第23話 お前は誰だ


 悔しさの余り、衝動で何度もガチャにチャレンジしてしまった。

 結果、ゴミばかりが増えた。

 コレが俗に言うガチャ爆死ってヤツなのか。

 爆死ってなんだよと思っていたが、今だったら気持ちが分かる。

 もはや何もする気が起きず、ゴロンと横になっていた。

 俺のポイント返せ、アレだって命懸けで稼いだんだぞ。


『ま、まぁガチャですから。こんな事もありますって、そう気落ちせず行きましょう? ね?』


 リユからは未だ励ましの言葉が投げかけられるが、もはや返事をする元気も無かった。

 ちくしょう……鉄球がゴロゴロ出て来るのは何なんだ。

 敵に投げつけろとでも言うのか。

 そして避雷針なんてモノまで出て来たんだが、コレどうすんの?

 相手にブッ刺して雷でも落とすの?

 Redoの世界で雷が鳴っている所なんて見たことがないが。


『拗ねてないで、何かしましょうよぉマスター。せっかくの休日が勿体ないですって』


 未だ喋り続けるうるさい端末を手に取り、モニターを覗き込んでみれば。


『フレンドに“ガチャ爆死したw”とかメッセージでも送ります?』


「そんなの送ってどうするんだよ。というか、そもそも送る相手が……一人居たな」


『居ますねぇ、先日出来た女子高生のお友達が』


「その言い方止めろ」


 あの白い鎧の女の子。

 もう三度も遭遇しているのだと考えると、俺の中では結構レアキャラというか。

 リユはあの子の事を女子高生女子高生といちいち煩いが、実際に顔を合わせた訳ではないので詳細は分からない。

 しかしながら、あの声。

 おそらく、公園に居た時通りかかった高校生のどちらかなのだろう。

 そしてあの蜘蛛女もまた、あの時聞いた声だった。

 だとすれば、何かしらの形で二人は繋がっている可能性が高い。

 仲間割れをした様な雰囲気ではあったものの、やはり此方も全てを信用する訳にはいかないだろう。

 というより、Redoをプレイしている奴らに“信用”なんて言葉が適しているのか、そもそもの疑問だが。

 それは俺にも言える事かと自虐的に考え、思わずため息を溢していると。


『でも定期的に連絡しておいた方が、相手も緊張感が保てると思いません? 下手に放置してナメられて、私は黒獣のフレンドだぁ! なんて脅し文句に使われても面倒ですし』


「なんか、脅迫してるみたいで嫌だな」


『大丈夫ですって、そもそもスクリーマーの時は完全脅してましたし。なので、メッセージの一つくらいは送っておきましょう。今後関わらないにしても協力するにしても、一度関りを持ってしまったんですから、仲良くしておいて損はないです』


「そもそも全部お前が言い出した事なんだけどな……」


 呆れ声を洩らしながら、端末を操作して彼女のプロフィールページを開いた。

 表示されるのは、何度も見たあの白い鎧姿。

 俺の鎧とは比べるまでもなく、とても綺麗な見た目をしている。

 一体どんな人間なら、こんな純白の鎧が生れるのだろうか?

 なんて、考えても無駄な訳だが。

 ポチポチと慣れない操作に手間取りながらも、文章を拵えていくと。


『文章固った……社会人かよ』


「社会人だよ。メールでは初めてのやり取りなんだ、失礼があったら不味いだろ」


『“向こう側”と性格が違い過ぎるんですよねぇ、相変わらず』


 逐一リユに口を出されながらも、何とか文章を完成させて送信ボタンをタップする。

 よし、なんか一仕事終えた気分。

 昔の仕事で、相手方にメールを送るなんて日常茶飯事だったからな。

 これくらい大した事は――


『相手からの返事来ましたよー』


「はっや!?」


 流石現代の高校生。

 スマホの扱いに長けていやがるぜ。


 ※※※


『マスター、メールです』


「んー? 誰からー? というか私のスマホの方は、勝手に覗かないでって言わなかったっけ?」


『そっちじゃありませんよ。プレイヤーネーム“AK”、通称黒獣からです』


「はぁ!?」


 休日という事と、先日の疲労もあってベッドでゴロゴロしていたのだが。

 眠気が一瞬で大気圏の彼方まで飛んで行った気分だった。

 不味い不味い不味い。

 さっそく呼び出しとか、もしくはさっさと情報を寄越せという連絡にまず間違いない。

 よく考えてみれば、あんな危険人物と連絡手段を確保してしまったのだ。

 何を要求されるか分かったもんじゃない。

 どう見ても戦闘狂、しかも彼だって紛れもなく男性なのだ。

 狩りを手伝えとかで“殺し”を強要されたり、何度も命を救ってやったんだから体を差し出せとか言われるかも。

 アレだけ勝ち残っているのだ、金銭の要求はまずないだろうが……。


「ひ、開くよ……?」


『早くした方がよろしいかと。遅くなればなる程、何を言われるかわかりませんよ?』


 私の端末、リズから急かされてしまうが。

 こっちとしては緊張で指がプルプルしているのだ。

 もはや内容を見たくない、このまま削除してしまいたい。

 そんな気持ちをどうにか押し殺して、息を止めながら通知を開いてみれば。


「……」


『……』


 二人して、完全に黙ってしまった。

 え? あれ? おかしいな。

 Redoの端末でも、間違い電話……じゃなかった。

 間違いメールって送られてくるものなのかな? もしくは悪質ないたずら?

 だって、内容が……。


 平素よりお世話になっております。

 Redo登録ネーム、AKと申します。

 急なご連絡、大変失礼致します。

 先日の戦闘以降、お変わりはないでしょうか?

 もし何かございましたら、微力ながらお手伝いさせて頂きますのでいつでもご連絡下さい。

 そして今後の方針など、お時間のある時に話し合って決めていきたいと考えております。

 素性も知れぬ相手と対面するのは不安でしょうから、もちろん顔を合わせてとは申しません。

 なので、お暇な時にでもお返事いただければ幸いでございます。

 どうぞ、よろしくお願い致します。


「……これ、送る相手間違ってない?」


『送信元もRedo端末ですから、間違うという事は無いかと思いますが……正直、私にもわかりかねます』


「いや、絶対間違ってるって。きっと仕事先に送るメールを、寝ぼけてこっちの端末で送っちゃったヤツだよ」


『しかしあの黒獣が、こんな文章を? しかもRedoの名前を出していますよ?』


 二人してう~ん……と唸り声を上げてから、ふと思いついた。


「もしかして黒獣が端末落として、拾った誰かが悪戯してるとか!」


『そ、それかもしれません! 指紋、声帯、顔、網膜で認証しないと端末は操作出来ませんが、そうとしか考えられません! きっと特殊なスキル持ちのプレイヤーの仕業に違いありません!』


 という事なら、私のやる事は決まった。

 このメールの送り主を見つけて、端末を取り返す事。

 そうすればきっと黒獣も多少は私の事を認めて、無茶な要求とかはしてこなくなるかも。

 であれば、さっそく揺さぶりを掛けてやろう。

 相手の情報を探らねば。


「お前は誰だ、っと。送信!」


『ちょっと!? いきなり直球で送ってどうするんですか! まずは騙されたフリをして探って行かないと!』


「し、しまったぁぁ!」


『なんでウチのマスターはこうも脳みそが足りないんですか!』


 リズに散々怒られながらも、結局相手からの連絡を待つ形になってしまったのであった。

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