咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人
こじらせた処女/ハヅ
第1話
「なにしてんの!!」
夕方6時。帰ってきて早々、俺の部屋に入ってきたと思ったら怒ったような声を出す楓。
「ゲホッ、んだよ」
「んだよじゃない!!何で仕事してんの!!大人しく寝るって約束したよね!?」
「ゲホッ、せきで、ねれねっ、ゴホッ、から、」
「だからってパソコン弄って良くならないでしょ!!ほら没収!!早く横になって!!」
「でもっ、ゲホッゲホッっ、」
「もー…ほら、お水飲んで」
差し出された水で喉を湿らせて、何とかおさまり、息が楽になる。
「…でも熱ねえし…」
「37.8あるけど?」
「でも…動画早く上げねえと…」
「別にノルマがあるわけじゃ無いんでしょ?ちょっと長めに休みとりなよ」
「でも…」
「とにかくお粥作ってくるから。パソコンは俺の部屋に置いときます。大人しくすること」
ドアを開けたまま、部屋を出て行く。しばらくすると、何かを切っている音と、漂ってくる少し甘い出汁の匂い。
動画投稿者でまともに飯を食えるようになって丁度一年が経った。1人で撮影、編集をしているため、3日に1日のペースで上げるとしても、中々休む暇がない。さらに、今はゲームチャンネルも開設して、長時間配信をするようになって、さらに時間がなくなった。
(無理、してんのかな…)
楓に無理やり連れて行かれた病院では、過労気味だと言われ、休むように言われた。毎日出社して働くサラリーマンではない。自分で休みを設定すれば誰の圧力も受けることなく休むことができる。でも、最近は有名人がこぞって動画投稿サイトに乱入してきて、以前にも増して競争率が上がっている。休んだことで、今の勢いが下がったらどうしよう、視聴者に忘れられたら、そう不安になってしまう。
スマホで自分のチャンネルに飛ぶ。今日の動画は無事投稿されたようだ。1週間分のストックはあるけれど、その後の動画は明日から作り始めないと間に合わない。咳を抑える強めの薬も、処方してもらえなかった。幸い撮影は沢山している。ゲーム配信ができない分、編集だけでもやらないと。
「じゃあ俺会社行ってくるね」
「ッケホ、ああ、」
「のど飴と飲み物ここに置いとくから。ちゃんと寝とくんだよ?」
「ん、わか、たゲホッ」
「仕事してたら許さないから」
ガチャリ、鍵が閉まった音。
「ゲホッ、ゲホッ、」
ちょっとだけ。夜もちゃんと寝たし、楓が帰ってくる30分前までだけすれば良い。
(どこだどこだー)
楓の部屋に入って、目的のものを探す。こいつの部屋は物が少ないからすぐに見つかるはずだ。
(あった)
「何してるの?」
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