戦う聖女は後ろを振り向かない

日下部える

1.聖女の決別

御前、第一会議場。

王宮で最も広い議場の中心に立っていたのはまだあどけなさの残る少女とも女とも言い難い女性だった。


白銀色の髪を綺麗にまとめ、見たものを惹きつけて止まない南の海の色をした瞳を爛々と輝かせこの空間にいる全ての人間を睨み付けていた。

中心に立たされ侮蔑に晒される彼女こそ針のむしろであるにも関わらず、そんな嘲笑を意にも返さず彼女はその鋭い眼光を尚も輝かせていた。


装飾を一切失くした質素な白い装束はこの国では聖女のみまとうことを許された衣裳だ。無論、質はその聖女の出身階級によるが彼女は孤児だったことから最も質の低い聖女装束をまとっている。


本来なら上位貴族相手に顔を上げることすら許されないというのにそれを可能にしているのがこの国における聖女という立場の特権だった。


神に愛され聖魔法を与えられた女性、それが聖女の定義であるが、今の彼女は神に愛された女性と呼ぶには少々苛烈で過激だった。




「教会でただ祈りをささげるだけが聖女の役割というのなら私は聖女の称号なんていらない!何千もの人間を見殺しにしておいて何が聖女だ!私は私のやり方で人々を救ってみせる」


できるものならやってみろ、そういう何百もの視線がただ一人孤独に立たされた彼女に突き刺さる。押したら抱折れそうなほどにか細いのにその背中は誰よりも強くそして誰よりも堂々と胸を張っていた。


「聖女の称号は捨てられるものではない。役目を全うせよ」


「役目?ただ兵士を見殺しにするのが役目なのですか?」

「必要な犠牲だ」

「ふっざけるな!だから私は、私のやり方を貫かせてもらう!どうせ聖女の称号なんてはく奪できるものではない。だったら好きにしろ!」


言葉通り、彼女から聖女の称号がはく奪されることはなかったが聖女の装束をまとうことはなかった。

その代わり女性らしいドレスに騎士の装束をまとい戦場を駆け巡ることになる。

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