第8話 レベル2の強さ

 異世界に来て四日目の朝を迎えた。

 相変わらず穏やかな天気で、暑くも寒くもなく過ごしやすい。

 辺りの森は青々と緑の葉が茂っているので、雨の降らない地域というわけではないのだろう。


(町に着くまで、このままだといいんだけどな)

 ミズトは空を見上げ、傘やレインコートを持ち歩かなくても済むようにと願った。


 それから川で顔を洗い、少し背を伸ばすと、朝食のために森へ向かう。

 都会では味わえない、採りたての果物の新鮮さは格別で、朝のこの時間は数少ない楽しみになっていた。


 二種類の果物を一つずつ持って川岸に戻ると、ミズトは椅子代わりになりそうな岩に座り、果物をかじりながらステータス画面を表示させた。

 以前と比べて変化があったのはレベルの数字が2に上がっただけで、あとは何も変わってないように見える。


(なあエデンさん。レベルが上がって少しは強くなったのか? やっぱもっと上げておいた方がいい?)


【ミズトさんのクラス及びステータスは前例がないため、正確にお答えすることができません。ですが、ステータスAとこの世界の平均であるEを比較した場合、レベルが一つ上がる時の能力上昇率は5倍の差があると言われておりますので、Sを持つミズトさんはかなり強くなっていると思われます。ただし、安全を担保するためには、ミズトさんでもレベル10は目指すべきです】


(レベル10か……なかなか遠いな……)


 RPGロールプレイングゲームの感覚でいうと、レベル1から2へ上げることは最も容易なはずだ。

 それが三日も掛かったと考えると、レベル10への道のりは相当なものになる。

 できれば町に着くまでに、身を守れるレベルまで上げておきたかったのだが、十日やそこらでは無理そうだった。


「ま、それでも上げるだけ上げるしかないでしょうねえ」


 ミズトはエデンに回答を求めていないので、そう声に出しながら立ち上がると、再び町へ向けて出発した。




 四日目の戦闘は、一戦目から明らかにこれまでと違っていた。

 森でゴブリンと遭遇すると、今までは好戦的な相手がすぐに突進してくるので、避けて攻撃するか、相手が武器を振り下ろす前に踏み込んで攻撃。この二パターンしかなかった。

 ところが今回は、ゴブリンが突進しようとする前に距離を詰め、相手の背後に回り込んで攻撃を加えた。

 ゴブリンからすれば、自分が攻撃されたことに気づくことさえなく、絶命したかもしれない。


(なあエデンさん。今俺、勝手に身体が動いた気がするんだが……)


【ミズトさんはレベルが上がり、全ての能力が驚異的に上昇しています。高レベル戦士は考える前に身体が最も効率的に動くと言われていますので、ミズトさんも同様の状態かもしれません】


(んー、言いたいことは分かるけど、何年も修行して身に着けた技術ではなく、レベルが上がったら突然できるようになるって気持ち悪いな)


【そこはミズトさんの元居た世界とこの世界の、大きな違いの一つだと考えます】


(慣れるしかないってことか……)


 ミズトは消滅していくゴブリンを見ながら、剣と魔法の世界の不思議な仕組みを肌で感じていた。



 次に遭遇したモンスターは、フォレストゴブリンでもブルースライムでもなく、初めて見る灰色の毛並みをした狼だった。


 ====================

 フォレストウルフ LV10

 属性:水

 ステータス

  筋力 :H

  生命力:I

  知力 :J

  精神力:I

  敏捷性:H

  器用さ:I

  成長力:I

  存在力:J

 ====================


 前の世界にいた大型犬なんかとは違う。

 いや、同じ狼でも世界が違えばそもそもが違うと考えた方がいいかもしれない。

 目の前に現れたフォレストウルフは、ミズトのイメージしていた狼より二回りは大きく、虎やライオンといった最強の猛獣のような威厳と凶暴さを感じる。


(あれはモンスターってことでいいんだよな? モンスターと野生動物は違うのか?)


【はい、あれはフォレストウルフというモンスターです。野生動物にはレベルはなく、ステータスが表示されないので、ミズトさん達のような転移者や転生者は一目で判別可能です】


(なるほど)


 ミズトは、この森に棲む野生の狼なら、わざわざ戦わず見過ごすことも出来るのではと考えたのだが、モンスターなら倒すことにした。自分のレベル上げのための糧になってもらおうと。


「グルルゥゥッ」

 向こうも臨戦態勢に入っていた。


 ミズトのレベルは2。レベル10のフォレストウルフはレベルだけ見れば格上なのだが、少しも恐怖を感じず、自分の方が強いと確信していた。


「これも何かしらのスキルやステータスのせいなんかね」

 ミズトはそう言って、なんの躊躇もすることなくフォレストウルフへ向かっていった。


 相手もその動きに反応し動き出す。

 四足歩行だけあって、その速度は人間を遥かに凌駕している。

 お互いの距離が十メートルほどになると、捕食者だけが許された素早い動きで、フォレストウルフはミズトに飛び掛かった。

 フォレストウルフの鋭い牙がミズトを狙う。


 しかし、ミズトの剣は捕食者の動きを上回る速さで、相手の喉元を突き刺した。

 フォレストウルフの口は開いたまま、一瞬で動かなくなる。


 ====================

 フォレストウルフを倒しました。

 あなたは経験値20を獲得しました。

 ====================


 あっさりと戦いは終了した。

 手に残る肉を切り裂く感覚には慣れてきた。

 ただ、戦いには慣れたいとは思わなかった。

 この世界へ戦いに来たわけではない。来たくてきたわけでもないのだ。


 現実を受け入れ、やれる事はやるしかないと思ってはいるが、とても楽しもうという気にはなれなかった。


(あとどれだけ戦い続ければいいんだか……。あ、エデンさん、答えなくていい)

 ミズトは川と並行に、森の中を歩き出した。

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