第79話 犬じゃなーいっ!!!
「わっ!?わっっ!?わぁっ!?!?!?」
狼の耳を手でペタンと押さえる、しかし人の耳から音が聞こえる。今度は人の耳を塞ぐが、ピンと立った獣耳が正常に機能してしまう。どうすればいいかと考えた結果、アウスは両腕で頭を抱える形で四つの耳を塞いだのだった。
≪なんかカワイイな≫
「ぅわぁっ!?これでも聞こえるよっ!?!?」
完全無欠な防御態勢だったはずなのに、姿なき何者かの声を認識する事が出来る。その事実に彼は更に驚き、座った状態でバタバタと落ち着きなく両足を動かした。
「落ち着け」
「なんで聞こえるの?なんでー!?」
「落ち着け」
「不思議、不思議っ!?!?」
「落ち着……耳塞いでちゃ、俺の声は聞こえねぇな」
がしりとアウスの両腕を掴み、ジョニーは彼の聴力を取り戻させる。
「ねぇっ、ねぇっ、ジョニー!これ、どうなってるの!?」
「あー、あー、うるさいうるさい」
≪耳がッ!≫
実に騒がしい狼獣人、今度はジョニーが耳を塞ぐ。いやほん、なる物を付けて視聴していた異世界の住人は声量の
「アウス、うるさい」
「あ、ごめん」
眉間に僅かに皺を寄せたリベルに言われてようやく彼は落ち着く。普段は騒動を巻き起こす薄紫髪の少女だが、ことアウスに対しては制御役になるようだ。なんとも不思議な関係である。
迷惑を掛けてしまった視聴者たちにも彼は素直に謝罪して、ようやくまともな配信が始まった。
≪で、その子は誰ですぅ?≫
「ボクはアウス!アウス・ジャービル・アルダギル!……って、子、じゃなーい!ボクはもう大人ー!!」
≪耳がッッ!≫
「声を抑えろ。窓の向こうの連中はどうでも良いが、魔物が寄って来るだろが」
≪我々の事はどうでも良いでござるか……≫
≪しくしく、ですわぁ~……≫
無情に切り捨てられた異世界の住人はさめざめと泣く。
などという繊細な神経をしているならば、普段ジョニーと殴り合いの会話をしたりはしない。雑に扱っても何の問題も発生するはずがないのだ。
≪大人、という事はリベルさんのように十八歳でしょうか。≫
「ううん。ボクは二十歳!」
「えっ、アタシと同い年だったのっ!?」
≪予想よりも上だった……というか僕も同じ歳です≫
年齢を聞いていなかったミケーネは驚き、元荒らしな大富豪青年もビックリだ。
≪そーいえば、アウスきゅんも聖殿騎士ですの~?≫
「うん!…………きゅん?」
満面の笑みを見せて大きく頷いたアウスだが、自身の名の後ろに付いた聞き慣れない単語に首を傾げる。視聴者いわく、異世界の文化の一つで可愛いものに対する言葉らしい。その、明らかにおかしな説明を受けて狼獣人の少年は憤慨する。
「かわいくなーーいっ!カッコいいのっ!!!!」
≪あれ……?急に静かになった……ッ?≫
≪↑お前、鼓膜が……≫
≪替えの鼓膜を装着するですぅ≫
アウスの声で遂に視聴者の耳が壊れた……というのは勿論冗談である。配信ではよくあるやり取りなのだそうだ。訳の分からない、無駄すぎる話にジョニーは溜め息を吐いた。
彼らのやり取りで更に首を傾げるが、自分が不満を表明していた事にハッと気づいて、狼獣人の少年は腕を組んで口をとがらせながらツーンとそっぽを向く。
≪実家で飼ってた小型犬を思い出すでござる……≫
≪ワンちゃん……≫
「犬じゃなーいっ、狼っ!ボクは狼の獣人っ、カッコいいのーっ!」
≪かわいいな≫
どれだけ言おうとも、アウスが犬っぽい人懐こさとアホ可愛さを醸し出しているのは抗いようのない事実である。年齢を忘れられそうな程に表情がコロッコロ変わる二十歳である本人は、自分がカッコいい大人だと思っている様子だ。残念ながら、その自己認識は他者に共有される事は今後も無いのだろう。
「アウス、うるさい」
リベルの再度の注意。それを受けても不満そうな彼の事は置いておいて、配信は進んでいく。
≪今日は洞窟の中ですか?≫
「ああ。草原から更に東の丘陵地帯、そこで見付けた穴倉さ」
草原地帯を調査し終え、道を作り上げたジョニー達。彼らの次なる探索目標は丘陵地帯だ。そこは芝のような草の緑眩しい絨毯が敷き詰められた場所。非常に起伏に富んでおり、ある程度真っ直ぐ進めた草原とは異なっている。蛇が這うように丘の間を右に左に進んだり、時には小山を上ったりと運動量は今までの比ではない。こうして早い段階で、魔物の気配が見られない丘の洞窟を見付けられたのは幸運というものだろう。
今後の探索拠点はこの場所になりそうである。
「背の高い草とか木とか無くて周りを警戒しやすいけど、上ったり下りたりで大変~」
「正直、疲れで足がガタガタになりそうッス……」
弱音を吐くミケーネにロイが同意する。本日の野営直前、彼はもうフラフラになっていた。基本的に上りばかりの山を探索するよりも、上下動が多いこの場所の方が疲労が溜まりやすいのである。
そんな冒険者二人とは裏腹に、リーシャはホクホク顔だ。
≪なんかリーシャちゃんが上機嫌ッ≫
「えへへ。見た事のない植物や鉱物を色々見付けて……」
手を頬に当てて、少し恥ずかしそうに言う。
≪……で、リベルちゃんは何を齧ってるですぅ?≫
「がじがじ」
会話に加わらず、一心不乱にリベルは何かに向き合っていた。彼女が両手でしっかと掴んで先端を口に突っ込んでいるもの、それは。
≪石?≫
そう、石だ。
どう見ても、そこらに落ちているであろう角ばった灰色の石である。
視聴者が不思議に思っていると、バキッと音がした。
リベルの歯が欠けた、などという事など有り得なく、石が割れたのだ。
「はい」
「おう」
役目は果たした、とばかりに彼女はそれをジョニーに渡す。受け取った彼は小さな粒が沢山入った手のひらサイズの小瓶をリベルに報酬として差し出した。彼女はそれの蓋をポンと開き、中の粒を口へと放り込む。カリコリと硬めの物を噛む音がする、どうやら砂糖菓子のような物であるらしい。
≪ジョニキ、その石なんなん?≫
「さあな」
≪リベルたんに割らせたのに、分からないでござるか……?≫
「ああ。見た目と重さが違う気がして、ただの石じゃない、とピンと来たんだが何なのかは知らん……と、ホレ、こんな中身だったぞ」
≪きれいですわ~≫
リベルが歯で割ったそれの断面をジョニーは窓へと向ける。
水晶のような紫色の鉱物がそこにあった。外側を包む灰色の石、それを大地として中心へ向かって美しい紫の結晶が無数に生えている。その様は実に不思議であり、自然に出来上がった物体だとは信じられないものだ。
≪
「お、先生はこれが何か知ってるのか?」
≪流石に異世界の物質が同じかは分かりませんが―――≫
日本でも見る事の出来る類似の存在を大御所な視聴者は説明する。それは特殊な形成経緯を持つ鉱物であり、小さいものから大きいものまで、手ごろな値段から超高額な品まで存在する鉱物だ。
「ほー、そんなものがあるのか。俺も色々と経験してきたが、コイツみたいなのは初めて見たな」
講義を受けたジョニーはしげしげと紫のジオードを眺める。冒険者兼密偵として動いていた彼は人並み以上に多くの事を知っている。そんなジョニーでも見た事が無い物体となると、少なくとも窓のこちら側の世界においては相当な価値がある物かもしれないという事だ。
「となると、これって結構な収穫ッスか……?」
「え、すっごい儲けになる!?ジョニーせんせ、それ頂戴っ!」
「おっと、そうはいかねぇよ。自分で探せ、自分で」
「え~、せんせのケチー」
ニヤリとするジョニーに対してミケーネはぶぅぶぅと文句を垂れた。
≪……で、なんでリベルさんが齧ってたんですか?≫
「ハンマーを入れ忘れたんだよ、荷物に」
「だからアタシが割ってあげるって言ったのに~」
「お前の得物でブッ叩いたら木っ端微塵になるわ、阿呆」
「ちっ、割る役割があったら分け前要求出来たのに」
破砕するには最適な杭槍であるが、繊細な力の調整が出来る武器ではない。ミケーネの目論見は残念ながら実現しなかったのだ。代わりにお菓子で釣られたリベルが頑張ったのである。
「ボクも手伝うって言ったよ」
「お前が手伝ったら粉微塵になるわ、馬鹿」
猫と違って完全なる善意で助力を申し出た狼であるが、こちらはジョニーから辞退の旨を告げられた。器用な力加減など出来るはずの無いアウスに任せたなら、粉々どころか砂粒レベルに粉砕されてしまっただろう。
役割を上手く選択した事で、ジョニーは良い物を手に入れる事が出来たのだ。
翌日以降の探索を終えてアーベンへと戻った彼は、中々を収入を得る事になる。そしてそのお金はミケーネ達に
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