第22話 底なし沼
『マスターマスター』
「なんだいなんだい、リユさんや」
休日の朝。
いや、現在俺は働いていないので毎日が休日になる訳だが。
言っていて自分で哀しくなってくる。
一応フリーランスという事にして、企業からお仕事は頂いているが。
処理しているのはリユのみなので、俺は完全にのんびりしているだけ。
良いのかコレで、大の大人がこんな生活して良いのか。
『このアプリ一緒にやりましょう、課金装備が素敵ですよ』
「課金前提かよ、嫌だよ」
『いいじゃないですかぁ。お仕事は私が処理しているんですから、ちょっとくらい使わせてくださいよ!』
そう言われると、何も言えなくなってしまう自分が悲しい。
Redoで稼いだ金を遊びに回すつもりはないが、そちらの金ならまぁ……いいか。
リユはそっちの金も好きに使えと言ってくれたが、何となく気が引けて手を付けていないのだ。
「分かったよ、んじゃこっちのスマホにも……」
『アプリ落としておきましたぁ、すぐ遊べますよ』
「あ、はい」
ハッキングして遠隔操作とか出来るんだろうか。
出来るんだろうね、やってるんだから。
そんな訳で二台のスマホを机に並べ、二台いっぺんに起動したゲーム画面を覗き込む。
うむ、非常に贅沢な無職になった気分だ。
『チュートリアルはすっ飛ばして、ガチャ引きましょガチャ』
「えぇ……俺結構説明書とかしっかり読むタイプなんだけど」
『私が逐一説明しますから問題ありません! そんな事より、マスターは“ゲーム”というモノと、“ガチャ”に慣れるべきです!』
それもRedoの為になるって事か。
何となくリユの行動に納得しながら、ゲーム画面をタップした。
「ガチャってRedoにもあるんだよな、回した事無いけど」
『ありますねぇ、特殊な武装やスキルを手に入れる為の一番の近道ですよー』
とはいえ、運要素が強すぎる上に結構なポイントを使うんだろうが。
とてもじゃないが手を出そうと思えないんだよなぁ……俺、運悪いし。
『簡単に言いますと、Redoのガチャは個人に合ったモノしか“当たり”は出ません。そこだけでもだいぶ大きなメリットです』
「と、言うと?」
『滅茶苦茶簡単に説明しますね? まずは今始めたソーシャルゲームのガチャを引いてみて下さい。十連です十連、初回ボーナスで絶対に一つ当たりが出るらしいので』
「お、おう? このスタートダッシュガチャってヤツで良いのか?」
言われるままゲームのガチャを回し、次々と表示されていくアイテム達。
そんな中、一つだけキラキラと輝くアイコンの装備がある。
コレがリユの言っていた、絶対に出る当たりってヤツか?
『今出た当たり装備を確認してみて下さい、弓ですね? ちなみにコレがRedoだった場合、マスターは当たりが出たからと言って弓を使いますか?』
「いや、絶対使わないと思う。弓とか触った事もないし」
『ですよね、マスター不器用そうですし。なのでRedoガチャの場合、マスターにはそう言った装備やスキルは出ません。“当たり”を引けば、確実にマスターの強化に繋がる“何か”が出て来る、という事です。外れアイテムとしては、いくらでも排出される事もありますけど』
それはまた、なんというか。
親切なんだか回りくどいのか分からないシステムだな。
だったらポイントで買える様にしてくれと言いたくなってしまうのは、多分ガチャというモノに慣れていないが故なのだろうが。
更に言えば、此方の特徴や傾向を完全に把握されている様で微妙に怖いぞ。
「ちなみにその“外れ”の場合は?」
『拳銃とか、ナイフとかですかねぇ。素人が持っても武器になる様な代物とか、後は金属バットが出たという情報もありましたねぇ。ちなみにそう言う道具は、現実にもコンバート出来ますよ?』
「うわぁ……」
なんというか、改めてドン引きである。
Redoのゲーム内だったら、銃火器を振り回している奴らも数多く見て来たが。
それを現実に持ち込めるのか?
簡単にテロが起きるじゃん、こっわ。
『他者から奪い続ける行為の方が安く済みますが、知っての通り使えないスキルが多いのは確かですから。マスターが使えそうなスキルは私が独断で保管していますが、やはり“当たり”と言える程のモノは中々ありません。先日の様な事にならない為にも、色々と考えておく事を推奨いたします』
今までの軽い口調は何だったのかと思う程、リユは丁寧に、そして厳しい言葉を投げかけて来た。
まぁ、確かにその通りだ。
俺だけで適当に取得した武器やスキルを売っぱらっていたら、昨日は本当に詰んでいたかもしれない。
あの子……白い鎧の子。
RISAに敵意が無かったからこそ無事に帰って来られたが、もしも彼女から攻撃されていた場合はどうだ。
何の抵抗も出来ず、リユが“爪”のスキルを適用してくれる前に勝負がついていたかもしれない。
「俺の目的は金だ。でも、生き残る為には投資も必要だって事だよな……今のままじゃ、ふとした瞬間に足をすくわれる可能性がある」
『その通りです。“スクリーマー”はかなり強力な鎧ではありますが、万能ではありません。どんな状況にも対処出来る様にするには、鎧への“理解”と“関心”。そしてある程度は無駄になったとしても、“お金”が必要です。ポイントを換金する事が目的だとしても、マスターが死んでしまえば、未来がありませんから』
「金に困って死のうとしてた男に、金を使って未来を視ろってか」
『はい、まさに仰る通りです。目先のお金、といったら言葉が悪いですが、それも確かに必要です。そしてマスターがその為に戦っている事も理解しています。しかし私は、マスターに決して死んでほしくありません。なのでRedoをある程度ゲームと認識し、ポイントをお金と見ずに本来の使い方をする事を推奨致します。よりRedoを理解すれば、貴方はもっと強くなれる。そして、“助ける”事が出来るはずです。何故お金を必要としたのか、今一度考えるには良い機会かと思いまして』
お喋りな相棒は、今しがた始めたゲームを終了させRedoのガチャページを表示させた。
そこに映っているのは、やけにレトロなガチャガチャの画像と消費するポイントの数字。
更には、十連ガチャならレアスキル排出率アップ! という、まさにさっきやっていた“普通のゲーム”みたいな画面。
一応多少なりポイントは残してある。
リユに言われなければ、全て換金して金に換えていただろうが。
それでも残りのポイント数を見ると、十連ガチャってヤツが数回引ける程度。
「一回だ、それでハズレしか出なかったらもう少し考える。だから、一回だけ十連ガチャってヤツをやる。これで無駄遣いをするより、鎧の強化にポイントを使った方が俺には合ってるからな」
『了解しました。では初のRedoガチャ。お楽しみくださいませ、マスター』
さっきのゲームのガチャを回していなければ、本当に人生初めてのガチャになったのだが。
ソレを言ったらリユが物凄く嘆きそうなので黙っておいた。
ま、何はともあれ。
「い、いくぞ……」
『行きましょうマスター……大丈夫、ビギナーズラックって言葉があります! きっと良い物が出ますよ! いけいけゴーゴー!』
無駄に緊張しながら、そのボタンをタップしてみれば。
あぁ……俺のポイントが消費されていく。
今の換金率を詳しく調べた訳じゃないが、ウン十万って額だぞこれ……。
ちょっと悲しい気持ちになりながら、やけに懐かしいガチャポンがガラガラとハンドルを回していく映像を眺めていると。
「え?」
『あっ』
コレといった演出もなく、普通のカプセルが十個。
ソイツを一つ一つタップして中身を確認していけば。
「……」
『ま、まぁ~こんな事もありますって。所詮は運ですから、ね? そう気を落とさず』
リユからはやけに励ましの言葉が放たれる。
端末に表示されているのは、ハズレもハズレ。
スキルどころか、武器すら表示されていなかった。
『色々言いましたけど、やっぱりマスターは鎧の強化にポイントを使った方が良いかもしれませんね。よしっ、そうしましょう! コレも勉強だったと思って、今回の事は忘れましょう。ね!? まさか十連でここまで大外れを出せる人が居るとは……』
排出されたアイテム。
バール二本、鉄球六個、防犯ブザー二個。
……なにこれ? え? さっきのポイント、コレの為に消えたの?
「リユ」
『スゥゥゥ……ういっす、ごめんなさい。本当にごめんなさい』
「もう一回だ」
『私も悪いと思っていますから、そんなに怒らなくても……って、待ってください。今なんて言いました?』
「もう一回だ! 十連ひくぞ!」
無性に悔しくなってしまい、結局俺は残るポイント全てをガチャに溶かしてしまうのであった。
その結果は、もはや語りたくも無い成果になってしまったが。
わーい、鉄球がいっぱいだぁ。
もう二度とガチャなんかやらねぇ。
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