第61話 休戦の提案
「妙だな」
『あぁ、間違いなく相手の射程圏内なのに……全く攻撃してくる気配が無い』
本日もフィールドに現れた、fortと言う名の戦艦。
だというのに、まるで此方を攻撃する姿勢を見せないのだ。
こっちの試合が終わるまで、乱入して来たのにも関わらず見ているだけ。
視界の端にデカい船が居るのは些か気が散ったが、今日だけは一切手を出して来ないのだ。
いつもだったら、戦闘地域に向かって派手に主砲をぶちかまして来そうな所だったのだが。
『罠の可能性が非常に高いです。接近した所をズトン、とか。本日は撤退しましょうマスター、不安要素が多過ぎます』
リユはそんな事を言って来るが、相手も用事があって俺の事をつけ回しているのだろう。
だったら、ちゃんと構ってやらなければ可哀そうだろうが。
あんなお利口に“待て”が出来るのだ、こっちも答えてやらなければ嘘だろう。
「ククッ、カカカッ!」
『あぁ~これはダメなヤツですね……escape、援護をお願いします』
『勘弁してくれよ……必ず仕留められるタイミングじゃないと、こっちが不味いって説明したばかりだよね?』
小煩い両者の声を聴きながらも、鉄球を構えて投球フォームを取った。
しかしながら、やはり相手に動きは無し。
今なら攻撃出来る範囲に居るのに、襲うタイミングはいくらでもあっただろうに。
今日だけは、ソレが無い。
「まずは御挨拶だ……オラァ!」
物は試しとばかりに、鉄球を投げつけてみれば。
普通に直撃した……おや、ここまで反応が無いとは。
戦艦の先っぽに激突した鉄球は艦内に埋まり、先端からはバラバラと船が崩れているのが見える。
だがしかし、反撃してくる様子は無し。
なんだぁ? 今日は本当にやる気がねぇのか?
それとも自殺願望にでも目覚めたのか。
「おいおい何だよ、つまらねぇな……攻撃されても止まったままだぞ。アイツやる気あんのか?」
『相手が本格的にやる気を出した場合、こっちはかなり不利になります。あんまり煽らないで下さいマスター』
「チッ、つまんねぇな……」
一つ舌打ちを溢してからビルを飛び降り、真っすぐfortに向かって歩き出した。
それはもう、遮蔽物の無い道路を真っすぐと。
『ちょいちょいちょい! 本気ですかマスター!? 相手の攻撃手段の多さを知らない訳じゃないですよね!? 何で真っ向から歩みを進めているんですか!?』
『黒獣、今すぐ物陰に隠れろ。流石にソレは不味い、不意打ちを食らったらアンタでも消し飛びかねないんだぞ!?』
あぁうるせぇうるせぇ。
どいつもこいつも、ベラベラベラベラと。
戦場に立っているんだ、これくらい“空気”で分かれ。
今日のfortには、まるで戦う気が無い。
そういう作戦かとも思ったが、攻撃した時点で分かった。
コイツは、俺と戦うつもりが“一切”無い。
戦意喪失した雑魚共と、同じ臭いがするのだ。
「おいfort、何だお前は。今日はどうした、あぁ? そんなでかい図体で登場して、俺を見つけたら一切動きなしかよ? 戦えよ、つまんねぇなオイ。いつもの勢いはどうした」
すぐ目の前まで歩いてから、相手の装甲をガンガンと蹴飛ばした。
近くで見ると、やっぱり汚ねぇなコイツ。
何でもかんでもくっ付けて形を作っているかのようで、統一性ってモンが無い。
全体像をそれなりに見せただけであり、細かい所に拘りが感じられない。
というか、詳細を知らずに形だけを真似したかのようだ。
ガキの創作って所か、fortについての予想が現実味を増して来たな。
「おいfort、聞いてんのか!? 登場したなら戦えよ! 常にサレンダー送り続けて、なんのつもりだ。俺と戦え! それさえ出来ねぇのなら、そのデカい図体をいちいち視界に入れるんじゃねぇよ! 鬱陶しいったらありゃしねぇ!」
ガンガンと相手の戦艦を蹴り続けてみれば、ようやく向こうも喋る気になったのか。
目の前の装甲から、伝声管の様な物が生えて来た。
そして。
『きょ、今日は……黒獣に話が、あって……来ました』
「おう、なんだよ? それに答えればお前は戦うのか? つまんねぇ質問ならこのまま船をぶっ壊すぞ」
生えて来た伝声管の隣を、ガツガツ蹴り飛ばしながら声を返してみれば。
相手は随分と怯えた様な幼い声で。
『ある男を……あるプレイヤーを殺して欲しいんです。それを叶えてくれたら、何でもあげます。ポイント……は、殆ど持ってないんですけど。道具でも、スキルでも……この命さえも』
「へぇ? 随分と面白い事を言うな、お前」
コレだけの能力を持っているプレイヤーが、まさか殺しの依頼とは。
自らが手を下してしまえば、すぐに終わらせる事が出来るだろうに。
まぁその辺は、“表側”の奴が考えるだろうが。
「おいリユ、それからescape。そういう事らしいぜ? なんか欲しい物あるかよ? 前金代わりだ、何でもくれるらしいから貰っておけよ。この際だ、身ぐるみ剥いでから帰らせるか?」
『黒獣、流石に悪役の台詞が過ぎると思うんだけど……まぁ良いや。それじゃこっちは、“情報”を求める。fortの端末にフレンド申請を送ったから、了承してもらえるかな。これで下手な真似をすればこっちにも分かるから、まずはお互い名刺交換と行こうじゃないか』
『私が何か求めるのは少々不自然かもしれませんが、しかしマスターの許可が頂けるのなら遠慮なく。以前“
「リユ、初耳だぞ」
『いります? irisが使っていたスキル、多分マスターではろくに使えませんよ? 急に歌い出したりします? バフもデバフも効かないのに。カラオケでの最高得点聞いても良いですか?』
「……いらん、お前にやる。好きにしろ」
『流っ石マスター! 愛してるぅ! ちなみに歌の最高得点は?』
「うるせぇ黙れ」
などと会話している内に、相手は本当に此方の求める物を差し出したらしく。
俺の端末には新たなスキル取得の知らせが、escapeの方はフレンド申請が通った御様子。
こりゃまた、相手の意志は本物だと思って良いみたいだ。
『そ、それで……依頼は受けてくれる? 黒獣の欲しい物は……なに? まだ貴方の答えを聞いてない』
そんな事を言って来る相手に対して、思い切り口元を歪めた。
俺の願いなんぞ、最初から決まっている。
なんたってここまで環境が整っているのだ、やる事やらなきゃスッキリしないってもんだろうが。
と言う訳で、一発相手の装甲をぶん殴ってから。
「戦え、思いっきり。俺と、一対一で。お前を潰す為に散々準備して来たんだ、このまま勝ち逃げなんぞされてたまるか。勝負しろ、その為にRedoは存在しているんだろうが。今度はサレンダーなんぞ送って来るなよ? 俺は……本気のお前を倒したい」
『……分かった、条件を飲むよ』
と言う事で、ここ最近付きまとわれていたfortとの取引は終わった。
ならコイツが言っているプレイヤーをぶっ殺して、さっさとfortという賞金首を攻略しなくては。
ワクワクしてきた、何たってコイツが本気を出す約束をしてくれたのだ。
これまで以上の激戦になるのか、それとも通常通りの戦法になるのか。
それは分からないが、今日の様なつまらない結果に終わらない事は確かだろう。
「クハハハ! いいぜ、教えろよfort! お前はいったい誰を殺したい? 俺が代わりにソイツをぶっ殺してやる。だからお前は……俺を殺す事だけを考えてろ」
『やっぱりアンタ……イカれてるよ』
相手からは、そんなお言葉を頂いてしまうのであった。
知ってるよブワァカ。
普通の認識を保ちながら、こんなゲームをやっている奴らの方がよっぽど壊れるってなもんだ。
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