第79話 邪魔な女王様
『こんばんは、escape。今ちょっと良いかしら?』
これはまた、珍しい人物からメールが届いた。
前回此方からコンタクトを取った、fortの母親“だった”人物。
プレイヤーネーム“
俺も人の事は言えないが、プレイヤーネームというのは人柄が出るね。
むしろウチのパーティの仲間達が適当過ぎるってのもあるが。
「“ゴースト”、手を出されている感じはするかい?」
彼女に返事を返す前に、相棒に声を掛けてみれば。
モニターにはウチのネットワーク情報がずらりと表示された。
するとほんの一部、やや怪しい点が見受けられる。
おやおや、小賢しい。
Redo端末を通してなら、此方の情報が掴めるとでも思ったのか。
クラッキングを仕掛けるなら、もう少し丁寧にやらないと。
「こっちもこっちで忙しいから、音声入力してもらって良いかい? ゴースト」
『スマホ操作が嫌いなだけ……』
「まぁ、確かにね。俺にはキーボードの方が使いやすい」
端末から一つ溜息が聞えて来たかと思えば、PCモニターの隅に相手とのチャット欄が表示された。
自分でやれと言う事か……面倒くさいなぁ。
とか何とか思っていれば、文字入力画面が表示され「Hurry up」という文字と音声入力マークが。
全く、俺の端末は素直じゃない。
「やぁ女王様、俺に差し出す報酬でも決まったのかい? あぁそれから、つまらない探りを続けるなら君の会社のサーバーを全部落とすよ?」
此方が喋ったままの内容をゴーストが入力し、相手にメールを返信してみれば。
向こうからのクラッキングがピタッと止まった。
全く、この程度の実力なら喧嘩を売って来なければ良いのに。
『流石ね、まさか気が付かれるとは』
ピコンッと音を立て、すぐさま彼女から返事は来たが……以前も思ったけど、いちいち勿体ぶった喋り方をするなコイツは。
立場のある人間である以上、毎度探りを入れながら会話する癖でも付いているんだろうが。
正直言って会話が長くなるのは好きじゃない。
生憎と、話していて楽しい相手ではないので。
「で? 用件は? あまり長々と喋っていられる程暇じゃないんだ」
『交渉を一つ、と思ってね。差し出せる物を見つけたら、これならアナタも私に力を貸してくれるんじゃないかしら?』
「結論から言ってくれないかな、何度も言いたくはないが暇じゃないんだ」
やけに会話を引っ張ろうとする相手にため息を溢してから、片手間に“nagumo”の情報を探っていく。
とはいえかなり過去の情報から漁らないといけないので、あまり期待は出来ないが。
何てことを思いつつ、カチカチとクリックする音が響いていれば。
『今関東地域に、“nagumo”という過去のプレイヤーが登場しているのは知っている? 過去の賞金首、そしてアナタが求めているRedoの真相に最も近い“かも”しれないプレイヤー』
情弱乙、とでも返そうかと思ったが……流石にそれは逆撫でし過ぎか。
と言う事で、もう一度大きなため息を吐き。
「そのプレイヤーに関しての情報なら、もはや俺の方が詳しそうだけどね。それで? 何を差し出そうというのかな?」
何かもう相手するのが面倒くさくなって来て、他のブラウザを表示してチャット欄をほぼ隠してしまえば。
ゴーストからビーッ! とエラー音が上がり、再び目立つところに彼女からのメッセージが表示された。
手伝ってやってるんだから真面目にやれと言う事なのか、それともゴーストは彼女の事を警戒しているのか。
まぁ、どちらでも良いか。
『彼を討伐後、入手出来たスキル。またはnagumoの端末を奪ってから、そちらに譲渡。この条件だったら、escapeはどれくらい手を貸してくれるのかしら?』
ハハッ、これはまた大きく出たものだ。
それが実現可能だというのなら、是非ともお願いしたいね。
此方としても手間が省ける上に、相手の端末が手に入るのなら願ったり叶ったり。
Redo端末は、基本的に他者の物は扱えない。
遠隔で色々試したが、そこらの新人でさえブロックされてしまうのがオチだった。
しかし直接、実物がこの手にあるのなら話は別……かもしれない。
順当な方法では不可能だとしても、俺の鎧“ファントム”を使えば可能性はゼロではないのだから。
「出来るものなら、是非とも証明して頂きたいものだね。もしも端末を手に入れられたなら、直接受け取りに行っても良いくらいだよ。条件次第では手を貸す事も考えなくはない」
なんて返事を返してみれば相手は随分と興奮した様子を見せ、今まで以上の速さで返事を送って来る。
チャットだからって、ちょっと警戒心が薄いんじゃないかなQueen。
そんなんじゃ、今どんな顔でキーボードを叩いているのかまで想像出来そうだよ。
『なら、決まりね。私の部下がもう関東に到着しているわ。近い内に良い報告が出来ると思うから、その時にまた。もう一度確認するけど、端末が手に入った時はちゃんと“顔を見せてくれる”って事で良いのよね?』
「あぁ、手に入れられるのであれば……ね?」
随分と自信過剰な事で、と言いたくなったが。
少々引っかかる言い回しだな……まるで、俺に会う事が目的みたいな。
まさか「ファンです」なんて言われる筈もないし、何かしら俺と“遭遇”する事で変化が与えられる自信があるのだろう。
身柄の拘束か、もしくはRedo内で何らかの干渉する術があるのか。
もう少し彼女自身と、周囲の人間まで調べておく必要がありそうだ。
『もしかしたら、そっちにも協力を仰ぐかもしれないけど。構わないわよね? 私達は、仲間なのだから』
「誰が仲間だよ。御免だね、Queen。こっちの陣営を使いたいのなら、そっちが勝手に努力する事だ。それじゃ、また」
些か良くない空気を感じながらも、彼女とのチャットを終了させるのであった。
「これはちょっと、きな臭くなって来たかな……ゴースト、Queenの方はもう良い。黒獣と連絡を取ってくれ」
『スマホ……』
「頼むよ、本当に忙しいんだって。というか、Queenのせいで余計忙しくなった」
全く、狩人の件でも忙しいのに。
今回もまた余計な物が混じって来そうだ。
これもまたRedoの仕組んだ運命……というのは、流石に俺の妄想を当て嵌め過ぎかな。
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