念願の婚約破棄を受けました!
大舟
第1話
「エレーナ、君との婚約は破棄させてもらうことに決めた。第二王子である僕から急にこんなことを告げられて、絶望のどん底にいるかもしれないが、これが現実なんだ。君には受け止めてほしい」
「婚約破棄!?いま婚約破棄をするとおっしゃいましたか!?」
「あ、あぁ、言ったとも…。エレーナ、そもそも君にはこの僕に釣り合うだけの魅力が全くない。だからこそ僕との未来を絶たれた君の気持ちはよくわかる。それほどに僕の事を愛していたのだろう?第二王子の妃となり、権力を手にしてやりたい放題することを考えていたのだろう?だが今や、僕の心に君の居場所はないのだ」
「オレフィス様!!確かにこの耳で聞きましたからね!!後になってやっぱりやめるなんて言わないでくださいよ??」
「え………え?」
オレフィス第二王子から一方的な婚約破棄を告げられたエレーナは、それはそれは誰の目にもうれしそうな表情を浮かべていた。それを見た第二王子は、きっとショックのあまりエレーナは壊れてしまったのだろうと考え、慰めの言葉をかけ始める。
「あぁ、哀れなエレーナ…。生まれた時からこの僕との婚約を運命づけられ、僕を満足させるためだけに生きてきたというのに…。その存在価値を奪われて、壊れるなと言う方が無理な話…。君の犠牲、決して無駄にはしないとも。僕は真実の愛で結ばれるカタリナとの関係を、生涯大切にすることを約束しよう」
オレフィスは許嫁であるエレーナとの関係を切り捨て、自分が真実の愛だと確信する妹、カタリナとの関係を優先するのだという。
しかしそんな事は全く耳に入っていない様子のエレーナは、喜びに体を震わせながら急ぎオレフィスの前から姿を消していった。第二王室に一人残されたオレフィスは、小さな声でつぶやいた。
「震えるほど泣いてくれるとは…。よっぽどこの僕の事を好いてくれていたんだね…。本当に、なんと言葉をかければいいのか…」
しかしオレフィスはまったくわかっていなかった。エレーナの反応は強がりでも何でもなく、心の底から出た本心の反応だったという事を…。
――――
「な、なんじゃと!?エレーナとの婚約を破棄したじゃと!?…ゲホッゲホッ…」
やせ細り咳をするその体は、もう先が長くないという事を暗示している。ベッドの上に横たわるのは、オレフィスの父であるグラーク法皇だ。
「い、いますぐエレーナを呼び戻すのじゃ…!でなければこの国は、大変な事に…!」
「はいはい。父上の時代はもう終わったのですから、これからは僕の自由にさせていただきますよ?」
「ば、ばかものが…!!な、なんとおろかな…おろかなことを…!」
グラーク法皇は尋常ではない様子で言葉を発しているものの、弱りきってしまったその体では、オレフィスを説き伏せることはもはや叶わない。
そんな法皇を見下しながら、オレフィスは言葉を返す。
「またあれですか?女神の生まれ変わりであるエレーナを手放すなという話ですか?まだそんなくだらないファンタジーに取りつかれているのですか?いよいよ法皇様…父上も病気が深刻な様子ですね」
この王国の王たちは、代々決められた相手との婚約を果たしてきた。その決められた相手とは、女神の生まれ変わりとされる女性たちであり、歴代の王たちはそのしきたりに従い婚約関係を結び、女神の秘めたる力をその手にしたうえでこの国を守り続けてきた。
…しかしそのしきたりがついに、崩れ去るときが訪れた…。
「エレーナ一人をこの王宮から追い出したくらいで、国が滅ぶはずがないでしょう(笑)そんなありもしない妄想に取りつかれるから、そんなみじめな最期を迎えることになったのですよ、父上(笑)」
「お、お前と言う奴は…!…ゲホッ…」
法皇とは、この世の理に最も精通する人物と言ってもいい。そんなグラークの言葉も聞かず、女神の生まれ変わりであるエレーナを一方的に捨てた代償を、これからオレフィスはその身で払っていくことになるのだった…。
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