第5話

(どうしよどうしよどうしよ…)

 改めて濡れてる部分を確認すると、言い逃れできないほどには悲惨な状況。

隣の布団はきっちりとたたまれている。部屋の向こうから聞こえてくる音からするに、朝ごはんを作っているのだろう。

 心臓がうるさい。息が、しにくい。何て言い訳すれば良いんだろう。ごめんなさいとしか言えない。

 怒るかな、呆れるかな、嫌いになるかな。頭の中が色んな感情でいっぱいになる。


(あ…)

まだおしっこ、出そう。いつもオムツを変えた後、トイレに行く習慣が染み付いているから。

 下腹がきゅうきゅうして、冷たいからまたさらに行きたくなって。

濡れたズボン越しにソコを握る。トイレ、行きたい。でも、絶対に由希さんのところを通らないといけない。いずれはバレるけど、体が動かない。金縛りにあったみたいだ。

(おしっこ、出ちゃう、)

 息をするだけでも、出ちゃいそう。片方の手でお腹をさする。パンパンで、痛くて、苦しい。

(もうしちゃっていいかな…)

どうせ濡れちゃってるんだし。どうせおねしょしちゃってるし。どうせ、嫌われるし。

 

 もういいや。なんでも。


「凛く~ん…そろそろ9時になるけど…」

キイィ…背後のドアの音。体が固まって動かない。どうすれば良いか分からなくて、ギュッと目を瞑って息を詰める。

「まだ寝てるのかな…でもそろそろ起こした方がいいよね…おーい…」

「っひっ、」

肩に伝わる振動に驚いて、体が跳ねる。

「あ、ごめん、びっくりしたよね?」

恐る恐る由希さんの方を向く。ごめんなさいって早く言わないとなのに、声がでない。

「大丈夫?どこか具合悪い?」

「え、」

「顔真っ青だから。熱は…なさそうだけど…」

冷たい手が、おでこやら頬やらに触れる。いつも撫でてくれる手に安心して、何かが込み上げてくる。

「体温計持ってこよっか」

「いい、しんどくない、けど、」

「けど?」

いわなきゃ、ちゃんとごめんなさいっていわなきゃ。正直に言わなきゃ。

「お、ねしょ…」

「おねしょ?しちゃったってこと?」

声を出したら涙が溢れそうで、ただ首を縦に振る。

「じゃあシャワー行こうね」

じゅい…

「ぁっ、」

体を起こすと、圧迫されてじわりとソコがあったかくなる。布団を捲られ、シワを作りながら握りしめるところが丸見え。

「先におしっこ行っといで」

 恥ずかしさとタンクの限界が背中を押し、跳ね上がるように立ち上がり、走る。

「っひぃ、」

じゅい、じゅい…

走る時の振動で、溜まったものが出口に押し寄せる。少しずつ、漏れていくのには気づかないふりをした。出口を痛いぐらいに引っ張る。羞恥心やら、漏れそうやらがごっちゃになって、呼吸する息が引き攣りそう。


「わっ、」

ズボンの裾を踏んづける。フワッと心臓が跳ねる感覚。

どんっ、

コケる、そう思った時には膝と腕が鈍く痛みを訴えていた。

「い゛ったぁ…ぁ…」

マズイ、と思った時にはもう、遅かった。

じゅぃいいいいいい…

押さえがなくなった出口が温かい。痛む手で握りなおすも、指の間から無慈悲に流れ出る黄色い液体は、俺を中心に水溜りを作っていく。

「凄い音したんだけど…凛くん!!怪我は!?」

 慌てた声でこっちに向かってくる優しさが今はしんどい。

 やめて、こないで。

「みないで…」

顔、見れない。

「おねがい、ッヒ、…」

こんな惨めな姿、見ないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る