第69話 結末から見た光景

「――じゃあ、それがどこ生き物だったのかはわかんないんだ。」


「あいにくね、一応頭のない死体は見せたんだが、誰も知らんらしい。」


 ――初めての超能力者との戦闘を終えてから、二日後クロノスは、帰り着いたクロノスは妹とのひと時の安息を楽しんでいた。


「それにしても……危なくない依頼だって聞いてたけど結局大仕事だったね。」


「すまんね、毎度……僕ももうちょっと楽になると思ってたんだが。」


「あ、ううん、いいの。、皆のためにやってるんだしね。」


「そう言ってくれると安心するよ。」


 そう言ってお茶を一口――学校の中庭でなければもう少し様になるのだが。


「それで、結局、村の方はどうなったの?」


「ん、まあ、犬人族の方はあれでいいらしい、動物――いや、あれが動物なのかはわからんけど――戻ってきてたらしいし、たぶんあの調子ならそのまま手打ちにできるだろう。」


「あ、そうなんだ、いなくてよかったの?」


「学校の外泊許可が昨日まででな。向こうもこの後は自分達でどうにかするって言ってたし、まあ、それでいいんだろう。」


「それで、ラナさんたちと別れて帰ってきたの?」


「ああ、何ぞ、犬人族の族長に聞きたいことがあるとかって――なんか深刻そうだったし、他人の僕が聞くのもあれかと思って、先に引き上げて来たよ。」


 それに、あの男――シミオを彼女達から引きはがしておくべきだとおもったのだ、彼が一体どのような意図でもって彼女たちにどうこうしたにすれ、あの男は明らかに彼女たちの手伝いとしてきているわけではないだろう。


 それが良いことならともかく――悪い事なら、対処できる自分が抑えに回るべきだ。


 そう考えて、彼らを家に帰す口実として、彼も先んじて帰ることにしたのだ。


「道に迷いそうなんだよ、一緒に帰ってくれないか――」


 とか、適当な言い訳で彼らを学園に帰したクロノスはそれから、彼女たちが帰ってくるまで時間を稼いでいたのだ。


「そうなんだ……お疲れ様。」


 そう言って微笑む妹に笑みを返して、クロノスは一人考える。


『……あの生き物は明らかに普通の生き物じゃない――そもそも、全身銀色ってなんだよ。』


 改めて思い出せば、あの生き物は明確に異様な姿をしていた。


 体の細さ――などという領分ではない、もっと根本的なところだ。


 体全てが鉄か何かで覆われたようなメタクリックな配色、その中に浮かぶ金に輝く目、なぜか光り輝くえらのような器官、体に栄養分を取り込めなさそうな体のつくり――すべてが異様だ。


 いや、まあ、花になった自分も全身銀色ではあるのだが――それともちがう生物感のないあのメタリックな質感はどう考えても普通の生き物ではない。


 ここまで見て来た――そして、彼がこの学園で学んだ知識からはあまりにも離れた生体をしている、運ぶまでの間に調べてみたが、やはりこの生き物に『内臓はなかった。』


 脳はあったのかも知れないが――それすら定かではない。


『――明らかに普通の生物じゃない、この次元にあんな生き物はいない。』


 そうなると、おのずとあの生き物来歴は絞られるだろう――あまり考えたくはない事ではあるが……

『僕と同じで別の次元から来たのか……』


 そう考える方が妥当だろう。


 別の次元からの来訪者が一般的な存在でないのは図書館通いなどでわかっていた。


『だとしたら――僕がこの次元に居るのもあの連中と関係あるのか?』


 可能性は十分あるだろう、普通ではない来訪者が二つ分だ、偶然で片を付けるにはいささか以上に違和感がある話だ。


『って言っても、調べようにもな……』


 頭部が吹き飛ばされたせいでサイコメトリーさえまともに通らない。


 別の個体も、あれと同じように精神探知に対する壁を張っているのだとすれば探すのも一苦労だ。


『あいつらが次元を越境できるのなら、あいつらを探れば僕をもとの次元に送り出して、クロノスに体を返してやれるのかもしれんが……』


 果たして、それが可能なのかもわからない。


『面倒な状況になったな……』


「――アオ兄さん?」


 クロノスの意識を浮上させたのは傍らから聞こえてきた声だった。


「へっ、ああ、ごめんごめん、何?」


「もう、聞いてよ――その見つけたっていうクリスタル?見せてほしんだけど。」


「ああ……ほい。」


 そう言ってポケットから取り出す――ようなモーションで手元に『アポート』させたクリスタルを手渡す。


「へー……きれいだね。」


 太陽に透かしながら、水晶を楽し気に見つめる少女に向けてクロノスが口を開く。


「一個やろうか?」


「へっ?いいの?」


「かまわんよ、まだあるし。」


 そう言って幾つかのクリスタル――洞窟を埋める前に何かに使えるかと回収した代物だ――を呼び出して見せる。


「あ、そうなんだ、うん、それじゃあ、もらおうかな、ありがとうアオ兄さん。」


 そう言って笑顔を向ける彼女に笑顔を返して、彼はゆっくりと彼の中の超能力を起動する。


『――よし、動いてるな『サイコシールド』。』


 彼の精神放射を『こちらの力が反射した』のを確認して、彼は自分の技術がうまくクリスタルに封入されたことに胸を撫でおろした。


 そう、彼が回収してきたクリスタルには彼が超力をすでに込めていたのだ。


『サイコシールド』――精神放射を拒むこのこの防壁を内に秘めたこの水晶群は、ラナたちや妹のために用意したものだ。


 彼女たちが全員、シミオの精神放射に抵抗できないのは明白だ、馬小屋の胃一件で理解した。


 ゆえに彼女達のために用意したのがこのクリスタルだ。


 あの馬小屋の一件から考えれば彼女たちに意図しない行動をとらせることもできるだろう。


 それに対する対策のために用意したのがこの水晶だ。


『とりあえずこれでもんだないだろう……あとは……』


 考えながら後ろの窓に目を向ける――そこから見下ろしている男と視線が合った。


『――あいつが何者かってことか……』


 そう考えながら、彼は交わった視線を切った。

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