14話▶️男同士の駆け引き
俺はどうしていいかわからない状況に陥っていた。
「なぁ!聞いてるか凛人!」
「あぁ……うん。ちゃんと……聞いてるよ」
「はぁ……俺は今でも夢を見ているようだぜ……」
現を抜かす大八木くん……。ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている彼の隣を歩くのを躊躇うくらい、俺は引いていた。
◇◆◇◆——
時は遡り、放課後——。
昼休みの一件後、図書館で勉強会を行うことになった俺たちは、大八木くん、野辺さん、雫石さん、俺の4人で6人掛けテーブルを使い、黙々と勉強をしていた。
「悠ちゃん~ここの問題がわっかんない!」
「ここはね~」
隣同士に座り、大八木くんが野辺さんの勉強をみている……、のだが、明らかに距離感がおかしい。野辺さんの距離感が近すぎなのか、大八木くんがあえて近づいているのか……どちらにせよ、距離感が友達の距離ではない!
――大八木くん、今絶対変なこと考えてる!……羨ま、羨ましいとか思ってないけど、なんだろ……この背徳感。あの柔らかいものが、大八木くんの腕に当たっているではないか!わざとか?それとも無意識なのか?……くうぅぅぅぅぅ。
目の前で繰り広げられるイチャイチャはいつまで続くのか……俺の隣で1席空けて座る雫石さんは至っていつも通り、黙々と勉強をしていた。
「ねぇねぇ。あーちゃん、ここ教えて~悠ちゃんわかんないんだって~」
「は?わかんなかったら教科書見ればいいじゃん!だいたいは載ってるっしょ!」
「どこに載ってるかわかんないから聞いてんのに~」
「はあぁぁぁぁ。貸して!」
野辺さんに対して面倒そうに返事はしつつも、教科書をパラパラめくって教えようとする姿勢……。雫石さんは意外と面倒見が良い人なんだよな、と感心しながら俺も勉強に専念した。
「ってか、野辺……距離近いわ!当たってる!」
「ふぇ?何が当たってるの?」
「くっ……でかい乳が当たってる!」
「なになに~あ~ちゃん、羨ましいのぉ?」
「んなわけあるか!」
雫石さんの頬がみるみるうちに赤みを帯びている姿を見ていた俺は、心の中で可愛いと思いながら自己学習を進めた。
こうして下校時刻までみっちりと勉強をした俺たちは、4人揃って学校を後にした。
「私、今日寄るとこあるから」
「あたしも今日かこれからバイトなんだ~今日はありがとね♡」
「うん。またね」
「美香ちゃん!また一緒に勉強しようね!」
「りょっ!ばいば~い」
「雫石さんも今日はありがとう」
「べ、別に……お礼を言われるようなことはないし……。じゃ」
雫石さんと野辺さんと別れた大八木くんと俺は、2人で並んで駅に向かって歩いていた。
「なぁ凛人」
「ん?」
「俺……美香ちゃんの事……好きだわ~」
「そうだろうね」
「へっ?なんしてわかったん?」
「いや……もう感情が駄々漏れだったよ」
「……まじ?」
「うん」
――あれで漏れてないと思うところが不思議……、とういうか本気で言ってるのか?
「そういう凛人はさ、どうなのよ」
「なにが?」
「なにが?……じゃなくて、気になってる子とかいないの?」
「いないことは……ないけど」
「うへっ!まじっ?!誰誰。ねね、教えて~同じクラスの子?それとも、他クラス?見た感じは可愛い子?ギャル?」
前のめり姿勢の大八木くんに、俺は一歩引きながらしどろもどろになりながら答えた。
「教えるわけないじゃん……」
「えぇ~けちぃ」
「けちぃ……って……はっ!まさかだと思うけど、美香ちゃんじゃないよね?」
「それだけは違う」
その後もしつこく聞いてくる大八木くんをうまく躱しながら俺は難を逃れた。
「もぅ!よし!こうなったら、中間テストで俺が凛人よりも点数が良かったら教えろよ!」
「……その話、のった!」
何がなんだかよくわからないまま、大八木くんと俺の賭けがこうして始まった。
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