贈り物を買い、王城に向かう。


「ふぅ」


不安そうな表情で王城を見つめる。


「ハルティアお嬢様、大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ。これからの事を考えるとちょっと不安になってしまっただけだから」


さて、どうしましょう。

王妃は、教会の事で最初からわたしを目の敵にしてくるでしょうね。

まぁ、この件がなくてもわたしは王妃に嫌われるのだけど。


理由は、自分より出来がいいから。

何度も、何度も王子妃教育をしていれば出来がいいのは当たり前。

でもそれが彼女には気に入らなかった。

だからあの女は、いろいろな手を使ってわたしを虐めてきた。

あぁ、駄目だわ。

これ以上思い出すと、表情が作れなくなる。


「ハルティアお嬢様なら、大丈夫です」


アーニャに微笑む。


「ありがとう。アーニャは優しいわね」


「そんな……」


照れているアーニャに笑みを深くする。


でもわたしも最初から出来が良かったわけではない。

確か三回目からだったかしら?

その前までは別の理由で嫌われた。


一回目の時は、王妃の秘密を知ってしまったため虚栄心が強いと噂を流された。

他にもいろいろとあったわ。

気に入らなければ、教師に暴言を吐くとか。

勉強が難しく、王子妃教育から逃げ出したなんて噂もあったわね。

本当にくだらない噂。

でもその噂のせいで、王にも第二王子にも嫌われてしまった。

少し調べれば真偽は分かるのにね。


二回目の時は、王妃の秘密に触れないよう距離を取った。

それが彼女を苛立たせてしまう。

そして一回目と同じ結果を招いてしまった。


だから三回目からは態度を変えたのよね。

まぁ、出来が良い事で嫌われるとは思わなかったけれど。


馬車が止まる。


「ハルティアお嬢様、着きました。やっぱり王城は綺麗ですね」


「そうね」


今は、過去の事は忘れましょう。

思い出すと、表情が引きつりそうだから。


「ルーツ公爵令嬢様、ようこそ」


馬車の扉が開くと、第二王子の側近の一人フィリップ伯爵令息がわたしに手を差し出す。

その手を借り、馬車を下りて周りを見る。


第二王子はいないようね。

最初からいなかったのは、初めてだわ。


「ルーツ公爵令嬢様、申し訳ありません。第二王子は、仕事のためにこの場に来る事で出来ませんでした」


「分かりました。教えていただきありがとう」


王妃が既に動いたようですね。

まぁ、会いたくない相手なのでどうでもいいけれど。


フィリップ伯爵令息の案内で王妃の下へ行く。

部屋に着くと、フィリップ伯爵令息が扉の前で頭を下げた。


あら?

王子妃教育が終わったら、前回までは第二王子とお茶をしていたのだけど。

その話がないわね。

つまり、帰っていいのかしら?

それなら、それで嬉しいのだけど。

でもあとで、何か言われるかもしれないから確認だけしておきましょう。


「フィリップ伯爵令息様。王子妃教育が終わりましたら、第二王子にご挨拶に向かった方がいいでしょうか?」


「えっと……」


戸惑った様子のフィリップ伯爵令息に首を傾げる。


あら?

これは、王妃から何か言われているのかしら?


「どうしましょう?」


わたしに決めさせないでね。

面倒な事になりそうだから。


「そうですね。第二王子の執務室に来て下さい」


帰っては駄目なのね。

残念だわ。


「分かりました。案内をありがとうございます」


フィリップ伯爵令息が第二王子の下に戻って行くのを見送ってから扉を叩く。


コンコンコン。


「どうぞ」


王妃の部屋の前には、二人の護衛がいる。

その者達をチラッと見て、扉を開ける。


前回までと同じ護衛ね。

良かった。


王妃の部屋には、王妃専属のメイドが三人いる。

その三人から鋭い視線を感じる。


「王妃様。ハルティア・ルーツです。今日からどうぞよろしくお願いいたします」


座っている王妃の前でカーテンシーをする。


「……」


なかなか声が掛からない。

カーテンシーは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げているため、負担が大きい。

そのため、相手はすぐに声を掛けるのが常識なのだけど。


小さな嫌がらせってところかしら。


自分の常識のなさをひけらかしているだけなのに。

前の時も思ったけれど、感情で動くなんて愚かな女。


「座って」


挨拶もして下さらないのね。

口元を引き締めないと、笑ってしまいそうだわ。


「失礼します」


王妃と目を合わせる。

あぁ、憎々し気に見ているわね。

そんなに、教会の問題に手を出したわたしが憎いの?


ふふっ、いい気味ね。

わたし、王妃の今の表情は好きだわ。

とっても。


「カーテンシーに問題はないわね」


そうでしょう?

文句を言えなくて、残念でしたわね。


「ありがとうございます。お父様が付けてくれた先生のおかげです」


あまり出来過ぎると、王妃の機嫌が悪くなるため前回まではある程度抑えていた。

でも今回は、王妃には早々に退場していただきましょう。


だって、この女どう見てもすぐに何かやらかしそうだから。

そうね、あなたには全てを失って貰おうかしら。

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