九話 ー

適当に選んだ贈り物を持って、第二王子に会いに行く。


何を言われるのかしら?

本当に面倒くさいわ。


コンコンコン。


「ハルティア・ルーツです」


「どうぞ」


第二王子の側近アディス侯爵令息が扉を開ける。


「ありがとうございます。こちらを王妃様にお願いいたします。」


どうして彼が扉を開けたのかしら?

王妃への贈り物を私ながら、少し首を傾げる。


第二王子の執務室に入り、アディス侯爵令息が扉を開けた理由がわかった。

執務室には、メイドも護衛もいないようだ。


これから内密の話をするという事かしら?

はぁ、凄く面倒くさそうだわ。


「第二王子殿下にご挨拶いたします」


お茶会に誘われた事になっているから、しっかりと挨拶しないと駄目よね。


「座ってくれ」


挨拶を返してはいただけないのね。


第二王子が指した場所に座り、彼の顔を見る。


「何をした?」


これは王妃にという事かしら?

王妃に似てバカよね。


「なんのお話でしょうか?」


不思議そうな表情で首を傾げておこう。


「わからないのか?」


わかっていますよ。

でも、質問の仕方が気にいらない。


「申し訳ありません」


少し頭を下げると、小さく舌打ちが聞こえた。

本当に王妃にそっくりで気が短いんだから。


「母の事だ! 母が倒れたのは、ハルティアのせいではないのか?」


「わたしは何もしていません」


「王子妃教育が全く進んでいない事に母は悩んでいた。そのせいで心労が溜まって倒れたのでは?」


全く違うと思いますよ。

心労?

そんな物を王妃が感じていたわけないでしょう?

わたしを虐げて笑っていたんだから。


「わたしには、わかりません」


「くそっ」


そういえば、第一王子より第二王子のほうを王妃は大切にしていたわね。

それって自分に似て愚かだったからかしら?


コンコンコン。


「失礼します」


第二王子の執務室に入って来たのはラクシート伯爵。

彼は王の側近の一人だ。


「ラクシート伯爵か? 何かあったのか?」


「王よりハルティア公爵令嬢様に手紙を預かってまいりました」


ラクシート伯爵がわたしに封筒を差し出す。

受け取り中を確認すると、王からお茶会へのお誘いだった。


「お茶会ですか?」


「はい。良ければ今から」


えっ、今からですか?


あまりの急な事に、第二王子も驚いている。


「待て、今は俺が――」


「お茶すら出ていないようですが?」


ラクシート伯爵の言葉に、第二王子が眉間に皺を寄せる。


そうなのよね。

お茶会に誘ったくせに、用意がされていなかったのよ。

王妃の言葉を鵜呑みにして、わたしを馬鹿にしているからでしょうね。


「第二王子殿下。よろしければ一緒にいらっしゃいますか?」


「えっ?」


ラクシート伯爵は第二王子を見て笑みを見せる。

とても意味ありげな笑み。


王は何をしようとしているのかしら?

少し恐ろしいわ。


「あぁ、そうさせてもらう。母がクスリに手を――」


「第二王子殿下!」


ラクシート伯爵に強く名を呼ばれ、「しまった」という表情をする第二王子。

王族なら、表情は隠さないと駄目なのにね。


それにしても、クスリ?

王妃は護衛との不貞ではなく、クスリが見つかったの?

ハシュル草の事かしら?


「ハルティア公爵令嬢様、今の言葉は」


「なんの事でしょうか?」


わたしは、何も聞いていませんわ。

部屋の隅にいるアーニャに視線を向けると、彼女は静かに下を向いた。

そう、アーニャもね。


「いえ、なんでもありません。王がお待ちです、行きましょう。あっ、メイドはこちらでお待ち下さい」


「はい。アーニャ、少し待っていて」


「わかりました」


第二王子をチラッと見てから立ち上がり、ラクシート伯爵の後に続く。

エスコートをしない第二王子に視線を向けたラクシート伯爵は、微かに険しい表情を見せた。


「こちらの部屋です」


ラクシート伯爵が合図をすると、扉を守る護衛が開けてくれた。

中に入ると王と第一王子がいた。


「堅苦しい挨拶は良い。こちらに」


カーテンシーをしようとすると手で制される。

そして、王の隣の椅子に招かれた。


「ありがとうございます」


小さく頭を下げ椅子に座ると、香りのいい紅茶が目の前に置かれた。


「いい香り」


「どうぞ、最近のお気に入りだ」


「ありがとうございます」


一口飲むと、広がる香りにホッとした。


王は、扉の前にいる第二王子を見て小さくため息を吐いた。


「とっとと座れ」


第一王子の横を指した王に、第二王子が頭を下げる。


「ガルーダ。ハルティア嬢と揉めていたそうだが」


あらっ?

ラクシート伯爵は、いつ報告したのでしょう?

彼は部屋に入るとすぐに隅へ移動したので、そんな時間はなかったと思うのですが。


「母が倒れた原因を聞いていました」


「その事については、調査は不要と言ったはずだが」


呆れた表情で第二王子を見る王。

第二王子は、悔しそうですね。


「どうやら納得していないようだな」


「父上。母がクスリなど」


先ほどラクシート伯爵に注意を促されたのに、また言った。

愚かにもほどがある。


「きっと、ハルティアの王子妃教育が進まない事に悩んでいたから、つい手を出してしまったのです」


第二王子の言葉に、部屋に静寂が訪れる。


コン、コン、コン、コン。


テーブルを叩く音が聞こえ確認すると、王が一定のリズムでテーブルを叩いていた。


王は、苛立っているのでしょうか?


コン、コン、コン、コン。


「あれがクスリに手を出したのは四年前からだ。ハルティア嬢が婚約者と決まる前だ。言っていなかったが、調査であれの部屋に入った時には護衛とお楽しみだったよ」


第二王子は王の言葉に動揺を見せましたが、第一王子は平然としていますね。

知っていたのでしょうか?


それにしても、どうしてわたしがこの場所に呼ばれたのかしら?

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