第17話
ケネシスは有言実行した。食堂でランチボックスを購入するとすぐに食堂を出る。後ろをついてくるパレシャのスピードに気を配りながらどんどんと学舎から離れていく。広い広い庭園の最奥にある温室に来ると入る素振りで影に隠れてパレシャの様子を伺う。パレシャが温室へ入って行くと、もと来た道を今度は身を隠すようにしながら戻り学舎にあるケネシスだけの秘密の場所に行く。
「アリサ嬢はゆっくりと食事を楽しむことができただろうか…」
テッドの手助けがあればきっとうまくいっていると確信しているケネシスは微笑を浮かべて窓からの景色に笑顔を向けた。
そうして一週間もするとパレシャが少しばかり頭を使ってきた。
購入を終え食堂を出ようとするがパレシャの気配がしない。不自然にならないように見渡すが見つけることができなかった。
すると廊下の向こうから男子生徒と女子生徒が早歩きでやって来る。
「ワイドン小公爵様。我々はテッド様に武術のご指導をしていただいている者です。本日監視対象者Pは温室の前にてケネシス様を待ち伏せております」
男子生徒がテッドの仲間を示すピンバッジを見せたのでケネシスは一つ頷いた。
「ほぉ。あれもいくらかは考えたようですねぇ」
ニヤリと笑ったケネシスを見た二人はブルリと震える。
「報告ありがとうございます。テッドにも後ほど礼を言っておきます。お二人の昼食を遮ってしまい申し訳ありませんでした」
「とんでもございません。俺たちはワイドン小公爵様が例の令嬢を誘い出すためにお使いになる道の少し奥まったベンチで昼食をとっているので大丈夫ですよ。
俺たち婚約していて彼女が弁当を持ってきてくれるのです」
男子生徒は頭をかき女子生徒は頬を染めて俯いた。
「そうでしたか。ではお二人からの情報をありがたく使わせていただきます。僕もたまにはテッドと一緒に昼食をとることにしましょう」
「テッド様も喜びます。では俺たちはこれで。
また怪しい動きがありましたら報告します」
「はい。お願いします」
二人は再び庭園へ向かいケネシスは食堂にいたテッドに声をかけるとテッドの隣の席が空けられた。
「どうした?」
「テッドの友人が情報から勧告してくれましてね。お礼がてら食事でも一緒にしたくなったのですよ」
「俺のことがあるから臨機応変に対応してくれているのだろう」
「とてもありがたいです」
それから何があったのかをテッドに説明し二人は食事を進めながら小声で話している。あらかた食べるものがなくなったころアリサがテーブルから立ち上がり二人のところに来た。
「ケネシス様。こちらでのお食事はお久しぶりのご様子ですわね。普段はちゃんとお召し上がりになっていらっしゃいますか?」
話に集中していた二人はビクッと動揺した。ケネシスはクリクリの大きな金色の瞳をさらに大きくさせて心配そうにしているアリサに思わず破顔しそうになるが周りの目があるので微笑に留めた。
「きゃあ!!」
「すてきぃ!」
微笑でも黄色い声があちこちから聞こえてきて真顔に戻るケネシスにテッドは苦笑いする。アリサもケネシスの現状を知っているので顔つきが変わったことに動揺や怒りはない。
「食事はすべての源です。ご心配には及びません。しっかりといただいております」
「それは安心しました。それにしてもここ数日どちらで…」
「あああ!!! ケネシス! いたぁ! なんで?」
声のする方を振り返れば例のご令嬢パレシャが遠くからケネシスを指さしていた。まだテッドの仲間が遮るほどの距離ではないが甲高い声が食堂中に響いた。テッドの仲間がざっと動きパレシャの視界と進路を遮りアリサの二人の友人はすぐさまアリサに寄り添い人壁に隠れるように食堂を出ていく。テッドの仲間に誘導されたケネシスもそれに続いた。
四人は二年Aクラスの教室に戻ってきた。衛兵が廊下に待機するこのクラスが一番安全である。赤を基調としたタータンチェックのリボンまたはネクタイの者しか通されない。
ちなみに三年生はアーガイル、一年生はギンガムチェックであり、クラスで色が異なるのはどの学年も共通である。
ケネシスが自分の席に座りホッと息をつく。
昼休みの教室にはアリサとその友人三人とケネシスだけとなった。ケネシスを護衛していたテッドの仲間は衛兵に任せて食堂に戻ってしまったし衛兵は事件がない限り教室へは入ってこない。
「ケネシス様」
カナリヤのような可愛らしい声に振り向けばそこには怒りをあらぬ限りに表すアリサが腰に手をあてて仁王立ちしていた。
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