第54話 関わり
「あ、あの……本日はお日柄もよく……」
『ごめん、俺基本外出ないからさ、天候とか関係ないんだよね。しかも今はもう夜だし。で、何?』
翌日の夜、何を思い立ったのかescapeに連絡を取った私。
やっばい、既に空気がアレな感じだ。
ここは大人しく唐沢さんに相談すれば良かった。
などと早くも後悔しつつ。
「えぇ~っと、Redoとは関係ない事なんですが。ちょっと相談したい事がありまして……」
『通話切って良い?』
「あぁ待って待って! お願いだからアドバイス下さい! escapeさん法律関係とかも詳しそうだなって思って!」
必死に相手を繋ぎ止めてから、あの男の子の話を始めてみた。
彼は非常に面倒くさそうに話を聞いていたが……でも私としては、何かできる事は無いのかって気持ちが強い。
だって、今日もイジメられていたのだ。
でもやっぱり先日と同じ様な態度で立ち去られてしまい、非常にモヤモヤしていると言う訳だ。
『つまり何? 自分の事ですら未だモヤってるRISAは、今度はその男の子の為に何かしたいと。はぁ……呆れる程お人好しだね』
「ち、違います! でもホラ、帰り道で毎回そんなの見てたら色々思う訳じゃないですか。だから私自身じゃ無くても、どこかに頼って何とかしてもらえないのかなぁって」
学校に連絡したり、親御さんに連絡したりってのが一番なのだが。
生憎と、どちらの情報も掴めていない。
だからこそ警察や、児童相談所みたいな所に連絡した所で、大した情報提供が出来ないのは確か。
と言う事で、escapeを頼ってみた訳だが。
『写真とか無いの? 特徴とか、遭遇した場所と時間帯とかは?』
「えっと、写真は無いです。私の下校時間なので……大体――」
色々と思い出しながら、しかも本当に大体って感じの説明になってしまった訳だが。
それでも彼にとってこの程度の情報収集は何でもないらしく。
『見つけた、多分この子だ。コンビニの監視カメラの映像だから画質荒いけど、間違いない?』
そう言って、此方の端末に画像データが送られて来た。
画像に映っているのは、間違いなくあの子。
服装や髪型からしても、多分人違いではない筈。
「この子です! 何かもう見ていて可哀そうになるくらい傷だらけで、こういう時って何処に連絡したら――」
『ゴメン、ちょっとだけ黙ってて貰える? 調べる事が出来た』
え、酷い。
私から相談して、その結果が目の前にあるのに。
急に黙れって言われちゃった。
更には、声ではなくカタカタカタとキーボードを叩いている様な音がずっと聞こえて来るし。
結局、何がどうなったんだろう。
なんて事を思いながら、通話中と表示されているモニターを睨んでいれば。
『ふぅん……もしかしたら、大当たりを引いたかもね』
「え? どう言う事ですか?」
何やら意味深な事を言い始めたescapeの言葉に食いついてみれば。
相手からは大きなため息が上がり。
『こういう場合は、やっぱり警察やら児童相談所に連絡するのが一番なんじゃない? ま、それ以外にも色々あるけど。でもRISAが連絡を取っても、関係性なんかを聞かれるから色々面倒だけどね』
「でも、あのままじゃ……」
『本来は親や学校側が対処する問題だ。しかしソレが無い、つまり“訳アリ”って事だよ。そこに首を突っ込めば、間違いなく此方に被害が出る。問題が解決出来る見込みがあっても、RISAに何が出来る? 親に問題があった場合、それらから引き離して君が引き取るのかい? もっと言うのなら、親権の問題ってのは結構面倒な上に対処に時間が掛かるんだ』
「そ、それは……」
確かに、私なんかじゃ何も出来ないかもしれない。
でも、見て見ぬふりをしろとでも言うのだろうか?
そんな事になったら、子供では対処出来ない事態に陥っているあの子があまりにも救われない。
などと思っていた私だったが、ふと気が付いた。
「あの、大当たりを引いたって……どう言う事ですか?」
さっき間違いなく、彼はそんな言葉を呟いていた。
普通だったら、こういう状況の子供を見てそんな言葉は使わないだろう。
では、何故?
彼が、escapeの性格がねじ曲がっているのは知っているが。
虐待やイジメ、その他諸々に関わっている人間に対してそこまでの言葉を使うとは思えない。
だらこそ、問いただしてみれば。
『RISA、君はこの子を調べ上げる事は出来るかい?』
「は? いやいやいや、私にはとても無理ですよ。一歩間違えたらただのストーカーじゃないですか」
何を言い出しているのだろうか、この引き籠りハッカーは。
思わず即拒否してみれば、相手からはもう一度ため息が聞こえ。
『なら、これ以上関わらない事だ。君の為にもね、俺の予想が正しければ……だけど』
「あの、その男の子からも同じような事を言われたんですけど……どう言う事なんですか?」
はて、と首を傾げながら声を上げてみた結果。
通話相手は笑い声を溢した。
『あぁ、なるほど。疑惑から確信に変わったよ。ありがとう、RISA。君は十分な成果を残した、今回はずっと休んでいても黒獣も俺も文句を言わないさ』
「どういう、事でしょうか?」
彼のテンションに、些か嫌な気配を感じる。
まるで渡してはいけない情報を、一番良くない相手に渡してしまった様な。
『監視カメラの映像を繋いでいって、この子の親が判明した。そしてその父親が、昨夜fortと遭遇した後、ログアウトした黒獣に接触した人物と一致する。こっちも監視カメラの映像だから確証はないけど、しかし随分とそっくりだ。間違いなく、fortの手掛かりを掴んだと言って良いだろう』
「えぇと、えっと? 結局どう言う事でしょうか?」
待って待って、全然分からない。
あの子の父親がfortって事?
だったら私も、戦闘に参加して――
『ここから先は、本当に憶測だから君に語るのは止めておくよ。だからこそ、もう一度忠告する。今後その少年には関わらない様に、以上だ』
それだけ言って、escapeは通話を切ってしまった。
何、何なの!?
物凄く意味深な発言だけ残されて、通話切られちゃったんだけど!?
明日もあの公園で件の男の子がイジメられてたら、私はどうすれば良い訳!?
うがぁ! と吠えながらバシバシとベッドを叩いてみれば。
『難儀な性格ですね、マスター』
「お願いだからリズも考えてよぉ!」
相棒からも、呆れた声を頂いてしまうのであった。
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