないのに滅茶苦茶混んでる。
霧島さんではないが、これでは飽きてしまうのも分かる。
「あの、唐沢さん。僕までこんな事を言って申し訳ないんですけど、今日はもう高速を降りてどこかで一泊しませんか? 運転手が疲れるのはもちろんですが、その……こうも車が動かない状態だと」
助手席に座った巧君が、心配そうな顔でそんな言葉を呟いて来た。
確かに、飽きる云々の前にこれはあまり良くない状況とも言えるだろう。
集中力が切れたり、居眠り運転で事故を起こしたりなんて心配もあるが。
何より、Redoの関係でちょっかいを出された場合が一番不味い。
普通に走っている時なら、一瞬通り過ぎるだけの俺達を認識し、索敵を掛け、勝負を挑むというのはなかなか難しい。
しかしこうして止まっている状態では、強襲を仕掛ける時間には十分足りるだろう。
そして何より、勝負を仕掛けられゲーム内に送られてしまえば。
リアルの方に残された車はそのままに、戦闘が始まってしまうのだ。
高速のど真ん中で、放置車両が一台。
試合中現実世界は時間停止中、なんて都合が良いモノではない以上、目も当てられない事態に陥る事だろう。
「確かにそうだね……どうにか下道に下りようか。帰るのがまた遅くなっちゃうけど、こればかりは仕方ない」
あぁ、全く。
若い子達を連れていると言うのに、警戒するのはこんな物騒な事ばかりだ。
※※※
「今日は皆別々の部屋なんですね?」
「まぁ、一応ね。周りの目もあるし」
「いやいやいや、こんなおっさんと同じ部屋とかヤバいだろ!? 貞操観念どうなってんだよ!」
ちょっとだけイラッとしたぞ?
と言う事で、ルームキーを渡したrabbitの頭を掴みながらギリギリと握り締めた。
わははは、escapeに代わり煽り役の登場か。
だったら容赦しないぞ? 存分にギリギリしてやるぞ?
なんて、rabbitの頭にアイアンクローを食らわせていると。
「あの……すみません、唐沢さん。寝る時には部屋に戻りますので、お邪魔しても良いですか?」
やけに心配そうな顔を浮かべながら、巧君が俺の裾を掴んで来るのであった。
この子にとって、身近な誰かが居なくなると言うのは非常に大きな精神的ストレスなのだろう。
家族は当然の事、今回はずっと一緒に居たescapeだ。
条件としてはrabbitも同じ気がするのだが……此方は根が図太い様で。
未だにギャーギャー騒ぎながら、俺の掌から抜け出そうと藻掻いている。
「あぁ、いつでもおいで。それこそお風呂の時とかは一緒に居た方が良いだろうし。というか、俺と一緒の部屋で寝た方が安心か?」
「出来れば……そうして頂けると。その、すみません。我儘ばかり言って」
小学六年生。
それくらいの歳なら、一人で寝る事にこれと言って不安を覚える事は無いだろう。
しかし、彼の場合は普通とは違う。
本当に死ぬ可能性のある戦場が隣にあり、彼自身落ち着いて眠れる事の方が少ない筈だ。
そして保護者たるescapeが消えた今、俺がその役目を……。
「今までの経緯からして、唐沢さんだけが絡まれる可能性が高いので。最悪の場合、僕も支援したいなと」
違ったわ。
この子の場合、逆に俺が心配されていたわ。
小学生に心配される賞金首って何だ、情けないにも程があるだろう。
ちょっと泣きそうになりながら、今日は俺の部屋で一緒に過ごす約束をしてみれば。
「ププッ、ダッサ! 小学生に守られる中年ってなんだよ! 偉そうに説教垂れてもその程度な訳? わー、凄ーい黒獣カッコイー。今日はfortに守られながらゆっくり眠ると良い……イダダダダ! 痛い! 滅茶苦茶痛い!」
鬱陶しい声を上げて来る霧島さんの頭を握り締めながら、部屋の扉を開いた。
そして、巧君を招き入れてから今一度彼女を睨み。
「rabbit、お前はそれこそ全力警戒だ。お前だけescapeの探知阻害が掛かっていないからな、一番見つかりやすいのは分かるだろ」
「ヘッ、そんなもんに怯えてたら賞金首なんかやってらんねぇっての。とはいえ、やばそうだったらヘルプコールしても良い訳? わぉ、お優しいね」
「そうなる前に連絡しろ、むしろ絡まれた時点で連絡しろ。手を貸してやる」
微妙に引きつった笑顔でニコニコしながらそう宣言してみれば、相手は驚いた表情を浮かべ。
理沙さんに関してはヤレヤレと言わんばかりの表情で笑っていた。
そして。
「おやすみなさい、唐沢さん。どうか、静かな夜を。巧君の事、よろしくお願いしますね?」
笑顔を浮かべる理沙さんからは、フラグみたいなお言葉を頂くのであった。
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