十一話 違い
見比べていた紙をテーブルに置き、溜め息をつく。
「完全に変わってしまった」
目の前には二枚の紙。
一枚目には、前回までの人生で起こった出来事と中心人物の名を書いた。
二枚目には、今回の人生で既に退場した人物の名前を書いた。
前回までの出来事の大半が、王妃が中心になっている。
王妃がわたしを蔑む事で、起こった様々な問題。
それは王妃が退場したことで、おそらく回避できたと思う。
その点については、安心できる。
「問題は学園の方よね」
学園で起こった問題は、お助けキャラと言われたアランがいてこそ成立している。
そのアランがいなくなった事で、問題が起きない可能性はある。
でもアリアリス・チャス伯爵令嬢とフィリスリア・バラスティア公爵令嬢がいる以上、安心はできない。
しかも、前回までとは全く違う状態のため、彼女たちの動きが読めない。
紙に書いたわたしを殺す二人の女性の名前を指でたどる。
「違う流れになって、彼女たちはどうするかしら?」
教会の人身売買や王妃が病気療養のため王都を離れた事は新聞に載った。
つまり、彼女たちにも前回までとは違うと知られている。
わたしは、この結果に後悔はしていない。
でも、これからの事を考えると不安になる。
「彼女たちは、乙女ゲームというものに固執しているように見えた」
おかしくなった流れを、元に戻そうと動くかしら?
フィリスリア・バラスティア公爵令嬢は、慎重な性格だった。
彼女なら、何が起こっているのか家の力を使って調べるでしょうね。
「問題は、アリアリス・チャス伯爵令嬢だわ。彼女はフィリスリア・バラスティア公爵令嬢より感情で動く事が多かった。そして乙女ゲームのためには、何をしても許されると思い込んでいた」
彼女たちの会話を聞いて、いつも不思議だった。
乙女ゲームが何かは、今も正確には分からない。
でも、そのために人を簡単に貶めて殺しても許されると思っている事が。
「まぁ、今更乙女ゲームが何かなんて、どうでもいいけれど」
アリアリス・チャス伯爵令嬢は、きっと乙女ゲームが変わった事は許せないはず。
「彼女にとって、アランを手にする事が始まりのようだった」
おそらく何とかしてアランと身近に置こうとするはず。
そのためには、弟が邪魔になる。
でも、ただ殺しても意味がない事は分かっているはず。
「いえ、彼女はとても愚かな考えを持っていたわ。自分たちのために世界は動くと」
確か、強制力だったかしら?
まぁ、その力があるなら王妃は排除されたりしないわ。
「つまり世界は彼女たちのためには動かない」
アリアリス・チャス伯爵令嬢は、きっとその事に気づかない。
だから、間違いなく弟を排除しようとする。
わたしを何度も殺した彼女よ。
きっと、殺す事に躊躇する事はない。
「でも、彼女が自分で殺すとは考えられない。誰に頼むの?」
あっ、隣国のスパイ。
そうだ、彼女も彼等について知っていた。
「彼等に動かれたら厄介だわ」
コンコンコン。
「ハルティアお嬢様、失礼いたします」
アーニャの声に、二枚の紙を折りたたみポケットに入れる。
「どうぞ」
「ハルティアお嬢様、申し訳ありません」
部屋に入って来たアーニャが頭を下げる。
「大丈夫よ。何かあったから来たのでしょう?」
アーニャには、呼ぶまで部屋に来ないように言っておいた。
ゆっくり、これからの事を考えたかったから。
「はい」
それが、来るという事は何かあったためでしょう。
「教会で会ったアラクとその兄のアランという者が、ハルティアお嬢様に会いに来ています」
「えっ?」
今、アーニャはなんて言った?
アラクとその兄のアラン?
「アラン?」
まさか。
「ハルティアお嬢様、どうしたのですか?」
「なんでもないわ。会いに来たのは、アラクと彼のお兄さんね?」
「はい」
「客室かしら?」
「いえ、その服が……」
あぁ、汚れていたから外にいるのね。
「何処にいるの?」
「北の庭にあるガゼボに案内しました」
北の庭は少し日当たりが悪いために、お父様もお兄様も行かない場所ね。
「いい判断ね」
わたしの言葉に嬉しそうに笑うアーニャ。
「では、行きましょうか」
「はい」
アラン、か。
わたしが探している人物なのか、会えば分かるわね。
もし、探している人物だったら、わたしの手元に置いて起きたわね。
何かいい方法はないかしら?
そうだ、彼を従者にしたらどうかしら?
彼はとても頭が良く有能だった。
でも、どう言えば従者になってくれるかしら。
「ハルティアお嬢様!」
元気に手を振るアラクに、ちょっと笑ってしまう。
「アラク! 公爵令嬢様に馴れ馴れしくしては駄目だ。申し訳ありません」
アラクの頭を抑え、自分も頭を下げる彼の兄を見る。
そして、笑顔になる。
「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
見つけた。
わたしが探していたお助けキャラのアラン。
まさか、彼の方から来てくれるなんて。
「アラク、あれから嫌な事はない?」
「うん、大丈夫。穴も全部なくなったよ」
穴というのは、教会に空いていた穴の事ね。
「そう、良かった」
シュベリス伯爵が起こした事件は、新聞に載った事で素早く解決した。
しかも、教会の状態が事細かく新聞に書かれた事で、貴族から寄付が沢山集まったそうだ。
「あの、弟に話を聞きました。ハルティア公爵令嬢様が、助けてくれたと。ありがとうございます」
深く頭を下げるアラン。
「わたしは、やるべき事をしただけよ」
「いえ、ハルティア公爵令嬢様だったから解決したんです。他の貴族だたら、きっと見なかった事にしたはずです」
彼の言う通りよ。
多くの貴族はアラクの状態を見て、素通りしたでしょうね。
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