第128話 ヘルプコールはヒロインの特権
「おーおー、派手だねぇ」
『当たったら結構手痛いダメージになりますから、気を付けて下さいね?』
「若い頃ゲーセンでこういうゲームやったぞ、何か無駄に派手な弾幕が広がるヤツ。得意だったんだよ」
『みたいですねぇ。相手はコレだけ派手に弾幕ばら撒いているのに、全部回避出来てますし。ちょっとびっくりです、マスターもゲームをやっていた頃があったんですね。何年前ですか?』
リユと会話しながら、相手の弾幕を避けていく。
とは言え、銃弾の様に速い訳じゃない。
あまりにも弾幕の形を意識していると言うか、マジでゲームかよって感じの攻撃。
確かにこんなのを張られたら、普通なら慌てるだろうな。
視覚情報としては、絶望しそうな程の高火力の攻撃が迫って来るんだから。
しかしながら。
「わざわざ攻略出来る要素を残している辺りが、マジでゲーム感覚なんだなコイツ等。俺なら回避不能な所まで弾幕を詰めるぞ」
『いやぁ、無い物ねだりしないで下さいマスター。貴方は完全物理特化ですからねぇ、弾幕は無理ですよー? 無い物は無いんです、欲しいって言われてもお母さんも困っちゃいます』
「なんだよリユ、たまには我儘くらい聞いてくれよ」
『まぁ! いつも我儘ばっかり言っている癖に! そんな子に育てた覚えはありません!』
「まぁ育てられた覚えもねぇけどな」
軽口を交わしつつ、相手の攻撃の隙間を練り歩き距離を詰めていく。
普通に近づかれたのが予想外だったのか、相手は慌てた様子で後退を始めるが。
「クソがっ! マジで化け物だなコイツ!」
他の奴が、俺の肩に矢を射って来た。
ほぉ、これはまた。
スクロール系シューティングゲームの様な弾幕回避に夢中だったので避けられなかったが、普通に鎧を貫通して来たではないか。
やはり、どいつもこいつも火力が高い。
という事で、肩に刺さった矢を引っこ抜いてみたが。
『あらら、此方の矢も凄いですね。ポイズンですよポイズン、普通なら数十数秒もしない内にポックリ逝きそうな猛毒ですね。しかも中身に刺さって無くても鎧を侵食するタイプですねぇ、わぁ怖い。言いたい事も言えないこんな世の中じゃ~』
「うるせぇ歌うな。んで、死ぬのか?」
『Redoでは毒やら麻痺やら、これらも“状態異常”に含まれますからねぇ。要はデバフです』
「つまりは、まぁそう言う事か」
『マスターには効きませーん! スキル“逸れ者”、滅茶苦茶便利~! あ、でもnagumoみたいなレベルの雷撃とか受けたら、また失神しますからね? そっちはちゃんと回避して下さいね?』
「雷を避けろってのもすげぇ話だな」
『レールガンを避ける化け物が言っても説得力ないんですよねぇ』
緩い会話をしつつ弾幕を回避し、抜けた先で肩から引っこ抜いた矢を相手にブッ刺してみれば。
なんと、相手は泡を吹いてビクビク痙攣し始めたではないか。
すげぇな、やっぱり賞金首の攻撃は色々と他とは違うらしい。
『マスター、相手の端末からサレンダーでーす』
「とっとと受けてやれ、泡吹いて死ぬのは流石に見てくれが悪いからな」
そんな訳で、また一人退場していく。
視線を残る面々に向けてみれば、もう大した数が残っていない。
最初から戦意喪失したガキ共は俺達の会話を聞いている内にサレンダーを送って来たし、調子に乗ったガキ共もほんの少し残っている程度。
なるほどなるほど、確かに個人個人の能力は普通のプレイヤーと比べれば明らかにヤバイが。
しかしながら、どこまでもゲーム的な強者という印象しか受けない。
前回の
とはいえ俺からしてみればって話なので、さっきの弾幕野郎なんかはfortにとっては天敵だっただろう。
あの戦艦では、全部の攻撃を食らう恐れもあるしな。
「さて、どうするお前等。まだ遊ぶか? それともお前達の母ちゃんに助けを求めるか? こっちとしちゃ、そろそろ本命に出てきて欲しい所なんだがな。いつまでボスが逃げ隠れしてんだよ。あれか? 建物の最深部にいかないとボス戦は始まらないのか?」
もう飽きたとばかりに両手を広げてみれば、どいつもこいつも武器を此方に向けて来るが。
すまん、ハッキリ言おう。
流石にそろそろ面倒くさい。
コイツ等に特出した点があるのは認めよう。
普通のプレイヤーなら、それはもう脅威だろうよ。
しかしながら……条件が悪かった。
俺というプレイヤーに当たるには、あまりにも相性が悪いのだ。
要は向き不向き。
全て殺して良いのなら、次の瞬間には片が付くだろう。
あぁ、勿体ねぇ。
相手に合った状況を作ってやれば、もう少し楽しめた筈なのに。
こんな総当たりの集団戦に使われたからこそ、本来の実力が発揮できない。
Queen、お前……本当につまんねぇよ。
などと思いながらため息を溢した瞬間。
『忙しい所すまない、黒獣。ちょっと手を貸して欲しいんだけど、頼めるかな』
端末から、そんな声が上がって来た。
は? 今か? まだ相手が居るんだが?
残りは殺して良いってんなら、すぐそっちに行ってやるが。
「んだよ、escape。こっちは賞金首を何人かまとめて相手してる所だ」
『とはいえ“何人か”までは削り切ったのか。やるね、流石だ』
「コイツ等と俺の相性が悪かったんだな、あんまりおもしろくねぇ。あそこまでポイントを振り分ける必要あったのかよ?」
ハッと声を洩らしながら相手の声に答えてみれば。
『あったさ。間違いなく、ね? 今後君の行く末にも関わる』
「……あん? なんだそりゃ、お前今何処に居るんだ」
喋っている間にも攻撃が飛んで来て、それらを回避しながら相手に攻め込み拳を叩き込む。
相手の鎧は変形し、えらく苦しそうな呼吸を始めてからサレンダーが届いた。
『今回の計画の目的地。悪いだけど、回収してもらって良いかな?』
「クハハハッ! お前、アレだけ自信満々に俺達を使いながらミスったのか? どうしたよ、脚でも吹っ飛ばされたか? 相変らず戦闘面は空っきしだな、紙装甲どころかゴミだゴミ」
カカカッと笑いながら相手の本社を睨んでみれば、相手はいつも通りの笑い声を溢した後。
『すまない、此方にQueenが向かっている。彼女よりも先に、“俺”を回収してくれ』
「……」
らしくない。
その言葉しか浮かばない。
コイツは、escapeという賞金首は。
いつだって余裕をぶっこいた態度を取りながら、俺を煽って来た筈だ。
だというのに、ここまで純粋に助けを求めて来ている。
何が起きた?
「Queenより先にお前の所に行って、テメェを連れ帰れば良いんだな?」
『その通りだ』
「戦闘中って感じでもねぇな、どう言う状況だ?」
『来れば分かるさ』
「喧嘩売ってるのか?」
『アンタが喧嘩するべきは世界そのものだ、俺じゃない』
訳の分からん言葉を残すescapeに対し舌打ちを溢し、改めて正面の敵に拳を構えた。
「こっからは手加減なしだ。お前等、残念だったな。これから死ぬぜ?」
ギリギリと牙を鳴らし、更に深く腰を落として本格的に攻撃態勢に入る。
こっちにQueenが来ないのなら、こんな所で遊んでいても仕方ない。
いつまでも諦めの悪いガキ共と遊んでいる状況では無くなったらしい。
なら、残りは死ね。
「ガァァァ!」
叫び声を上げたその時、俺の後ろに“船”が迫って来た。
いつもの戦艦よりも小さい、以前見かけたfortの新しい形。
ソイツの上から、ピンク色の兎の兵器が飛び降り来たではないか。
そして。
「話はこっちでも聞いてました! 行って下さい、黒獣! 彼等の相手は私達が引き継ぎます!」
兎兵器の背中に乗った、白兎が地面に降り立った。
いや、は? 何やってんだお前。
ピンクと白で、兎同士仲良くなったのか?
思わず思考が停止し、ポカンとした表情を浮かべてしまった訳だが。
「大丈夫です、こっちの残りは私達で何とかします。“最善”の結果に導くために、皆協力してくれていますから。だから貴方は行ってください。あのescapeが、助けを求める程の事態ですから」
やけに自信満々で言い放つ白兎の隣で、メカ兎は厳つい武装を整え。
背後で停船したfortも再び戦艦を作り上げていく。
更にはアイツの船の先っぽに足を掛けているピンク鎧が、全身に武器を纏っていくではないか。
ハ、ハハハッ! またやりやがったこの平和ボケが!
潰すべき相手を“こっち側”に引き入れたのか。
「相も変わらず、馬鹿だなぁ。お前は」
「馬鹿ですよ、そして偽善者です。分かってます、全部承知の上です。だから……今は、escapeの救助に向かってください」
ウチの白いお姫様は、こんな戦場に踏み込んでも理想を掲げるそうだ。
まったく、馬鹿だねぇ。
そして、その思考に染まり始めた馬鹿に声を掛けてみれば。
「おいヒロイン様よぉ、何処にいる。正確に案内しろや」
『助けて黒獣ー。という事で、リユに現在地を送ったから、指示に従ってくれ。時間が無いよ』
「時間制限付きとは、面倒クセェ奴等しか居ねぇなホント。お前みたいなのがヒロインのゲームが出たら、間違いなくクソゲーだな」
『ハハッ、確かに。そこは完全に同意するよ』
さて、ガキの世話も白兎が引き継いでくれるってんなら……こっちは相手の親玉を探しに行きますかね。
escapeの所へ向かえば、自然とQueenも釣れるだろ。多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます