10憎悪の魔王

 俺のからだは真っ赤に染まっていた。訳が分からなかった。一瞬唖然としていたが自分が生きていると分かり急いで前を向いた。



 俺の目に映ったのは勇者ではなかった...



























 ーーーーーーーーーーーー

 十日前



 リベルタはいつもより気合いを入れて訓練していた。



「ハイルを勇者から守るため頑張らないと!!」



 リベルタは勇者が来るということをハイルより先に魔族から聞いていたのだ。



 そのまま続けているとハイルがやってきた。



「リベルタ、話がある。実はーーー」



 そこから私は勇者についての話をハイルから聞かされた。当然、私は必ずハイルを守るということを伝えた。それに対してハイルは反対してきたのだ。



 そして言い合いになった結果私はハイルから逃げ出していた。



「なんで、私は...ずっと、ハイルと一緒にいたのに 。ハイルのことを想っていたのは私だけだだったっていうの....」



 リベルタは泣きながら感情を抑えられずにいた。



 本当はハイルが私を助けるために言った言葉だとわかっていた。それでも、ハイルが放った、私が「道具」だったという言葉は奴隷だった私にとって大きなダメージとなった。








 ーー

 三日間、私はハイルについて考え続けた。そして、



「それでも...私はハイルを守りたい 」



 という結論に至っていた。今までのハイルとの生活を振り返ったことで、ハイルが笑顔で過ごしていたのを思い出したのだ。その笑顔は作られたものではなく自然にできたものだった。



 これまで楽しく過ごしてきたことが演技では無かったと分かったことで、あの言葉は「私を守るための嘘」だと予想していたものが確信へと変わり、リベルタを正気へと戻したのだ。




 私はハイルを守るため動くことにした。



 それは、ハイルにバレないようにずっとハイルを守れる位置にいることだった。ハイルにこのことがバレれば意地でもやめさせられるとわかっていたからだ。



 そして、私はハイルの元へとむかった。あのとき伝えることの出来なかった言葉を胸に秘めながら....



































 ーーーーーーーーーーー

 俺は驚いた。俺の前には血塗れになったリベルタが立っているのだ。



「り、リベルタ!! なんで!? 」



 俺は倒れそうになるリベルタを抱えた。俺はまだうまく理解できていなかった。勇者もまた、人間の女性を斬ってしまったという事実に驚き、その場から離れていた。



 するとリベルタが口を開いた。



「へへへ、わたしハイルの役に ゴホッ...立てたかな? 」



 リベルタは苦しいにも関わらず笑っていた。



「あたりまえだ。でも...でもどうしてここに来た!! 俺に構うなと言ったはずだ!!」



 俺はあまりの驚き、悲しさ、悔しさから怒ってしまった。



 それでもリベルタは



「わたしね、あのときハイルに見つけてもらってよかった。そのあともいっしょにくらすのが楽しかったよ。だからね、またいっしょに暮らしたいと思ったから助けたの。だからおこらないで.ゴホッ...ずっといっしょ ゴホッ...にいたい。でもわたしはもうゴホッ...ヴ...むりそうだね..ごめんね」



 と言った。これまでとは違い、とても幼い口調だった。



「ああ。俺もお前との生活が楽しかった。だから、まだあきらめるな!! 」



 俺は涙をこらえていた。



「ありがとうハイル。私はハイルからそれが聞けてうれしい。ねえ、ハイル、私の名前を呼んで。」



 俺は言われた通り、「リベルタ」の名前を呼んだ。



「今まで言いたかったことがあるの。私に名前をくれてありがとう。私が初めてもらった名前『リベルタ』、何度も何度も何回も呼んでくれてありがとう....」



 そう言ったあと俺の腕に抱えられているリベルタの力が抜けた。リベルタは俺の腕の中で微笑んで目をつむっていた。



 俺の目にはリベルタの血か涙か分からないが液体が流れていた。



 そしてその後アナウンスのようなものが脳に響いた。



『解呪条件が満たされました』



 俺は黒い渦に飲み込まれていた。

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