カエルカ𓆏

バンブー

🐸

カ なり突拍子もない よんぶんの1


 今日俺は、幼馴染の美鳥ミドリに告白する!




 俺の名前はレン

 夢も目標もまだ無いけど夢詰め込める空っぽな頭の持ち主である。

 そして俺は今日、おとこ!として覚悟を決めたのだ。


 そう、俺は幼馴染の美鳥ミドリに告白するんだ!


 保育園の頃から中学生の最後になるまで一緒のクラスに隣の家。

 お互い漫画が好きだったり好みも合う。

 昔は互いの家にお泊り会をしたり夏祭りに一緒に参加したり、一緒に家族ぐるみで旅行に行ったり、海や山で遊んだり、もうベッタベタの幼馴染関係を続けていた。

 だが、いつしか俺は異性として見るように美鳥を目で追うようになってしまった。もう彼女見ると高鳴る胸のドキドキを俺は止める事が出来ない!


 俺は好きだ!


 美鳥の事が好きなんだ!!


 うおおおおおお!!



ーーーーーーーーーーーーーー



潮汐ウシオちゃんじゃあね!」

「うい、じゃあね美鳥ちゃん」

「じゃあな……潮汐」

「……蓮、今日は元気ないけどどうした?」

「え!?」


 漫画研究部の部長の潮汐ウシオが帰りがけ突然俺に訪ねてきた。


「だ、だだ大丈夫! なな何でもない!」

「?」


 思わず挙動不審になってしまったが、冷静さを取り戻し、いつも通り美鳥と漫研の教室を出た。

 覚悟を決めてきたはずなのだが……周りの人からはやっぱりおかしく見えていたのか?

 ダメだダメだ!

 今日こそ言うんだろ!

 昨日の夜、俺はそう決めたんだ!



ーーーーーーーーーーーーーー



「何ぼーっとしてるの蓮? 雨だし早く帰ろうよ?」


 いつの間にか下駄箱まで到着していた。

 雨の音が響き渡る放課後。

 だいたいの生徒達は帰り、俺と美鳥だけが照明で照らされたこの場所にいる。

 肩まで伸びた髪の毛先が湿気でハネ、ボブカットのように可愛らしい癖っ毛を見せる美鳥は遅くまで残っていた事に焦っているらしく童顔に似合わない真剣な表情をしていた。

 美鳥は重そうな荷物を抱えて靴に履き替え、小柄な俺の靴まで下駄箱から取り出し用意してくれた。

 細かい所に気配りしてくれる美鳥に、お礼を言う余裕の無い俺はようやく声が出せた。


「み、美鳥……」

「ん?」


 声をかけるといつもハスキーボイスな生返事。俺は覚悟を決めた。

 言うぞ!


「俺は……お前の事が好きだ!」

「……え」

「ずっと前から好きだった! 俺と付き合って下さい!」


 時が止まった。

 いや、雨は振り続ける。

 この下駄箱という空間。

 俺と美鳥しかいないこの場所だけ、切り抜かれたように固まる。

 言ってしまったのだ。

 自分の気持ちが抑えられるず、後先考えず俺は幼馴染に告白を……


「……え?」


 もう一度美鳥が声を漏らした時だった。


「え?」


 俺も思わず声を漏らす。

 目を見開いて固まっていた美鳥の姿が、

 靴と傘がその場でドサリと落ち、消滅してしまった。


「う、うそ? 嘘だろ!? い、いなくなった!?」


 俺は美鳥がいた場所に急いで近づくと、彼女が持っていた荷物と制服までもその場で脱がれ落ちている。


「美鳥!? どこ行ったんだ美鳥!」

「グェ」

「え?」


 彼女の靴の中から鳴き声がする。

 靴の中?

 脱がれた制服を退かす。


「ッ!?」


 制服の下には彼女の使い古されたであろう白い上下の下着もあった。今はそれに気を取られている場合ではないと思っていた所。


「ゲェ」


 っとゲップのような鳴き声が下着の下から聞こえてくる。俺はおそるおそる拾い上げ靴の中を覗く。


「……カエル?」


 靴の中には緑色のカエルが一匹入っていた。


「グェ゙!」

「あ!」


 靴の中から飛び跳ね、緑ガエルはその場から逃げ出そうとしていた。

 何故か、このカエルを逃がしてはいけないような気がしてとっさに捕まえ、また靴の中に戻し拾い上げる。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイ! ど、どうしよう! 美鳥が消えて、服とカバンだけ落ちてて、カエルが一匹いて、それで、それで! これっていったい何なんだよ!」


 焦る!

 あまりの唐突な出来事に、数十秒前に告白していたなんて思えない程の動揺。人が一人消えた異常事態に、先生や警察……いや、もはや有名な陰陽師とかを呼んだ方が良いのでは頭を巡らせ、その場でカエルの入った靴を持ちながらウロウロぐるぐるするしかなかった。


「……カエル?」


 ふと、なんとなく逃さないようにしてるカエルに意識が向く。

 告白したら美鳥が消える。

 カバンから下着まで残して靴の中にはカエルがいた。

 美鳥にいつの間にかカエルがくっついていた?

 いや……

 空っぽだったはずの頭に直流電圧が走り靴の中にいる緑カエルに話しかける。


「お前……もしかして……美鳥なのか?」


 数秒後。


「そんなわけないか。いや、そんな事考えている場合じゃない!」


 どうする?

 先生を呼ぶ?

 それとも警察に連絡?

 俺の思考がぐるぐる回り答えが出せない。



“……蓮、今日は元気ないけどどうした?”



 ふと、先程別れた漫研部長のが頭を過った。博識な彼女なら、流石に解決はしないけど、この状況で誰に報告するべきかアドバイスをくれるはず。

 寧ろ漫研に戻る途中に先生に出くわせれば御の字だ。

 俺は美鳥の荷物と衣服、そしてカエルに入った靴を持って漫研へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーー



「潮汐! 頼む! 助けてくれ!」


 誰にも遭遇しなかった廊下を駆け抜けた俺は勢いよく漫研の部室となっている教室のドアを開いた。


「どうしたの蓮? 忘れ物?」


 改めて、出迎えてくれたのは漫研部長の潮汐ウシオ。少し大きめの女子。いきなりデリカシーが無いと言われそうだが心の中だから許してほしい。

 眼鏡をかけ、気さくな性格で話しやすい女友達と言える彼女に、俺は結構な信頼をおいている。

 話していて、彼女は知的で俺よりも頭が良い。そのうえ偉ぶらないで勉強なんかも俺に合わせて優しく教えてくれる凄いやつなのだ。

 まあ……たまにおちょくってくるが。

 そんな事より今は緊急事態だ。


「み、美鳥が……カエルになったかもしれない」

「え? カエル?」


 また馬鹿だと思われたかもしれないが、そうとしか説明出来ない。いや、いきなり消えて荷物とカエルだけになったと説明した方が良かったかもと若干の後悔はする。

 だが、潮汐は笑わず顎に手を当てて考えると……


「あーもしかして美鳥ちゃん、今流行りのカエル化現象になったの?」

「……え? カエル化?」


 謎の単語に戸惑う俺に潮汐は付け足す。


「ウチらの世代の子達って、何かの拍子でカエルに変身するんだって。テレビでも話題になってたけど蓮は知らない?」

「カエルに変身って……そんな馬鹿な話……」

「まあまあ、とりあえず中に入りなよ。水槽を用意しようか」


 優しく落ち着いた口調で俺は漫研の中に戻っていった。

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