第13話 寂れた村

 夕日というのは、なぜこんなにも見る者の心を切なくするのだろう。

 私は、草原の向こうに消えていく赤い陽の塊を、ただ黙って見つめていた。


 ルカの話し方をからかうのにもさすがに飽きてきていた。その甲斐あって、ルカは、敬語を使わなくても話せるまでになったけれども。


 それよりも私は、ずっと馬の背中に乗り続けていたせいで、お尻と太ももの痛みからいつ解放されるだろうと、そればかりを考えていた。


「……もう日が暮れちゃうわ。

 馬も疲れてきたみたいだけど、まだこのまま進むの?」


 さすがにルカに向かって、お尻が痛いわ、と言えるほど私は女を捨ててはいない。


「この辺りに小さな村があるから、そこで宿を取ろう。

 そろそろ見えてくる筈なんだが……」


「……あ、向こうに見えるのがそれじゃない?」


「ああ、そうみたいだな。

 あと一踏ん張りだ、がんばってくれよ」


 ルカが馬に優しく声を掛けてやると、それに答えるかのように馬が声を上げた。


 私たちが村に着く頃には、すっかり日は沈み、当たりは暗闇に包まれていた。


「もう真っ暗だな。

 早く宿を探さないと……」


「……ねぇ、なんだか村の様子が変じゃない?」


「変?」


「なんだか……荒んでるって言うのかな。

 だって、いくら暗くなったからって言っても、まだ夕飯時よ。

 なのに、どこの店も家も……明かりが消えてるって、おかしくない?」


「……確かに。

 酒場までもが閉まっているのは、妙だな」


「こんな村に、宿なんてあるのかしら」


「……とりあえず、村の探すしかないさ」


 私は、不安な気持ちで馬を進めた。

 暗がりに目を凝らしながら灯りの付いているお店を探すが、どこも戸を固く閉じて、灯り一つ見えない。まるで村全体が死んでいるかのようだ。


「結局、村のはずれまで来てしまったか。

 本当にどこの店も開いていなかったな……」


「……あ、あれ宿屋じゃない?

 もうこの際、開いてなくても、扉を叩き起こして泊めてもらおうよ」


「…………いや、明かりが点いてるみたいだ」


 ルカに言われて、私は、宿屋らしき家屋をよくよく目を凝らして見た。ぱっと見は分からなかったが、閉め切った窓の向こう側が薄っすらと透けて見える。蝋燭のような小さな明かりがカーテン越しに漏れているようだ。


「馬小屋……もあるみたいだな。

 それじゃあ俺は、馬を繋いで来るから、

 アリスは、先に中へ入って、空いている部屋がないか確認してくれるか」


「わかったわ」


「それじゃあ、お金を渡しておく。

 お金の使い方は……」


「失礼ねっ。いくら私でも、それくらい解るわよ」


 私は、ルカからお金の入った巾着袋を受け取ると、やっているのかどうかすら怪しいボロ宿屋の中へと入って行った。


「……いらっしゃい」


 古びた音を立てて扉を開けると、男の人の低い声が私を出迎えた。正面のカウンターに不愛想な顔をした中年男性が座ってこちらを見ている。


(うわっ……何だか怖そうな人ね)


 その目つきは、まるで獲物を捕らえようとする鷹のような鋭い目をしていた。

 私は、恐る恐るカウンターへと近づく。


「……一部屋かい?」


「いいえ、連れがいるの。

 二部屋用意できる?」


「それなら……

 休憩5千Gゴールド、一泊2万ゴールドだ」


「……に、2万G?!」

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