超常現象対策室
さんご
第1話 ファイルー051 田中(仮) 十七才
最近は異常気象だなんだって、世間は色々騒がしくて大変みたいだ。
温暖化の影響か、大雨が降ったり台風が多かったりして、洪水や土砂崩れなんかが頻繁に起きて困ってたり、困ってなかったりする。
え? 困ってないのなら良いんじゃないかって?
それが、そうとも言えないんだよなぁ。
その困っていない地域が、一部に片寄っていなかったのならばね。
例を挙げると、ある川の水系で上流で大雨が降って、川がいたる所で氾濫しそうになり、結局下流域全般が洪水に襲われた。
ところが、ある地域では洪水の被害が全くなくて、何ともなかったりした。
いやまあ、そういう事も有るのだろうが、昨今の異常気象で日本中で災害が起こっているのに、そこだけ無事なのはとにかく目立った。
それも、理由の説明が着かなければ尚更だ。
ある道路の此方と向こうで、被害の有無が分かれていた。
向こう側の道路の端で泥水が止まっていて、歩行者や車の通行に影響は出なかった。
地域の住民には神に守られた土地だと
まあ地元民にしてみれば良かったねで済むが、他所から俯瞰して見れば、その地域だけ行政が贔屓して、公共事業なんかを優先している様にも見えてしまう。
例え何にもしていなくても、だ。
そして国民の大多数が公平、平等を掲げ政府に文句を言った。
ウチにもやれ。
でなければ、彼処もヤメろ。
それで仕様がなく、その地域の実情を政府が調べたが、特に何もしていなかった。
いや、やらないといけない事すら、していなかった位だ。
政府としては簡単に調査して、それなりの対応をしてお茶を濁すつもりだったのだが、俄然興味が湧いて来てしまったみたいで、徹底的な調査が行われた。
そこから分かった事は、それが最近になって起こり始めたという事だけだった。
それまでと今で、一体何が違うのかという疑問は、ある災害現場の監視カメラに撮された映像を発見した事で晴れる事になった。
そこには、灰色のパーカーを着た人物が一瞬だけ写り込み、それからは土砂の流入が遮られる様子が写っていた。
一瞬で消え去った人物は、最初はただの画面のノイズか何かだと思われていたが、そういった画像が複数見つかると俄然オカルト地味てきて、オタクやマニアに取りざたされる様にもなった。
いわゆる都市伝説の様なものだ。
そんな、一笑に付される様な事に、大事な税金を使って対処するのが、我々【超常現象対策室】の面々だ。
今その説明をしている俺は、コードネーム【
コードネームだ何だっていうのは、この対策室の初代室長がノリで始めた慣習らしいんだが、未だに続いているという事は、何かしらの理由でも有るのかも知れないが、なんだかダサいよな。
まあ、コードネームで呼ばれた記憶なんかは、滅多に無いのでどうでも良いんだけどな。
因みに、その初代室長は殉職している。
コードネームが今も続いてるのは、そのせいかもね。
殉職しているなんて、穏やかじゃない仕事内容だと思われるかもしれないが、実際は調査がメインで事務仕事の方が多い位だ。
なのに殉職。
これはなんか、裏に込み入った理由でも有ると思うだろう?
だけど表だってやっている仕事は、ちょっとオカルトっぽい事件や事故の調査で、死ぬ原因が全く見つからないのに知らぬ間に仲間が変死しているんだよ。
そりゃ直ぐに自殺を疑われたりはするが、本人にはその兆候が一切無いのが通例だ。
こんな対策室になんて来る奴は、元の部所で浮いていた奴位なのに、訳も分からずに死んでしまって、不審死扱いじゃあやってられないから殉職になってるんだとよ。
残された人には、それ位しないと補償されないしね。
なんだか対策室に対しての愚痴を語って来てしまったが、本題の冒頭の灰色パーカーについての話に戻ろうか。
結論から言うと、相手の素性は割れている。
高校生の田中(仮)君だ。
未成年者だから当然匿名だ。
彼が特定されたのは、我々としては直ぐだった。
地域密着型で特徴的で有名人だったからね。
彼がどんな事で有名人だったのかと言うと、集団行方不明事件の被害者の一人だったからだ。
事件の詳細はこうなっている。
普通の高校の修学旅行にバスで出発した一クラスがバスごと行方不明になって、三日後に山奥で車体と共に発見された時には乗客は十人にも満たず、行方不明の間の全員の記憶が無かったという事件だ。
無事発見された被害者には、怪我や争った形跡が見られなかったが、マスコミは性被害や殺人等の犯罪者の様に報道して物議を
その時、男子でただ一人生還したのが、田中(仮)君だった訳で、マスコミの格好の標的にもされていた。
そして例によって、被害者達は全員引きこもりになってしまい、事件の詳細は明らかにされず仕舞いになっている。
そして、ここからが冒頭の彼の活躍の始まりで、彼を守ってくれた地元民の為にか、天災人災を陰から防いでいるようだ。
うん、我々は何も知らなかった、としたい所だが、国から給料を貰っている訳でもあるし、何かしらの決着を付けなければいけないんだけど、どうしたもんか。
別に彼が悪い事をしているわけでもないし、手足を使って何かをしたわけでもない。
科学的に実証出来ない事で、何か文句を言える筈もないしなぁ。
取り敢えず一度会ってみようと、同僚のコードネーム【
彼は引きこもりと言う程、内向的ではないようで家族とも良く出掛けているようだし、妹とは特に仲が良くて腕を組んで歩いているのを何度か確認している。
一人で出掛ける事がほとんど無く、出先でも滅多に一人にならない。
トイレに行った時に続いて入ったが、何故かトイレ内は無人だったりした。
これはもう俺達の存在に気付かれていて、会うのを避けられているのだと判断して、直接家に押し掛けるしか手段が無くなった。
大事にならない様に、外で会おうとしたのに拒否されたんだから仕方がない。
こっちはただ会って、話がしたいだけなんだけどなぁ。
テレパシー能力とかは持ってないのかねぇ。
家に直接お伺いしたが、案の定居留守を使われた。
名刺の裏に簡単な用件を記入して、彼に渡してくれるように頼んだ。
帰り際に二階の窓をチラッと見たら、カーテンがサッと閉まった。
こっちに関心は有るようだな。
これで無理なら、もうお手上げだ。
尻尾を巻いてお家に帰ろう。
そう思って指定した廃ビルの裏の空き地に、待ち合わせの時間より早めに行って待っていようと思っていたら、彼は既にそこに来ていた。
「おう、もう来てたのか。
待たせて悪かったな。 」
「美人のお姉さん達!
ただのストーカーとかじゃなかったんですね!
トイレにまで入って来たから、無駄に警戒しちゃってましたよ! 」
「お、おう……。 」
俺達ってストーカーだと思われていたのか……。
ガックリ。
超常現象対策室 さんご @sango0305
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