第3話

 翔音の復帰は、世間で大きな話題となった。

 しばらくSNSのトレンドに入っており、ネットニュースなどでも度々取り上げられた。反響は想定よりも大きく、新たな仕事が後を絶たなかった。インタビューやテレビ出演の依頼など、復帰早々目まぐるしい日々を送っていた。

 ふあ、と欠伸をする声が聞こえて、澄睦はミラー越しに翔音を盗み見る。ぼうっとした表情で窓の外を眺める様子に、そっと問いかけた。

「翔音くん、大丈夫ですか?」

「え?」

 翔音はぱちりと瞬きをした。

「最近、スケジュールがぎっしりなので…ちゃんと休めているかなと」

 翔音本人とも相談して、負担を掛け過ぎないスケジュールにしているつもりではあった。しかし、頑張ろうとする方に力学が働きやすい翔音の性質上、またどこかで限界を迎えて倒れたりしないか心配で、こうして疲労が見えた時には必ず問い掛けるようにしていた。

「睡眠時間もちゃんと取れてますし、週一は必ずお休みを入れてくださっているので、全然大丈夫ですよ!」

 翔音の返事は毎度変わらない。明るい声で、大丈夫だと言った。

 ————けれど、体力が大丈夫だったとしても…。

 多忙による疲労も心配だったが、それよりも気がかりなことがあった。

 テレビ収録の現場や、雑誌の撮影現場、インタビューや打ち合わせなどには、当然男性スタッフも多数居る。

 外の人とも仕事をするようになって、翔音が男性恐怖症であるという事実を目の当たりにすることが圧倒的に増えた。ライブに向けての現場は、湊と創と一緒だったり、翔音の事情を知る人との仕事が多かったため、彼の恐怖症が煽られるようなことはほとんど無かったが、個人の仕事で外へ行くとなると毎度そうもいかない。

 男性スタッフが近くに立った時、出演者に後ろから声を掛けられた時、その表情が強張ったり、身体をびくつかせるのを何度も見た。

 なるべく控え室に一人で残さないようにしたり、それとなく割って入ったり、周りの人に違和感を抱かせない範囲で、出来うる限りのことはしていたのだが。

 ————でも、全部を未然に防ぐのは不可能だ。

 特に、本番中に起こることはどうしようもない。番組収録中や撮影中は、何が起きてもただ外から見ていることしか叶わなかった。

 しかし、本番になると、翔音はその衝動を徹底的に殺した。

 急に近づかれようと、例え身体に触れられようと、平然としている。本当は怖いだろうに、それをおくびにも出さずやってのけてしまう。

 そのプロとしての気概をすごいと思う反面、精神にかなりの負担を掛けているのではないかと心配になった。

 だから本当は、精神面でも問題はないのかと尋ねたい。

 ————でも、直接的に聞くのは、どうなんだろうな。

 これまで、恐怖症についての話を翔音と直接したことは無かった。センシティブな話題のため、尋ねてもいいものか悩んでしまう。

 しかし、一人で溜め込んでしまうのだけは避けたかった。どうにか聞き出せないだろうか。自分には無理でも、湊や創にならば話せるのではないか————悶々と考えながらも、結局当たり障りのない言葉しか投げられなかった。

「…何かあったら、必ず教えてくださいね」

 はい、と元気よく返された返事に、きっと本人は精神的負担なんて何でもないこととして扱ってしまっているのだろうなとため息が漏れた。


 その夜のこと。

 入浴を済ませ、髪を乾かしている最中にカレンダーの通知が届いた。

 ドライヤーを止めてそれを何気なく確認し、そして息を呑んだ。

「今後についての、ご相談…」

 予定のタイトルに、どくりと心臓が鳴る。

 五月ももうあと数日で終わる。もともと、六月からは女性マネージャーに引き継ぐという話だったことを考えると、そろそろその話が無いとおかしい頃ではあった。

 ————本当に、終わってしまうのか。

 残念だと思う気持ちが大きすぎて、虚無感に襲われる。

 もっと一緒にいろんな景色が見たかった。先へと進んでいこうとする背中を押す力になりたかった。

 けれど、きっとマネージャーが変わった方が、翔音の心の安寧も守られるのだろう。

 ————その方が翔音くんは活動に集中出来ると言うのなら…受け入れられる。

 いちファンとして、彼を心から応援する者として、我欲よりも本人の幸福を願える大人でありたいと、そう思っていた。

 

 そして翌日。呼び出された部屋に向かい、緊張を胸にその要件を聞いた。

「————ということで、よろしくお願いしますね」

「はい、承知しました」

 失礼します、と会議室を出る。

 その足で、そのまま自販機の方へ向かった。

「…」

 何か買おうと、並ぶ商品をぼうっと見つめて。

 ————マネージャー延長…。

 今し方告げられたことを思い出し、ため息を吐いた。

 翔音の様子が安定していることを、湊や創、周りのスタッフなどから聞き、一旦このまま澄睦をマネージャーに置いてやっていくという方針になったと言われた。実際のところは、女性マネージャーを当てるのがまだ難しいという状況らしい。

 ————人が足りている状態でもない。このままの体制でいけるなら、事務所としても工数が掛からなくて楽…ということだろうけれど。

 まだマネージャーで居られることが嬉しくて、冷静に物を考えられていないような気がした。

 それは話が違うと、自分が言うべきだったのでは。翔音が不満を言わないからと我慢させる方に倒すのは間違いなのではないか。あんなことがあったのに、都合がつけられないなんて、対応として不誠実すぎるのではないか————。

「…はぁ……」

 深いため息が溢れた。素直に喜んでしまった自分に対する呆れと怒りを覚える。

 ————ここ最近、男性恐怖症に苦しむ姿を一番近くで見ているはずなのに…最低だな。

 自己嫌悪に苛まれながら、結局自販機では何も買わず自席に戻ろうとした時だった。

「おつかれさまでーす」

「!」

 聞き馴染みのある声にはっとした。

 声の方を覗けば、見慣れた金髪が見えて。

「高宮くん」

 考えるより先に、声を掛けていた。

「あ、ミサキマネじゃん、お疲れさまでーす」

「お疲れ様です。…すみません、今から少しだけ話せないでしょうか」

「いーっすよ」

 今日はもう終わりだからと言った創に、ありがとうございます、と澄睦は申し訳なさを覚えながら礼を言う。

 二人で会議室に入り、さっそく本題に入った。

「度々で申し訳ないのですが、翔音くんのことで、相談に乗っていただきたく…」

「カノン最近絶好調な気がするけど…なんかあったんですか?」

 創から見ても問題はないというところにひとまず安心しながら、ここ最近の個人の仕事での出来事を話す。

 どうしても男性と接さなければならないことが多く、頻繁に男性恐怖症が出てしまっていること。特に本番ではその症状すら無理やり抑え込んでいるため、負担が大きいのではないかと心配していること。

 創は黙って澄睦の話を聞いていた。

「————なので、本当にこのまま仕事をさせてしまって良いのかと、悩んでいて…」

 この仕事をしていく以上、ある程度は我慢してもらわなければならない。ただ、そのキャパシティがどれほどなのか測りかねている状況だった。

「恐怖症のことを私が知っているというのは、もちろん翔音くんも分かっているとは思うのですが…直接そういう話をしたことが無いので、どうなのか分からなくて」

 創は、眉を下げて笑った。

「それは…実はオレたちも無いんですよね」

 そうなのか、と一瞬驚いて、しかしすぐに、一番最初に湊から注意事項を聞いた際、湊でさえその件について具体的に話したことは無いと言っていたことを思い出した。

「カノンがそれで悩んでそう…とかじゃないんですよね?」

「そういうわけではないです。翔音くん自身は至って元気というか————大丈夫かと聞いても、体力的に問題ないとしか返ってこなくて」

 そらそうですよね、と創は肩をすくめた。

 そして、うーん、と腕を組んで少し考える素振りを見せてから、口を開いた。

「これは、オレの考えなんで、あれなんですけど…」

 創の目が、すっと鋭くなる。

「カノンをあんなふうにした奴は許せないけど、正直なっちゃったもんはもうしょーがないし、向き合って自分で克服してくしかないと思うんですよね」

 淡々とした声に込められた、怒りややるせなさ、諦めや不安————複雑に絡み合った感情が垣間見えて、胸が締め付けられる。

 ————高宮くんのこんな顔、初めて見たな。

 いつも明るく、やんちゃな性格が垣間見える普段の創とは遠く離れたその表情を見返しながら、澄睦は静かな声で同意する。

「…それは、そうですね」

 創は変わらず平坦な、しかしどこか熱の籠った声で続けた。

「それは多分、カノンが一番分かってるはずで…だから、カノンが頑張るって言うんならそれを手助けするしかないなーって、思ってます」

 ————高宮くんは、正しい。

 なぜあの子がこんな辛い思いをしなければならないのか、というところにどれだけ怒りを抱いても意味は無い。これから先のことを考えれば、逃げるよりも克服する方に力を注いだ方が建設的だと思った。

「今の仕事内容で精神的につらくないか、オレから聞いた方がよさそうなら、ぜんぜん聞きますけど…」

 でも、と創は続けた。

「たぶん、マネから聞いてもらっても、カノンは気にしないと思いますよ」

 澄睦は、静かに目を見開く。

「…なぜ、そう思うんですか」

「なぜって…だって、カノンはマネのこと大好きじゃん?」

 大好き。

 突然飛び出したあまりにストレートで、少し幼い言葉に、澄睦は困惑を浮かべる。

「なんなら、安心すると思うけどな。マネに聞かれたら」

「なぜですか」

「いやだから、マネのことちょー好きだし、最近は下手したらオレたちより一緒に居るわけだし、気にしてくれてんだなーって思ったら安心しない?」

 ————それは、そうかもしれない、けれど。

 創の言わんとしていることは分かる。

 しかし、翔音の中で自分がそれほどまで大きな存在だとは、その背景を踏まえるとどうしても思えなかった。

 しかし、創の言うことはもっともではあった。何かがあった場合に実際に対策を打ったり、スケジュールを調整するのはマネージャーである自分であることを考えれば、その実態をしっかり自分で尋ねて把握するべきではある。

「そう、ですね…私から聞いてみようと思います」

 澄睦の言葉に、創はにこりといつもの笑顔を浮かべて「それがいいと思います」と頷いた。

「お時間いただきありがとうございます。突然すみませんでした」

 席を立つ。創は「いいえー」とにこにこしながら言って、それから、あ、と声を上げた。

「そうだ、ちょうどさっきヒヤマネから聞いたんすけど、マネージャー続行になったんですよね」

 ヒヤマネ、が日山マネージャーを指すと理解するのに数秒を要した。少し考えてしまった澄睦に、創は満面の笑みを浮かべて言った。

「カノン、超喜ぶと思うんで! 早く伝えてあげてください」

 絶対可愛い反応するだろうなー、と弾んだ声で言う創。

 ————そうだったら、すごく嬉しいな。

 その時が少し楽しみになる。明日の移動時間にでも伝えようと思いながら、はい、と頷いた。



「えっ?!」

 打ち合わせが終わった後、マネージャー延長の件について翔音に話をした。

 翔音は目をぱちりと瞬いて、それから大きな音を立てて椅子から立ち上がる。

「ほ、ほんとですか!」

 明らかに顔を輝かせて言う翔音に、こんなことを聞くのは野暮だろうかと思いながらも、一応用意してきた問いを投げる。

「約束が違うので、抗議することも可能だと思っています。なので、翔音くんの素直な気持ちを聞かせてもらえれば————」

「嬉しいです!!」

 食い気味に返された返事に、喜びより驚きが勝ってしまった。

 翔音はにこにこと笑いながら、「これからもよろしくお願いします」と言ってぺこりと頭を下げた。

「…」

 じわじわと状況が飲み込めてきて、胸がきゅっと甘く締め付けられる。

 ————かわいい…。

 庇護欲と言うのだろうか。いつも創がしているように、抱きしめたり頭を撫でたりしたい欲求に駆られる。

「澄睦さん?」

 黙っている澄睦に、翔音はこくびを傾げた。

「…すみません。即答だったので驚いてしまいました」

「そう、ですか?」

 翔音は不思議そうに言った。嬉しいと即答するのは当然だとでも言うような翔音の反応に、嬉しさと、不思議な騒めきを覚える。

 その正体については、何となく深く考えるのはやめた。

「…あと、もう一つお話があって」

 思考を切り替えて、新たに話題を切り出した。

「なんでしょう?」

 普段と変わらない翔音を前に、澄睦は一人緊張を走らせる。

 ————反応を見るのが、少し怖い。

 創にはああ言ってもらえたが、翔音に嫌な思いをさせないか、とても不安だった。一つ息を吐いてから、口火を切る。

「いろんな仕事をするようになって、男性のスタッフや共演者の方とご一緒することも増えたと思います」

 導入だけで、澄睦が何を話そうとしているのか、翔音は理解した顔をした。

 笑みは引っ込んだものの、そこにまだ特別不快な色は無い。澄睦は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話を進める。

「気持ちの面で、やりづらいこともありそうだなと側から見ていて思うのですが、翔音くんにとってそれがどれほど大変なことなのか…出来れば、ちゃんと知りたくて」

 青空に透かしたビー玉のような瞳を、じっと見つめる。そこに浮かぶ感情を、一つも見逃さないように。

「もしよければ、話せる範囲でいいので、教えていただけないでしょうか」

 翔音の瞳が揺らいだ。

「…澄睦さんが、とても気にしてくださっているのは感じてました」

 翔音は落ち着いた声で言って、澄睦を真っ直ぐに見つめ返す。

「俺が不安になってる時とか、怖くなってる時に、何度も助け舟を出してくださって…いつも、本当にありがとうございます」

 頭を下げた翔音を前に、澄睦は小さく息を呑んだ。まさか、この流れで礼を言われるなど、想像もしていなかった。

「自分からお礼を言えずにすみません。こういう話も、俺の方からちゃんとすべきだったと思ってます」

「…そんなことはないですよ。進んで話したいようなことではないでしょうし、話題にせずに済むのなら、それが一番だと思います」

 翔音はふっと笑みを溢して「澄睦さんは優しすぎます」と困ったように言った。

 なぜそこまで聖人扱いされるのか、本当に分からなかった。マネージャーとして、彼を守る大人として、それほど特別なことをしているつもりはない。この程度は当然の配慮だろうと思って————その可能性に至ってしまう。

 ————そうか、翔音くんの知るマネージャーは…前任者しか、いないから…。

 トラウマを植え付けた前任者しか比較対象が居ないことを思うと、自分を過大評価するのも頷けた。

 彼がおかしいのであって、自分が普通なのに————大人に守ってもらえなかった翔音の過去に、激しい怒りを覚えた。

 気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。澄睦の心の内など知らない翔音は、そっと口を開いた。

「仕事中は…怖いことが、たくさんあります」

 見ていて分かっていたことではあるが、本人の口から直接聞くと、衝撃は大きかった。

 心臓を鷲掴みにされるような感覚。ぐっと奥歯を食いしばって、翔音の話に耳を傾ける。

「澄睦さんも気付かれていると思いますが、知らない男の人が近くに来るだけで、不安でいっぱいになります。顔馴染みの方に話し掛けられる時も、頭は話半分で、もう少し距離を置きたいという気持ちで全然集中出来ないことも多いんです」

 ————どうして、この子がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 翔音の心に消えない傷を付けた人間のことが許せなかった。冷ましたばかりの怒りが、すぐに再び煮えたぎる。

 翔音は眉を下げて健気に笑った。

「だから、正直ちょっと大変です。相手に不快な思いは絶対にさせたくないし、気付かれないように我慢して、堪えて、疲れるなって思うこともたくさんあります」

 でも、と翔音は微笑んだ。

「俺には、澄睦さんが居るから」

「え…?」

 突然出された己の名前に、澄睦は呆然とする。

「この怖いって気持ちには、理由なんてないんです。ただ相手が男性だから、心が勝手に怖いって決めつけているだけで…少し考えて冷静になれば、その人は俺を害する存在じゃないんだから怖くないはず、って分かります」

 語る翔音の言葉を、ただ黙って受け止める。

「その、少し考えて冷静になる、というのが一人だと難しいんですが…安心出来る人が一緒に居てくれれば、この人がそばに居るんだから大丈夫、って思えて早く落ち着けるというか」

 翔音は柔らかく笑った。

「湊とそうちゃんが居ない時は、澄睦さんを勝手に安心毛布にしているんです」

 笑う翔音を前に、生唾を飲む。

 彼の心の拠り所になれている————それが、少し怖いほどに嬉しくて。

「だから、俺は大丈夫です」

 真っ直ぐな信頼が、胸の真ん中を貫いた。

「澄睦さんが同行してくれるお仕事なら頑張れるので、この事情を制限にはせず、頑張っていきたいです」

 浮き足だった心を落ち着かせるように、澄睦は大きく息を吐いて。

「…分かりました」

 ————嬉しい、なんて思うのは、苦しい思いをしている翔音くんに、とても申し訳ないけれど。

 でも嬉しいな、と心の中で呟いてしまう。

「なるべく、目に入るところに居るようにします。でも、常にそばに居られるわけではないので、何かあったら必ず教えてください」

「はい!」

 ありがとうございます、と笑った翔音が可愛くて、また胸がきゅっと締め付けられた。


     * * *


 活動再開から、早一ヶ月が経とうとしていた。

 ————本当に忙しいな…すごくありがたいけれど。

 スケジュールはぎっちりで、休みとして設けた日以外は全て仕事で埋まっている。個人の仕事が大きく増えたため、休止前よりも多忙な日々を過ごしていた。

「問題なく間に合いそうですね」

 車が停まり、エンジンが切られる。

「そうですね、よかったです!」

 食べ終わったおにぎりのゴミを鞄にしまう翔音を見て、澄睦は眉を下げた。

「やっぱりもう少し削りましょうか…。お昼も落ち着いて食べられないのは良くないので」

「これは前の現場が長引いたからで、時間通り終わっていたら一時間以上空いていましたし————」

「多少の前後はどの予定でもあり得ます。それを踏まえて余裕のあるスケジュールにするのが健全だと思うんですよね」

 ————本当に真面目だなぁ…。

 スケジュールの見直しを行おうとする澄睦の話を聞きながら、翔音はぼんやりと少し高いところにあるその横顔を眺める。

 二人で控え室に向かった。ドアの名前を確認しながら進み、「デライト・メアリー」を見つけてドアノブに手を伸ばそうとして。

「————っ、だからお前には関係ないって言ってるだろ!!」

「!?」

 ドアに阻まれくぐもっているものの、それなりに大きな声だった。

 翔音と澄睦は顔を見合わせる。

 ————湊の声だ…。

 澄睦は戸惑いを浮かべていた。驚くのも分かるな、と思いながらも、翔音は躊躇うことなくそのドアを勢いよく開けた。

「もう関係なくないだろ、いい加減に————あ」

 怒鳴り返していた創が、ドアの方を見て固まる。

「…外まで聞こえてるよ、二人とも」

 淡々とした翔音の声に、二人は揃って気まずそうな顔をした。全く怯まずに割り込んだ翔音にも少し驚きながら、澄睦はその少し後ろで事を見守る。

「…ごめん」

 湊はぼそりと呟いて、小走りに翔音と澄睦の脇をすり抜け部屋を出て行った。

「あっ、ちょっ…湊!!」

 翔音は咄嗟に呼び掛けたが、湊は振り返ることなく去って行く。

 はぁ、と翔音はため息を吐いた。そして控え室に入り、創のもとへ行き。

「…そうちゃん」

「ごめーん…やっちゃった…」

 さっきまでの怒りはどこへやら、創は普段の調子で翔音に手を合わせて謝罪する。

「なんかいつもより激しかったけど…今回はどうしたの」

 んー、と創は困ったように笑った。

「ちょっと面倒なことになってんだよね〜…まだオレもよく分かんないから、湊を問い詰めたいんだけど…」

 創はがしがしとブロンドの髪を掻き混ぜた。

「とりあえず湊追っかけてくる〜」

 翔音は再びため息を吐いて、「いってらっしゃい」と創を送り出した。

「どーんって、これか…」

 ライブ前日の創との会話を思い出しながら、小さな声でぼやく。

 ————ちょっと面倒なことになりそうだな…。

「…これは、どういう状態なんでしょう」

 静観していた澄睦が問いかける。翔音は振り返って肩をすくめた。

「二人が喧嘩してるってだけですね。ちょっといつもより迫真だったから、ただの喧嘩じゃ済まないような気もしますが…」

「なるほど…? よくあることなんでしょうか?」

 首を傾げた澄睦に、いえ、と翔音は苦笑いを返す。

「半年に一回、あるかないかくらいです。小さい言い合いみたいなのはもっと頻繁にあるんですけれど…怒鳴りあったり胸ぐら掴んだりするのは、それくらいですね」

「胸ぐら…」

 目を瞬いて繰り返した澄睦に、翔音はくすりと笑みを漏らした。

「意外ですよね、湊がああなるの…多分、そうちゃんに対してだけなんですけど」

 ————それで言うと、そうちゃんがああやって突っかかったりイライラしたりするのも大概珍しいけど…。

 互いに、相手が互いでないと起こらないものなのだろうと思っていた。

「原因は何なんですか…?」

「多いのは、仕事の負担が偏ってるとか、無断で受けた仕事が云々とか、そういう感じですけど…でも、俺も毎回理由を聞けているわけじゃないので、分からないことも多いです」

 結局原因が何だったのか分からないまま、気が付いたら解決していることもままあると伝えると、え、と澄睦はまた驚いた顔をした。

「それは、尋ねないんですか?」

「尋ねないですね。二人の中で解決したなら」

「気にならないんですか?」

 翔音は肩をすくめて素直な気持ちを答える。

「もちろん、気にはなります。でも、話したかったり、話すべきだって思ってくれた時は話してくれるので、それでいいかなって」

 翔音からすれば、何らおかしなことは言っていなかった。しかし、澄睦は感心したように呟いた。

「翔音くんは達観してますね」

「え、ど、どのへんが…?」

 ————今、そんな話してたっけ…?

 本当に分からず、首を傾げる翔音。澄睦は、少し複雑そうな顔をしながら説明をする。

「三人のグループで、二人だけのコミュニケーションが取られていたら…なんというか、疎外感を感じて、気になってしまう人も多いと思うので」

「だとしたら、疎外感は無いからかもしれないですね」

 翔音は即座に返した。

 湊と創の間柄を、自分と並べて考えたことは無かった。湊と創が自分を除け者にしているだなんて思ったことはないし、二人が特別仲が良いことで困ったことなんて一度もない。

 ————それに…そもそも関係なんて、全部違う。

 自分と湊、自分と創の関係だって、二人だけのもので、他に同じものなんてない。人と人においてはいかなる場合であれそういうものだと思っているため、二人が二人だけの秘密を持っていようが、全てを打ち明けてくれなかろうが、それはそういうものだろうと受け入れることが出来た。

「本当に、素敵な関係ですね」

 澄睦は微笑んで、どこか遠い目をした。

「あなた方三人は、安心して応援できるグループだなと思います」

 ————どういう意味だろう。

 言外に、過去に参加していたグループと比べているように聞こえて。深くは聞けなかった。

 はぁ、とため息を吐いて、澄睦がぼやく。

「メンバー間の問題が、やっぱり活動を長く続ける上では一番ネックですから…」

「まぁうちも、たった今メンバー間の問題が勃発したんですけどね…」

「そうでした…」

 二人は顔を見合わせて力なく笑う。

「お二人の喧嘩は、仲が良いがゆえ…ということなんでしょうか」

 そうかもしれないですね、と同意してから、翔音は思い立って話を始めた。

「お話したこと無かったかもしれませんが、二人は幼馴染なんです」

「えっ」

 そうなんですか、と目を丸くして聞き返す澄睦に、頷きを返す。

「小学生の頃からの仲で、スクールにも一緒に入ったって言ってました」

 二人のマネージャーも知っていることだし、澄睦に話す分には問題ないだろうと、翔音は自分の知る限りの二人の過去について話をした。

 出会いは小学校で、一年生のクラスが同じになり仲良くなったこと。その頃からアイドル好きだった湊が、創を誘って一緒に映像を見たり歌を歌って真似事をしたりしていたという愛らしいエピソードがあること。

 中学校は違ったものの交流は変わらず続き、高校一年生の時に、本気でアイドルを目指すと決めた湊と一緒に創もスクールに入り、今に至った。

 澄睦は話を聞き終え、一つ問い掛ける。

「…じゃあ、高宮くんは南くんに誘われる形で芸能界に?」

「きっかけはそうみたいです」

 すごいですね、と溢した澄睦に、翔音も同意を示す。

 ————二人は特別なんだって、そばで見てると分かる。

 幼い頃からずっと一緒にいて、同じ夢を掲げて一緒に頑張ってきて。そんなの、特別になるに決まっている、と思っていた。二人の間には、単なる親しさ以上のものを感じることも多々あったが、そこに違和感を覚えたり、ましてや自分の関係と比べて嫉妬するなんて、そんなことはあり得なかった。

 澄睦と話をしていると、五分も経たずして二人は控え室に戻ってきた。湊は開口一番「ごめん」と翔音に向かって謝罪を口にしたが、その表情は全く晴れておらず、仲直りをしたわけでないことは明白だった。二人は一切目を合わせず、会話もしないので、控え室の空気はどんよりと重苦しいままだった。

 仕事となるといつもの雰囲気に戻ったが、湊は仕事が終わるなり挨拶を済ませてさっさと帰ってしまい、創もその後を慌ただしく追いかけていってしまったため、またも澄睦と翔音は二人で残されてしまった。

「大丈夫でしょうか…」

「さぁ…もうこればっかりは、話してくれるのを待つか、解決してくれるのを

待つか…いずれにせよ、待つしかないですね」

 ————早く元に戻るといいけど、今回はちょっと難しいかもしれないな。

 二人は同時にため息を溢す。その見事なシンクロがおかしくて、顔を見合わせて小さく笑った。


     * * *


『ごめん、カノン、話させて』

 創からそんな連絡が入ったのは、三日後のことだった。

 ————これは、湊のことだよな…。

 翔音はごくりと唾を飲む。これまで、愚痴のような形で空き時間に喧嘩の話をされることはあったが、こうしてあらたまって片方から声を掛けられるのは初めてだった。

 分かった、と返事をすると、すぐにまたメッセージが送られてくる。

『明日の仕事の後いけない?』

「…電話とかじゃないんだ」

 独り言を溢しながら、大丈夫だと返す。

 ————すぐじゃなくていいってことなのか、直接会って話したいってことなのか…分からないけど、やっぱり何か嫌な予感がするんだよな。

 言い得ぬ不穏な空気を感じていた。

 相変わらず二人は仕事以外では一切口を聞かなかったが、帰りはどうやら一緒に帰っているらしく、二人揃ってさっさと居なくなってしまう。ただそれも、喧嘩初日もそうだったように、二人で帰ると約束をしているわけではなく、一人でさっさと居なくなってしまう湊を創が毎度追いかけているような形だった。

 今回は喧嘩というより、何かを隠している湊と、それを暴こうとする創の攻防戦と言った方が正しそうだというのが、翔音の見解だった。そして、だからこそただの喧嘩よりも厄介なことが起こるような、そんな予感がしていた。

 とりあえず、創が自分に相談すると決めたということは、自分にも何かが出来るからなのだろう。力になれるといいなと思いながら、翔音は小さな不安を胸に眠りについた。


 そして翌日。仕事が終わり、創と共にいつもの店に向かった。湊はあれからも仕事が終わると早々に帰ってしまうので、特に隠れる必要も無かった。

「やーごめんねカノン」

「本当だよ。二人が全然喋んないから楽屋の空気ずっと終わってるじゃん」

 ごめんごめん、と謝る創の様子は普段と変わらない。

 ————湊はめちゃくちゃダメージ受けてますって感じなのに、そうちゃんはこの感じなんだよなぁ。

 湊は翔音が話し掛けると普通に対応はしてくれるもののどこか気まずそうで、この三日間はあまり賑やかに話をするようなテンションではなかった。

「…で、どうしたの?」

 んー、と創は腕を組んで唸る。何から話すべきか、と悩む創が答えを出すのを翔音はただ見守って。

「まぁ率直に言うと…湊が今ストーカーされてて」

「えっ?! ストーカー!?」

 思わず大声で復唱してしまう。創はそんな翔音にただ、うん、と頷いた。

「だ、誰に? ファンの子?」

 それしかないだろうと思いながらの問いだったのだが————創は、さらにとんでもないことを明かした。

「いや、元カノ」

「はっ?! 元カノ!? ちょ、ちょっと待って」

 ————湊って彼女居たの?!

 情報が多くてパニックになる。そんな翔音に、創は調子を崩さずに返した。

「まー元カノって言っても、中学の頃の話だけどね」

「あ…中学か…」

 少し落ち着いたものの、混乱から完全には抜け出せない。

「中学三年から高校一年くらいまで一年くらい付き合ってたかなー? その子にどうやらヤバめのストーキングされてるぽいんだよね」

 創は気怠げに言うと、大きくため息を吐いた。

「やばめと言うと…?」

 心臓が嫌な鼓動を鳴らす中、恐る恐る尋ねる。

 創は、淡々と答えた。

「まず家バレしてる。だから、多分良くない郵便物とかが送られてきてる」

「全然まずいじゃん!!」

 ————家がバレてるってもう終わりじゃない?!

 ハラハラしながら、翔音は質問を続ける。

「いつから…?」

「本当にいつから始まったことなのかは分かんないけど、オレが怪しいなって最初に思ったのが三ヶ月前」

 三ヶ月前————ということは、ちょうど翔音の復帰の詳細が決まり、ライブに向けて練習を開始したあたりだった。

 ————全然、気付かなかったな。

 それだけ自分のことでいっぱいいっぱいだったのだろう。周りが見えていなかったのだと気付かされて自己嫌悪に陥りながら、一番気になっていることを尋ねた。

「で、どうして湊は黙ってるの…? 古海さんも知らないんだよね…?」

「知らないね。オレにもまだ隠そうとしてるし」

「なんで…? 普通に危ないし、ちゃんと対応してもらた方が…」

 そんなことは当然湊だって分かっているはずだと思いながら問い掛ける。

「なんだろーなー…正直、オレにもよく分かんない。聞いても答えてくんないし」

 創の声が落ち込む。

「個人的な関係の子だからなのかな…さすがに、彼女に遠慮して、とかじゃないと思うけど」

 よく分かんないや、とどこか投げやりに溢した創を前に、その心中に思いを馳せる。

 ————そうちゃん、辛かっただろうな。

 湊に寄り添おうとして、けれどそれを何度も拒否されて。それでも放って置けないから、嫌がられても怒らせてもどうにか真相を暴こうとして————。

 創にそこまでされても黙秘を貫こうとする湊は意外ではあった。だからきっと自分にも創にも分からない何か大きな理由があるんだろうと思った。

 創は視線を落とし、沈んだ声で呟くように言った。

「なんで湊があんなに隠そうとするのか、一人で抱え込もうとするのか、それが分かんない状態で大人に助けを求めたくなくて」

 あまり聞かない創の弱々しい声。

「でも、もうオレ一人じゃ無理かもって思って…カノンに話しちゃった」

 ごめんね、と創は眉を下げて笑った。その痛々しい笑顔に、胸が締め付けられる。

 ————俺に何が出来るのか、分からないけれど。

 創がここまでして暴けなかったのなら、自分が聞いたところではぐらかされて終わるだけのように思えた。

「協力出来ること、何かあるかな」

「んー…具体的に何をして欲しいって言うつもりで話したんじゃないんだけど…」

 そうだなぁ、と創は考えるように天井を仰ぐ。そして、ぽそりと呟いた。

「湊のこと、見てて欲しいかな」

「見てて…?」

「オレと居るより、カノンと居る方が気が楽だと思うんだよね。今は」

 吐かせるのはオレがやるから、カノンは湊の安らぎであってほしい————創はそう言って笑った。

「湊を極力一人にしたくないから…出来る範囲で、一緒に見ててくれたらうれしーかな」

 湊は創から逃げている状態だから、そばに居る役は自分に任せたい、そういうことなのだろうと理解は出来た。

 ————でも、やっぱり、寂しいな。

 誰よりもそばで湊のことを見ていたいのは創だろうに。上手くいかないものだな、と思いながら、翔音は頷いた。

「分かった。ちなみに、彼女ってどんな見た目なの?」

 外見を知っていたら、警戒しながらそばに居られると思ったのだが。

「それがさ、オレも見たことないんだよね」

「えっ、そうなの?」

「うん、名前も知らない」

 中学の時の彼女なら、会ったことがあるか、せめて写真を見たとかはあると思っていたので、まさか名前まで知らないとは、と驚く。

「そういう話はしなかったの?」

 二人の距離感を考えると、話していても何ら不思議はなかった。色恋となるとまた別なのだろうか、と思いながら創の返事を待っていると、創は「あー」と少し気まずそうに頭を掻いた。

「あん時さ…彼女が出来たーって言う湊にムカついて、全然話聞いてやらなかったんだよね…」

 こんなことになるなら、ちゃんと見せてもらえばよかったなー、とぼやく創。

「じゃあ、本当に何も知らないの? 一年も付き合ってたのに?」

「うん。オレが聞きたくないって言ったから、湊も全く話さなかった。で、気付いたら別れてたって感じ」

 ————そうちゃん、そんなこと言うんだ…。

 意外な一面を見た気持ちになる。今だったら絶対にそんなことは言わないような気がして、当時は年頃だったからだろうか、などと思考を巡らせる。

「そっか…じゃあ、とりあえず気を付けつつ湊と一緒に居るよ」

「ありがと。でもまぁ、無理にやんなくていいよ。ちょっとだけ気にしてくれれば」

 わかった、と頷く。

 そしてふと思ったことを尋ねる。

「一応確認なんだけど…澄睦さんには、言わない方がいいんだよね…?」

「うん、言わないでほしい。オレも証拠持ってるわけじゃないし、湊がなんか変なのもちゃんと解明して、湊も納得させた上で言いたいんだ」

 ————すでに結構危うい状況のような気がするし、事務所にも伝えた方がいいとは思うけど…でも、そうちゃんの気持ちも、分かるから。

 湊と創が大丈夫だと判断しているのなら、今すぐに動かなければならないような事態ではないということなのだろうと思い、翔音は創の意思を尊重することに決めた。



 ————はずだったのだが。

「南くんの話、聞いたんですか」

「えっ?!」

 翌日、帰りの車にて突然投げられた問いに、翔音はピシリと固まった。

「な、なんで…」

「高宮くんと揃って難しい顔してたら、分かりますよ」

 呆れを含んだ笑いが返されて、少し恥ずかしくなる。

 ————そんなに分かりやすかったかな…。

 澄睦が気付くのなら、湊にも気付かれているかもしれないなと思い、翔音は自らの不器用さにため息を吐いた。

「大変そうですね。解決しそうですか?」

 まさかストーカー行為に悩まされているなどとは思っていないのだろう、ただ喧嘩の行方を尋ねるように、澄睦は軽い調子で問うた。

「…いえ…簡単にはしなさそうです…」

「そんなに拗れてしまったんです?」

「拗れた、というか…」

 翔音は言葉に迷いながら答える。

「俺も全貌を聞けたわけじゃないので、よく分からないところも多くて」

 なるほど、と澄睦はただ相槌を打った。

 ————これ、澄睦さんに後々バレたら結構怒られそうだな。

 そんな危険な状態でなぜ黙っていたのかと詰められそうだと想像して背筋が冷える。

 翔音の心の内など知らず、澄睦は変わらぬ調子で話し続ける。

「仕事になると見事に切り替えられているので、仕事上は問題なさそうですが…もう一週間以上二人が仲良く話している姿を見ていないので少し寂しくなってきました」

「分かります、寂しいですよね」

 賑やかな控え室の空気が恋しい。三人でご飯に行くようなこともなくなってしまった。

 ————いつになったら、また三人で遊べるかな。

「早く仲直り出来るといいですね」

 そうですね、と頷きながら、翔音はしとしとと降る雨をぼんやりと見つめた。



 しかし、さらに一週間が経っても状況は変わらなかった。

 音楽番組出演の際、このまま本番を迎えて大丈夫なのかと不安になるほど湊と創の空気が悪かったこともあった。

 創からは、少し尻尾が掴めただとか、湊の家に押し掛けたらまた喧嘩してしまっただとか、そんな連絡をもらっていた。しかし、解決の兆しは見えないままだった。

 翔音も湊に話し掛けたり、一緒に過ごそうとしてみたりしたものの、創とタッグを組んでいることはやはりばれており、ただ申し訳なさそうに「ごめんね」と謝られることばかりだった。

 上手くいかないな、と思いながら、それでも出来ることはしようとめげずに湊に話し掛け続けた。

 そんな中で、新たな企画の話が澄睦から持ち込まれた。

「握手会…?」

「はい。アルバムリリースの先駆け施策として、久々にやるのはどうかという話が出まして」

 限定版の予約を該当サイトから行った人の中から抽選を行い、小規模の握手会を行うというものだった。企業とのタイアップ企画で、宣伝効果も高いため、事務所としては前向きに検討したいと思っているという話だった。

 それらの説明を淡々とした後、澄睦は翔音の目をじっと見つめて問い掛ける。

「参加者の九割以上が女性だとは思いますが、中には男性も居ると思います」

「…はい」

 それを気にしているだろうことは分かっていた。

 澄睦は、優しく微笑む。

「翔音くんの、素直な所感を伺えればと思ってます」

 ————やった方がいいに決まってる。

 ただ、問題を起こすわけにはいかない。平然を装って、見知らぬ男性と握手出来るか、という点でイメージを膨らませる。

 恐怖心を抱かないのは無理だろうと思った。その上で、それを隠し通して握手が出来るか、目を見て笑って話せるか————。

「…」

 ふるり、と勝手に身体が震えた。

 当然、澄睦はそれを見逃さない。

「…今回は、やめておきましょうか」

 そっと囁かれ、翔音はぱっと顔を上げる。

「ま、待ってください、でも————」

「無理する必要はないと思っています。健全な状態で活動を続けられることの方がずっと大切ですので」

 澄睦の言っていることも分かった。下手に無理をして、症状が悪化したり、最悪その場をやりきれなかったりする方がずっとグループにとってはマイナスだと。

 ————でも、握手会は…ファンのみんなにとっても、すごく、すごく特別なイベントだ。

 出来ることならやりたかった。それに、直接言葉を貰えるという点では、アイドル側にとってもとても特別なものだった。

 テーブルの下で拳を握る。どうにか、やれる方法はないかと、必死に考えて。

 心配そうな顔をした澄睦と目が合って、はっとした。

「…!」

 強張っていた心が、解れていく。

 ————そうだ…きっと、澄睦さんが居てくれれば。

「…頑張らせて、もらえませんか」

 深く考えるより先に言葉が出ていた。

「握手会中、いつもみたいに澄睦さんがそばに居てくれれば、大丈夫だと思うんです」

「え…?」

 澄睦の口から、小さな声が漏れる。その呆然とした顔を前にして、少し羞恥を覚えながらも翔音は言葉を続けた。

「ただそばに居てくれればそれでいいんです。後ろに立っていてくれるとか、そういうので…それだけで、すごく安心出来るから」

「…っ」

 澄睦は鋭く息を呑んだ。

 その顔が一瞬強張り、すっと表情が消え失せる。

「澄睦さん…?」

 少し驚いて呼び掛けると、すぐにいつも通りの柔らかさを取り戻した。

「すみません、少し驚いてしまいました。では、握手会は私が付き添う形であれば、問題無さそうですか?」

 ————見間違い…?

 さっきのは何だったのだろうという疑問が残りつつ、翔音は「それでお願いします」と頭を下げた。

「では、実施の方向で進めますね。形式なども一応検討を進めていて————」

 すっかり元の調子で始まった澄睦の話を聞いているうちに、すっかりその一瞬のことは頭から抜け落ちてしまった。



 打ち合わせが終わり、来月の握手会に思いを馳せながら、自室で片付けをしている時だった。

 ピロン、と通知音が鳴ってスマートフォンを確認する。差出人は創だった。

『湊とちょっと和解した』

「!」

 ————やっと…!

 ちょっと、とはどういうことだろうと思いながらも、朗報にほっとしてすぐに返信をする。

 しかし、打ち込んでいる途中で創から電話が掛かってきた。

「もしもし?」

『もしもーし! いま大丈夫だった?』

 大丈夫、と返すと、さっそく創は話を始めた。

『ひとまず湊と話せたんだ〜』

「よかった! ストーカーのこと全部話してくれたの?」

『いや、全部じゃないな。まぁ事実は認めたって感じ』

 完全な解決にはまだ遠そうではあるものの、大きく前進したと言えるだろう。二人の仲が元に戻るだけでも大きかった。

『とりあえず、しばらくオレも湊の家に寝泊まりすることにした』

「な、なるほど…」

 ————相変わらず本当に仲が良いな…。

 つい昨日まで口も聞かない状態だったのに。二人の絆の強さをまた垣間見たような気持ちになりながら問う。

「じゃあ、それで何が起きてるのか確認していくの?」

『んー、どちらかと言えば、危ないことが起きないように見張るって感じかなぁ…』

 創は事細かに現状を説明した。

 湊は今中学の頃に付き合っていた彼女からストーカー行為をされている。それは事実として認めたものの、実際に何をされているのかの詳細は打ち明けなかった。聞けたのは、相手は湊の家を知っているため、郵便物に不快な物が届いていることだけ。具体的にどういうものが届いているのかは分からずじまいだった。

「…じゃあ、情報としては新しいものはないってこと?」

『そーなんだよねー。予想が全部当たってたってことが分かっただけ』

 はぁ、と創は大きくため息を吐く。

「それで、湊はどうするつもりなの?」

『自力で解決するから放っておいてくれって。そこも結局変わってないんだよなぁ。もう変に探らないから、その代わりに家に入れろって言って、転がり込むことが決まったって感じ〜』

 強引だな、と苦笑を漏らしたものの、少し安堵する。

 ————結局、湊もそうちゃんには甘いもんなぁ。

 創からのお願いは断れないのだろうと思うと笑みが溢れた。

『一旦は経過を見よっかなって思ってんだけどさ、ヤバいと思ったら大人に相談するわ』

「うん、それがいいと思う」

 何かが起こる前に、早くそうしてほしいというのが翔音の本音ではあった。ただ、二人には二人の考えがあることも理解しているため、今は二人の決めたことを尊重しようと思っていた。



 しかし、状況は緩やかに悪化した。

 湊と創が一緒に暮らし始めて最初の方は、二人の空気感も元通りになり、控え室には平穏な空気が戻ったのだが————段々と、歯車は狂っていった。

 ————最近、湊の様子がおかしい。

 思い詰めたような顔をしていることが増えた。声を掛けると異様に驚くことがある。

 その、何かに追い詰められるような、どこか切羽詰まった様子は見ていて不安になるものだった。基本的に翔音と共に居る澄睦にもそれは察されていて、ついに「南くんは大丈夫なんでしょうか」と聞かれてしまった。

 ————本当にこのままにしておいていいんだろうか。

 例の件が発覚してすでに一ヶ月が経とうとしている。もう湊の意思を無視してでも、解決に向けて動いた方が良いのではと、そう思い始めた時だった。

「っ、カノン!!」

 切迫した大きな呼び声に、驚いて振り返る。

「な、なに? どうしたの?」

「湊見てない?」

 収録のため、テレビ局を訪れていた。廊下を走って来たらしい創は若干息を切らしている。

「まだ見てないよ。どうしたの」

 その緊迫した様子に、嫌な予感がした。

「くっそ、どこ行ったんだよあいつ」

 珍しく荒っぽい言い方に、その余裕の無さが見て取れてさらに不安が募った。

「控え室は?」

「さっき見た時は居なかった」

 でも入れ違ったかも、と言う創に、翔音は即座に提案する。

「俺が控え室見てくるよ。居たら連絡する」

「ありがと」

 創と別れて廊下を早足に進む。すれ違うスタッフに挨拶をしながら控え室を目指し、「デライト・メアリー様」と書かれた部屋を見つける。そして、急く気持ちのまま、バン、と勢いよくドアを開けた。

 見慣れた控え室には、探していた湊が居て。

「————ッ」

 びくりと身体を震わせて振り返ったその瞳と、目が合った。

 ————あ…。

 そこに浮かんでいた怯えを、見てしまった。

「は……なんだ、翔音か…」

 胸を撫で下ろし、そんな慌ててどうしたの、と湊は打って変わって穏やかに問い掛ける。

 ————今の、顔…。

 一瞬見えてしまったその顔が、こびりついて離れない。湊が今どれだけ神経質になっているかを感じさせられた瞬間だった。

「…そうちゃんが、探してたよ」

 翔音の言葉に、湊は「ああ」と何かを察したように言った。

 翔音は持っていたスマートフォンで、控え室にいた、と創にメッセージを送り、それから湊に向き合った。

「創って、ああ見えて過保護だよね」

「最近の湊見てたら、過保護にもなるよ」

 翔音の返しに、湊ははっとした顔をして、それから一つ息を吐いた。

「…翔音にも、心配掛けてるよね。…ごめんね」

 湊は申し訳なさそうに笑う。その弱々しい笑みに、胸が苦しくなった。

 謝らなくていいから、早くその不安を、恐怖を、取り除いて欲しい————そんな思いで、口を開いて。

「ねぇ、湊、やっぱりもう————」

 ガチャ、と控え室のドアが開いた。

「…はー、いた」

 大きくため息を吐いて、創はすたすたと湊の方へ足を進める。

「勝手に居なくなるなって言っただろ」

「…局内だから、あんまり気にしてなかった」

 湊はバツが悪そうに視線を逸らして呟く。そして席を立つと、「お手洗い行ってくる」と言って控え室を出て行った。

「…ちょっと、潮時かも」

 その背中を見送って、ぽつりと創が呟いた。

「潮時って…」

「カノンも気付いてると思うけど、湊もう結構やばい」

 やばい、という言葉に背筋がすっと冷たくなる。

「説得してみるけど、無理だったらもう勝手に動くわ」

「…うん、そうした方がいいと思う」

 危ない目にだけは遭わないで欲しいと切に願いながら、翔音は重く頷いた。


 その晩、創から連絡が来た。

『明日の仕事終わりに、マネたちに時間もらって話そうってなった』

「…!」

 ————よかった…。

 翔音は深く息を吐く。これで解決に向かうはずだった。

 どさりとベッドに寝転んでぼうっと天井を見上げる。

「明日は、握手会か…」

 最近は湊の件が心配ですっかり頭から抜け落ちていた。

 不安が無いと言えば嘘になる。しかしやると決めたからには必ずやり通さなければと思っていた。

 ————湊もそうちゃんも、澄睦さんも居てくれる。だからきっと、大丈夫だ。

 目を閉じる。

 この握手会を無事乗り越えられたら、きっと何かが変わると、そんな予感がしていた。

 仕事を再開して二ヶ月。話題になったおかげで、バラエティ出演や雑誌の特集など、これまでソロではやって来なかったような仕事もこなせるようになってきた。

 そしてその結果、この恐怖症によりやりづらさを感じてしまうことが何度もあって。

「克服…しないと、ダメだな」

 叶えたい夢に向かうために、まずはこの症状を緩和させなければならない。

 ————『可愛いことを恐れなくなったあなたを見てみたい』

 あの日澄睦に言われた言葉が蘇る。

 ぼんやりとしたその夢を形にしたかった。ずっと抱えてきたジレンマを解消して、自分の強みを活かせるアイドルになりたい————そんな希望を抱く。

 そのために、まずは男性恐怖症を乗り越えなくてはならない。知らない男性と手を繋いで言葉を交わさなければならない明日の握手会は、克服への大きな一歩に繋がるはずだった。

「…頑張ろう」

 翔音は決意を胸に今一度掲げた。



 そして、握手会当日。

 集合してすぐに衣装に着替える。今日はスタイリストが選んだ少しカジュアルなシャツスタイルだった。夏も本番のため、長丁場に耐えられるよう涼しい素材のものが使われている。

 着替えを終えると、流れの最終確認が始まった。

「本日は三部構成になります。合計来場者数は千五百名程度です。各回九十分の予定で————」

 古海と日山の話を聞きながら、翔音はあらためて気合いを入れた。

 ————絶対にやり切る。来てくれた子みんなに笑顔で帰ってもらうんだ。

「…以上ですかね。何か質問はありますか?」

 大丈夫だとそれぞれが返す。古海は持っていた紙を畳みながら、翔音に向かって言った。

「御崎さんももう少しで来ると思いますので」

「はい、伺ってます」

 前の仕事が少し長引いてしまったため、握手会開始ちょうどくらいの到着になってしまうかもしれない、と連絡をもらっていた。

 古海は準備があるからと控え室を後にする。開始予定時刻までの十分ほど、三人で待機となった。

 ————千五百人か…たくさん集まってくれたんだな。

 いよいよだと思うと、どうしても緊張で呼吸が浅くなる。逸る心臓を落ち着けようと、深く息を吐いた。

「…翔音」

 小さく呼ばれた方を向く。

「大丈夫?」

 そっと囁いた湊に、翔音はしっかりと頷いた。

「うん、大丈夫」

 ちょっとドキドキするけどね、と軽い調子で付け足すと、湊も柔らかく微笑んだ。

「楽しもうね」

「うん!」

 楽しみだという気持ちも当然あった。ファンに直接会えると思うと嬉しくもある。 

「ちょー久々だし、楽しみだな〜」

 創がにこにこしながら言った。最後にやったのはいつだっけ、あの時はこうだったよね、そんな話で盛り上がる。

 ————全部打ち明けるって決めたからかな、湊もそうちゃんも、表情が明るい。

 憑き物が落ちたような二人の様子に安堵する。

 話している間に十分が過ぎ、古海が戻ってきた。

「ご移動お願いしますー」

 声掛けに、三人は揃って頷いた。

 古海に続いて、会場へと続く廊下を進む。

「ここ開けるとすぐホールになります。手前に並んでるお客さんからは見えると思うので、よろしくお願いします」

 古海がドアを開ける。どうぞ、と言われて、三人はホールに足を踏み入れた。

 その瞬間、悲鳴が上がる。

 ————わ…すごい人だ…。

 分かってはいたものの、これだけの人が集まってくれたのだと思うと嬉しくなる。

 三人は声を上げるファンに手を振りながら、スペースに入っていった。

 今回の握手会は、個人ではなく三人一緒に行う形式だった。先頭は創、次に翔音、最後に湊の順で、全員順番に握手していく。

 人二人分ほど空けて、三人は横一列に並び立った。すぐに、まもなく開始するという旨のアナウンスがかかる。

 翔音はそれを聞きながら、ちらりと辺りを見渡した。

 ————澄睦さんはまだ居ないな…。

 もう少しすれば来てくれるだろうと思うものの、不安が心に渦巻く。

 開始には間に合わないかもしれない。たとえそうでも、ちゃんとやらなければ————そんなことを思いながらぐっと拳を握った時だった。 

「っ、すみません、遅れました」

 その声が聞こえて、翔音は勢いよく振り返る。

「…!」

 危うく、名前を呼んで駆け寄りそうになった。すんでのところで堪えて、その場から澄睦を見つめる。

「…」

 澄睦は、振り返った翔音を見て優しく微笑んだ。その目に、翔音は自分の身体から一気に余分な力が抜けるのを感じた。

 ————うん…澄睦さんが居てくれるなら、大丈夫だ。

 安心感に包まれて、自信を持って前を向く。

「…よかったじゃん」

 一連の流れを見ていた創が、小さな声で言った。翔音は少し気恥ずかしさを露わにしながら、こくりと小さく頷きを返した。

 そして、ついに握手会が始まった。

 順番に流れてくるファンと握手をする。一人五秒程度と決まっているため、交わせる言葉は一言程度だった。

「翔くん今日も可愛い〜!」

「ありがとう、るるさんもすごく可愛いよ」

「ッ!?」

 はくはくと口を開けたり閉じたりする彼女を可愛いなと思いながら、手を振って見送る。

 名札を付けて来てくれた人は、なるべく名前を呼びたいと思っていた。相手にとって、この言葉を交わせる一瞬がどれだけ特別なものか、自分もアイドルファンである翔音には手に取るように分かっていた。

 列はどんどん進んでいく。短い時間でちゃんと感謝や幸せを届けられるようにと、ただ目の前の人に全力で向き合って、集中して対応を行った。

 そうやって、頭をフル回転させて必死にひとりひとりと向き合って、一時間ほどが経った頃。

 次の人は、とその方を向いて。

 ————あ…。

 初めての、男性だった。握手会のスピード感は変わらない。考える間もなく、翔音の前まで来て、彼は手を差し出す。

 そして、目を輝かせて言った。

「大路くんのファンです! 戻ってきてくれて、ほんっとーにありがとうございます!!」

「…っ」

 一瞬、衝撃に固まってしまった。

 ————どうしよう、すごく、すごく嬉しい。

 同性からの応援は、どうしたって特別だった。その感覚を、思い出す。

 気付いたら、その手を両手で包み込んでいた。

「待っててくれて、ありがとう」

 目を見つめて、笑いかける。彼も嬉しそうに笑って、手を離す。

 深く考える時間もなく、すぐに次の人が目の前に来る。ただ、心はとても晴れやかだった。


「第一部は終了しました。第二部開始まで、今しばらくお待ちください」

 アナウンスを聞いて、ほっと一息吐く。

「翔くん」

 声を掛けられて振り返った。澄睦が水を差し出しながらにこりと笑った。

「よかったですね」

「…! はい!」

 翔音は笑顔で大きく頷く。

 ————怖くなかった、全然。

 ただ純粋に嬉しいと思えたことが、とても嬉しかった。本来不要な感情に邪魔されることなく、好意をちゃんと受け取れたことは、翔音にとってとても幸せなことで。笑い合う二人を、湊と創は特に声を掛けるでもなく温かく見守った。

 休憩は十五分程度だった。三人は用意された椅子に座って少しだけ足を休め、握手会の感想を言い合う。

「そろそろ再開します」

 スタッフの声に、三人は再び定位置に着いた。

 ————よし、残りの時間も頑張るぞ…!

 男性が来ても大丈夫だと確信を持つことが出来たため、開始前よりずっと気持ちが楽だった。

 そして、第二部も問題なく終わり、あっという間に三部が始まった。二部にも男性が数人居たが、全て恐怖を感じることなく終えることが出来ていた。

「よかったね」

 休憩中、湊はそう言って微笑んだ。翔音もそれに、「ありがとう」と笑って返した。

 そしてついに、最後の部の開始のアナウンスが流れる。

「っしゃ〜頑張るぞ〜!」

 創が大きく伸びをする。つられるように、翔音も肩を回して身体を解した。

 三部も問題なく進んだ。忙しくも楽しい時間を過ごし、いよいよ最後尾が見えて来たという頃になり。

「ありがとう、また会いに来てくれたら嬉しいな」

 握手と会話を終え、いつものように湊の方に送り出した時だった。

 ————え?

「ッ…」

 湊の表情が、凍り付いていた。

 見開いた瞳は、目の前の彼女でも、翔音でもなく、その向こうを見ていて。

 愕然としたその表情に、翔音の思考は、一瞬にして答えを叩き出した。

 ————もしかして。

 ぱっと創の方を見る。創に特に変化はない。

 次の女性が、創の前に来る。

 そこからは、全部がスローモーションのように見えた。

 彼女は創に手を差し出さず、代わりに服の中に手を忍ばせて————そこから、鈍色に光るナイフを取り出して。

 そのまま、その凶器を振り上げる。

 創は、呆然とその様子を見ていた。

「っ!!」

 翔音が飛び出す。彼女と創の間に割って入り、その手首を強く掴んだ。

 彼女の手からナイフが落ちる。コンクリートの床にぶつかる乾いた金属音。そこで、一気に時間が流れ出した。

 悲鳴と、怒号。スタッフが動きだし、彼女を押さえ込み、参加者を遠ざける。しかし彼女は押さえ付けられている状態で顔を上げ、鋭く創を睨みつけた。

 反射的に、翔音は創を守るように前に立ち塞がる。

「あんたがいたから! あんたのせいで!!」

 頭にキンと響く金切り声。騒ぐ彼女を、スタッフが強引に連れて行く。

「…は……」

 背後から掠れた吐息が聞こえて、翔音は振り返った。

「そうちゃん、大丈夫?」

「う、ん…」

 未だ何が起きたのか分からないようだった。数秒の間、創は言葉を失って立ち尽くし、やがて深く息を吐いた。

「はー…マジでびびった…ありがと、カノン。怪我ない?」

「うん、俺は大丈夫」

 よかった、と創は胸を撫で下ろす。

 湊は、とそこでようやく二人は湊の方を振り返って。

「…っ」

 ショックを露わにして硬直している湊と、目が合った。

「湊————」

「三人とも、控え室に戻りましょう」

 しかし話し掛けることは叶わず、スタッフに背中を押されるようにして、翔音は創と共に移動する。

「…」

 ————湊、大丈夫かな…。

 前を歩く湊の表情は見えない。傷付いていないわけはなかった。不安になりながら、歩みを進める。

 マネージャー三名と共に控え室に入る。怪我はないかと確認された後、ついにその話が始まった。

「俺の口から、説明させてください」

 湊は抑揚のない声で淡々と説明を始めた。

「あの人から…ストーカー行為を、受けていました」

 刃物を持ち込んだあの女性は、やはり湊の元彼女で、ストーカーをしていた本人だった。マネージャー陣は驚きながらも口は挟まず、険しい表情で湊の話を聞いた。

 最初におかしな手紙が投函されてからすでに一年が経っていると明かされ、驚いて創と顔を見合わせる。

 ————まさか、そんな前からだったなんて。

 一年というと、翔音が活動を休止してすぐの頃だ。グループとしても大変だった時期に、まさかそんな問題を一人で抱えていたなんてと、胸が苦しくなった。

「始まりは…街で、彼女に声を掛けられて」

 感情のない湊の声は続く。

 よりを戻して欲しいと言われたこと。それを断ったら、しつこく付き纏われたので無理やり振り払って逃げたこと。

 しかし、恐らくその時に家がばれてしまった。付けられていたのかもしれない、迂闊だった、と溢す湊の表情は見たことのないほど暗かった。

 それから、手紙やプレゼントなどが送られるようになった。直接話しかけられたり、家に押し掛けて来たりはされず、しばらくはそれだけだったから、迷惑だとは思いつつそこまで気にしていなかったと言う。

「…でも、送られてくる物の中に、プライベートの時の俺の写真が混ざるようになって」

 これは少し危ういかもしれない、と思い始めたのが、今から三ヶ月ほど前。ちょうど創が異変を察したあたりだった。

 そこからメッセージは過激なものになっていき、痺れを切らした彼女から、連絡が欲しいと要求されるようになった。

 ————本当は、もっと怖いことが書いてあったのかもしれない。

 これは勘でしかなかったが、最近の湊の怯えようから察するに、そこに書かれた文章は、今口で説明しているよりももっと恐ろしいものだったのだろうと思った。

 全て話し終えると、湊は一つ息を吸って。

「本当に、すみませんでした」

 深く頭を下げた。

 部屋に重苦しい沈黙が流れる。

 ————確かに、ずっと黙っていたのは、良くなかったかもしれないけれど。

 一人で苦しい思いをして来た湊が謝るなんておかしいと、そう思ってしまう。

「…顔を上げてください」

 口を開いたのは古海だった。

「色々と言いたいこともありますが…今はまず、話してくれてありがとうございました」

 湊はゆっくりと顔を上げる。

 古海は湊の目を見て、優しく微笑んだ。

「大変でしたね。もう、大丈夫ですよ」

 その柔らかな声に、湊は目を見開く。

 古海は穏やかな調子で言葉を続けた。

「警察からの事情聴取などはあるかもしれませんが、後のことは僕らで片付けます。恐らくニュースで取り上げられたり、あることないこと書かれたり、世間は必要以上に騒ぐでしょうが、活動の妨げにはならないよう、出来る対応はしていこうと思います」

 古海が椅子から立ち上がると、澄睦と日山も席を立った。

「我々はスタッフを交えて少し話をしてきます。三人は着替えを済ませて、帰り支度をしていてください」

 はい、と頷く。マネージャーたちは控え室を出て行った。

 そしてついに、三人きりになる。

「…ごめん、こんなことになって」

 湊は俯いたまま、言葉を紡いだ。

「握手会、せっかく、みんな来てくれたのに」

 掠れた声。

「俺の、せいで…」

 湊のせいじゃない、と言いたかった。けれど、湊がその言葉を求めているとは思えなくて。

 迷った末に出てきたのは、励ましだった。

「…大丈夫だよ」

 翔音は湊の顔を覗き込むように言葉を伝える。

「誰にも怪我がなくてよかった。握手会はまた出来るよ。現場に居合わせちゃった人たちには申し訳ないけれど…でも、その人たちも、俺たちでちゃんと笑顔にしよう」

 薄く涙を張った湊の瞳が、翔音を捉える。

「ありがとう、翔音…翔音が、居てくれて、本当に…」

 反射的に自分は何もしていないと言いそうになって、しかし創が口を開く方が早かった。

「オレからもお礼言わせて。ホントに助かった」

 そこでようやく、彼女を無力化させたことについて言われているのだと気付く。

「俺が一番近くでよく見える位置にいたから出来ただけだよ」

「それでも…全く予期してなかったから、オレは全然動けなかったし。カノンが飛び出してくれなかったらちょっとヤバかったかもしれないから」

 いざ刃物を向けられたら、身体が動かなくて当然だろうと思っていた。あれは自分が狙われていなかったことや、直前に警戒が出来ていたからやれただけで、自分が特別すごいことをしたとは思っていなかった。

「良かったよ、怪我がなくて」

 にこりと笑うと、創も「ホントにありがと」と笑い返す。

「…」

 湊は一人黙っていた。

 ————すごく、責任を感じてるんだろうな。

 自分が創を危ない目に遭わせたと思っているのだろう。そう思ってしまうのは致し方ないとは思った。

 二人で話せるように部屋を出て行った方がいいだろうか、と思った時だった。

 コンコン、とドアがノックされ、どうぞと返事をすると日山が顔を出す。

「準備出来ました? 今日は私がお二人を送っていきますね」

 二人は、ありがとうございます、と声を揃える。そして「あ」と創が声を上げた。

「オレ、今日も湊の家行くんで、よろしくお願いします」

「…」

 湊は何も言わなかった。そんな湊の様子を伺いながらも、日山は「わかりました」と頷き、それから翔音に向き直った。

「大路君は御崎マネージャーが送ってくれるから、もう少しここで待っててもらってもいいですか?」

「はい、分かりました」

 じゃあね、と手を振る創と、お疲れ様、と小さく声を掛ける湊。

「お疲れさま、二人ともゆっくり休んでね」

 手を振って言った翔音に、湊はただ力無く微笑んだ。

 日山と共に二人が出て行き、翔音は一人残される。

 ————湊、大丈夫かな…。

 人一倍責任感の強い彼のことだから、きっととても自分を責めているだろう。創に任せるのが一番良いだろうし、それでしか湊の心を本当の意味で晴らすことは出来ないだろうと分かってはいつつ、心配で落ち着かない。

 ただ見守るだけというのも辛いものだなと思いながら、深くため息を吐いた。

 五分ほど、何をするでもなくぼうっと壁を眺めていると、不意にドアがノックされた。

 翔音は椅子から立ち上がって返事をする。

「どうぞ」

 ドアが開かれた。

 そこには、澄睦が立っていたのだが。

「…っ」

 その瞳が翔音を捉えた瞬間、その綺麗な顔が歪んだ。

 澄睦は驚く翔音に歩み寄ると、迷わずその手を取って。

「…心臓が、止まるかと思いました」

 両手で翔音の片手を包み込む。そして、背中を丸め、祈るように翔音の手をぎゅっと胸に抱いた。

「何もなくて…本当に、よかった…」

 か細い声が、胸に突き刺さる。

 肩に力が入り、強張った身体。俯いているため表情は見えなかったが、きっと見たことのない顔をしているのだろうと思った。

「…」

 自分が飛び出した瞬間を後ろから見ていた澄睦のことを思う。

 ————怖かった、かもしれない。

 翔音の背後に立っていたことを考えると、彼女が刃物を取り出して振り翳したところからの一連の流れが、澄睦にはよく見えていたはずだ。

「…すみませんでした」

 翔音は、小さな声で謝罪を口にする。

「俺は大丈夫です。ご心配をおかけして、ごめんなさい」

 ————澄睦さんの手、震えてる。

 その温もりから、自分を思う気持ちが伝わってきて。

「澄睦さん」

 少し痛いほどの力で自分の手を握っている手。その骨張った手に、反対の手をそっと添えた。

「心配してくださり、ありがとうございます」

 ————こんな顔をさせてしまったのに、嬉しいなんて思うのは本当に自分勝手で無神経だけれど…。

 でも、嬉しいと思う気持ちは認めざるを得なかった。

 胸がとくりと鳴るような、少し甘い幸せ。触れた手の温もりが嬉しくて、心がそわそわする。

「…」

 ゆっくりと、澄睦が顔を上げた。

 そして、その薄いガラスように光る瞳と、目が合って。

「…っ」

 ふわりと細められた瞳から、目が離せなくなる。

 急に速度を増す鼓動。顔に血が集まるのを感じて————。

 唐突に、澄睦の瞳が見開かれた。

「っ、すみません」

 そして弾かれたようにぱっと手を離す。

 突然のことに、え、と固まる翔音。先ほどまでの雰囲気はどこへやら、澄睦は青白い顔で大きく一歩下がった。

「すみません、反射的に、その、他意は、なくて…!」

 何をそんなに慌てているのだろうと思い————数秒を要して、澄睦が何をそんなに危惧しているのかに気付いた。

「あっ、全然! 全然大丈夫です!!」

 翔音はぶんぶんと手と首を振る。

「ただの握手ですから!! 全く気にしてません!!」

 ————気にしてないどころか、むしろ。

 嬉しかった、とはさすがに言えなかった。翔音は澄睦に一歩近寄る。

「本当に、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 一度深く頭を下げ、それから顔を上げた。

 澄睦は戸惑うように視線を泳がせた後、もう一度謝罪を口にする。

「急に触れてしまい、本当にすみませんでした」

「だから大丈夫ですって! 怖いとか、全く思わなかったので!!」

 翔音が懸命に問題なかったことを伝えると、ようやく澄睦も飲み込み、よかったです、と安堵したように言った。

 それから一つ息を吐いて、澄睦は改めて翔音を見つめて静かに話し出す。

「刃物に立ち向かったことについては…心配はしましたが、でも、もし翔音くんがあそこで割って入らなければきっと高宮くんが怪我をしていたと思うので、結果としては良かったと思っています」

 澄睦は小さく微笑む。

「とても、勇敢でした」

「!」

 ————勇敢、か…。

 あの時は必死で、何かを考える余裕もなく、ただ創を助けなければとそれだけが頭にあって。

 けれど結果、自分が創を守れたというのなら、それは誇らしいと思った。

 色々と危ういことはあったものの、これでようやく一件落着だとほっとした時。

「…で、それは、それとしてですが————」

 笑顔から一転、澄睦は眉を吊り上げて冷ややかに翔音を見下ろす。

「この件について知っていたのに黙っていたことについては、ちゃんと話をさせていただきます」

「うっ…はい…」

 翔音はしゅんと肩を落として頷く。そして、家に着くまでの間は、事の詳細を根掘り葉掘り聞かれ、その後にしっかりと叱られたのだった。


     * * *


「ありがとうございました」

 家の前まで送ってくれた日山に二人は礼を言う。

「まだ、しばらく色々あるかもしれないけれど、あまり気負わずにね。南くんはちょっと後日対応をお願いするかもしれないから、スケジュールの調整が入ると思うけれど、とりあえず明日はオフって聞いてるし、少しゆっくり休んでください」

 はい、と返事をして頭を下げる湊を、創はちらりと横目で見たが、その表情は暗いままだった。

 二人でマンションのロビーへ進む。湊の家に入り浸るようになって二週間、もう慣れたものだった。

「…」

「…」

 二人は無言でエレベーターに乗り、目的の階で降りる。湊の部屋に辿り着き、創は迷わずそのドアを開けた。

「ただいまー」

 帰宅した時には、誰かが居ようが居まいが、必ず口にしていた。

 ————『創のそれ、いいよね』

 いつものように誰も居ない部屋に向かって言った創に、湊はそう言って笑った。

 ————『一人暮らしって静かだし、俺もやろうかな』

 何気ないやり取りがふと蘇って、創は小さく息を吐いた。

 早くいつも通りの湊に戻って欲しい。最近はこの件ですぐ険悪になったり、気まずくなったり、純粋に笑い合う時間もあまりなかった。

「夕飯なにする?」

 宅配が楽かなー、と言いながら、創はリビングのソファに座り、スマートフォンを取り出して。

「…創」

 掠れ声。顔を上げる。

「危ない目に遭わせて、ごめん」

 声を震わせて言う湊に、創はわざと軽い調子で「ホントだよ」と返す。

「マジびびった〜。アレ何? 結局オレが湊と仲良いから嫉妬してたってこと?」

「…」

 湊は俯いて口を閉ざす。

 ————あー黙っちゃった…。

 創はため息を吐いて、「湊」と呼び掛けた。

「もーさ、いーよ。解決して良かったじゃん」

「…ごめん」

 謝って欲しいわけじゃない。苦しみから解き放たれたことを喜んで欲しいのに、上手く行かないなと創はもう一度ため息を吐いた。

「ねー何に落ち込んでんの?」

 ソファから立ち上がる。俯く湊の顔を覗き込みながら話し掛ける。

「確かに、あの場に居合わせちゃった子とか、握手会に参加出来なかった子とかには申し訳ないけどさ、誰にも怪我は無かったんだし、マネもきっと振替で考えてくれてると思うし————」

「そうじゃない」

 スパッと鋭く言葉を挟まれる。

 湊は創の視線を受け止めて、その目を見つめて返した。

「それも、そうだけど…翔音が飛び出さなかったら、きっと創が怪我してた」

 ————いやまぁしてただろうけど、結果しなかったんだしよくない…?

 イフの話に意味はないだろうと呆れつつ、とりあえず否定せず一旦全部聞いてやろうと思って。

「元を辿れば…アイドルやりたいって創を誘ったせいだなと、思ったんだ」

「…は?」

 話が飛躍しすぎて全く飲み込めない。湊は暗い声で言葉を続ける。

「こんな事件が起きなくても、この先も、アイドルをやっていたら、きっと傷付くことがたくさんある。そういう世界に、俺が連れてきちゃったんだって…」

「ちょっと、何言ってんの」

 急に何の話が始まったんだと、創は困惑げに割り込む。

「だって、俺が誘わなかったら創はアイドルにはならなかっただろ」

「いやそれはそうだけど、ただきっかけってだけでそこまで湊が責任感じるのはおかしいでしょ」

 湊はただ目を逸らした。そしてぽつりと呟く。

「…創にとって、アイドルの道に進むことが本当に良かったのか、わからない」

 創は言葉を失った。

 湊がそんなことを考えていたなんて全く知らなかったし、少し悔しくもあった。まるで、自分の気持ちを軽んじられたような、そんな気持ちになる。

 湊の隣でアイドルとしてやってきて、その道を選んだことを後悔したことなんて一度たりとも無かった。それは、大変なことがあっても、多少怠いと思うことがあっても、常に隣に、アイドルを真っ直ぐに愛する湊が居たからなのに。

 でも、確かに、こういう話をちゃんとしたことは無かったかもしれないと、そう思って。

「…確かにさ、湊がやりたいって言ったから、選んだ道ではあるよ」

 創は湊に語りかける。

「でも、決めたのはオレじゃん」

 アイドルに目を輝かせる湊を、小さい頃からずっとそばで見ていた。きらきらと憧れを語る湊の幼い横顔は、今も鮮やかに思い出せる。

 そして、そんな湊を見る度に、この人たちはこんなに人を喜ばせることが出来るのだと、アイドルというものの持つ力に感動した。

「湊がやりたいって言ったって、オレがやりたくないことならしないよ」

 それくらい、湊も分かっていると思っていたのにな————そう思うと、やっぱりこんな懸念を抱かれていたこと自体が悔しい。

 けれど、言葉にしなければ分かってもらえないというならば、はっきりと伝える必要がある。創は湊の顔を覗き込んだ。

「これはオレがやりたくて————湊と一緒にやりたくて、選んだことなんだからさ」

 暗く沈んでいる湊の瞳に光が灯るよう願いながら、言葉を紡いだ。

「一緒にやれて嬉しいって、お前にも思ってほしいけどな」

「…っ」

 引き結ばれる唇。

 創はただ真っ直ぐに湊を見つめる。

 しばらく無言が続き、それから湊が絞り出すような声で言った。

「…思ってるに、決まってるだろ」

 ほっとする。創はけろっとした顔で笑った。

「じゃ、それだけでいーよ。変なこと考えないでさ、一緒に楽しくやってくことだけ考えてよ」

 湊はしばらく創の目を見つめ、それから「うん」と小さく頷いた。それを見て創も満足そうな顔をすると、再びソファに勢いよく腰を下ろした。

「ご飯何にしよっか〜? 牛丼アリだな〜」

 スマートフォンを操作しながら言う創の隣に、湊もゆっくりと腰を下ろした。そして画面を覗き込みながら囁く。

「…今日は、俺が奢ってあげる」

「マジ? やった〜」

 じゃあもうちょい高いやつにしようかな、と検索を始める創。それを見ながら、湊は力が抜けたようにため息を吐いて、創の肩に寄りかかるように頭を置いた。

「…ほんと、人たらし」

「なに、悪口?」

「褒めてる」

「ならいーや」

 ほんと、そういうとこもね、そう言って、湊は創の温もりを感じながらそっと目を閉じた。

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