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「すいません。あの、洗濯物を乾かす機械だけど、壊れちゃって。そういうのって今はいろいろ機能があるでしょ?でも私よくわかんないから。前のと同じものが欲しくて」

女性が説明書らしき紙を持って店内の従業員に話しかけている。対応しているのは、メタおじだ。メタおじとは、私が勝手に頭の中で呼んでいるあだ名で、本名は須能さんだ。レジの回りにあるカゴを移動させたり、客が乱した陳列棚を整えたりする仕事を任されている。彼は目を細めて説明書を読みながら答えた。

「ああ、これはあるにはあるんですけど、かなり昔の機械だから製造が終わってて、値段がかなり上がってるんですよね。それに配送にも時間がかかりますし、これを買うんだったら、メタバース化したほうが良いと思いますけど」

出た。いつもの決まり文句だ。彼は二言目にはメタバース化を勧める中年男性で、そんなにメタバースが好きなら早く自分も移行すればいいのに、と思うが、全く理解ができないわけでもないのが頭の痛い話だ。この世界は何をするにしても不便すぎる。それは私もよく分かっている。

「あなたね、ここで働いているんでしょ?だったらそんなこと言うのっておかしいわよ。私がここにお金を落とすように説得するべきじゃないの?商売を甘く見てる」

女性客は早口でまくし立てて不満をあらわにしている。だが言っていることはまるで正論である。騒ぎを聞き付けた店長が慌てて間に入り、なんとか収拾がつきそうだった。メタおじこと須能さんは、「メタバース接客」のおかげで、いつも店長にかなり厳しく指導を受けている。それでもなお、彼は全く接客方針を変えようとしない。今日みたいに騒動になることもあるが、妙に納得して帰る客もいる。割合としては半々くらいだ。須能さんに言いくるめられた客は、帰ってメタバース化したのだろうか。それとも、不便な方を選んだのだろうか。気になるところだ。

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