竜神の息吹/Dragon breath

奈落/ハム輔

Episode:0001/0001=Opening -竜人-

 柔らかい土の広場で、頭の両側面から上後に向けて斜めに角を生やした蜥蜴の尻尾によく似た尻尾を持つ子供───竜人族ドラゴニュートの子供達が走り回っている。


 その近くの巨木に凭れ掛かりながら1人〝魔導書〟を読む、同じく頭の両側面に黒銀の角を生やした竜人族ドラゴニュートの少年───シリヴァール・アリーナ=ラン・ツァーリは、小さく息を零して、空を見上げた。


 そして、神秘的ミステリアスな神聖さを感じさせる白銀シルバーの髪に、宝石と見紛う程に綺麗な黒銀の瞳を持った病的なまでに白い肌の、全体的に何処か冷たい雰囲気を漂わせる美少年―――自身を視界に入れた者に対して、そんな印象を抱かせるであろう容姿を陽光に照らして、明るく染める。


 〝魔導書〟を読んで疲れさせた頭を休めて、適度に暖まった日向に身を照らしながら、疲労の余韻にふらふらと体を揺らして自身の家を目指して歩き始め―――そんなシリヴァールの前に、1人の少女が姿を現す。


 その少女―――リュウィーク・アリーナ=ラン・ハウサークは、シリヴァールの瞳を見つめながら、元気にその口を開く。


「シリルっ!! お本ばっかり読んでないでっみんなと遊ばないと駄目だよっ!!」


「いや、読書も遊びの内だろ」


 リュウィークの言葉に反射的に言葉を返してしまうシリルことシリヴァールである。


「ぶぇ……」


 シリヴァールの反論に驚いたのか、一度ビクッと震えてから茶の瞳に大きな涙を溜めて潤わせ始めるリュウィーク。


 リュウィークは、落ち着いた色合いをした綺麗な茶の髪に、無垢で純粋に輝く光を堪えた茶の瞳を持つ幼いながらも整っている事が分かる美貌の幼女だ。


 そんな美幼女が悲しそうにしている姿には、酷く罪悪感が刺激される上に、幼子を悲しませているという事実にも胸が痛み、シリヴァールは申し訳無さげに視線を泳がせながら、静かに呟く。



「……悪い、眠くて苛々してたんだ」



 その呟きにぱちぱちと目を瞬かせたリュウィークは、一拍遅れてにへらっと幼子らしく可愛らしい笑みをシリヴァールに見せた。


「じゃっ!! 私が手伝ってあげるっ!!」


 小さく短い尻尾を可愛らしくふりふりと揺らしながら話す上機嫌なリュウィークの言葉に、今度はシリルが目を瞬かせ、リュウィークが見せたような可愛らしい笑みとは違う大人びた苦笑いを見せる。


「手伝うって何をだよ……」


「抱っこしてっ連れてってあげるのっ!!」


 自身よりも頭二つ分程高い所に頭があるシリヴァールを見上げながら、満面の笑みでリュウィークは答えた。


 そんなリュウィークの事を微笑ましく見つめるシリヴァールは、


(流石にそれは無理なんじゃないか……? いや、いけるか……?)


 なんて事を考えてから、リュウィークのもちもちぷにぷにの頬っぺたをこねこねと捏ねて、不思議そうな表情をしながらも瞳に期待を輝かせたリュウィークを抱き上げ、自身の家へと向かう。


 そして、期待通りに抱っこしてもらえた事を喜んできゃっきゃっと楽しそうにはしゃぎ始めたリュウィークを尻目に、静かな心でシリヴァールは思う―――




(この世界に転生してから、もう10年くらいか……?)




 ―――と。





 今から約10年程前の事。


 俺―――帝神みかどみ竜人りゅうとという存在の終わりは、実に呆気ないものだった。


 闘病の末に、病には勝った。


 けれどその後、リハビリも終えて、家に帰ろうという時に、暴走したトラックに轢かれそうになっていた少女を庇い、そのまま即死した。




 それから、気が付いたら生まれ変わっていて、【竜人族ドラゴニュート】のシリヴァール・アリーナ=ラン・ツァーリという名前の赤子になっていた。


 一瞬、巨大な樹が頭に過ったような気もするが、おそらく気のせいだろう。



 閑話休題。



 何故、俺が前世の記憶を引き継いでいるのかは分からない。



 ―――ただ、見知らぬ地に誘拐されたも同然の現状は、辛いとも思う。



 だって―――もう二度と、母さんにも、父さんにも、最愛の婚約者にも、会う事はできないのだから。


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