2 VSルリア


「今のギルが相手だと、あたしもちょっと本気出しちゃおっかな?」

「えっ」

「はあああああああああああああっ……!」


 気合いの声が響く。


 ボウッ!


 同時にルリアの全身から膨大な魔力がオーラとなって噴き出した。


「なっ……!?」


 俺は呆然として彼女を見つめる。


 魔力の桁が、違う。


 そう、ルリアとは放課後の特訓などで何度もその魔力を見ている。


 けれど、今みたいな圧倒的な魔力は持ち合わせていなかったはずだ。


 もちろん学園最強の魔力の持ち主ではあるけれど――今のルリアはそんな次元じゃなかった。


「あたしも食べたからね、あれ。条件はギルと一緒だよ~」


 気楽な様子で告げるルリア。


「ルリアが『異界の果実』を……!?」


 あのとき現れた陸竜は二体。


 そのうちの一体をルリアが倒したし、食した果実もその一個だけだろう。


 二度目の異界の襲撃時にも陸竜がいたけど、あっちは俺が全部焼き尽くしてしまったから、果実も一緒に消し飛んでしまったんだよな……。


 できれば、果実だけを残すように戦うべきだった。


 そうすれば、俺はさらに魔力を高められたんだけど――まあ、仕方がない。


 次の機会を待つしかない。


 おそらく、遠からず異界の襲来はまたあるだろうし。


 そのときには、ルリアたちにも果実を食してもらい、魔力を高めてもらう――なんてことも考えていたわけだけれど。


 まさか、すでに果実を取り込み済みだったとは。


「ギルはいくつ食べたの、果実?」

「……一つだ」

「じゃあ、条件は一緒か」


 ルリアがにっこり笑う。


「お互いに一個ずつ食べたなら、あたしの方が魔力は上のはずだね。もともとの魔力に圧倒的な差があるし」

「だろうな」


 彼女の言うとおりだった。


「だけど、勝つのは俺だ」


 言い切る。


 今までだって、そうだったじゃないか。


 アーシャも、エストも、そして陸竜も。

 スペックでは俺を上回る相手ばかりだった。


 そのすべてに、俺は勝利してきた。


 勝利することで、俺が目指す強さへと近づいていけると信じた。


 そして、その強さの先には破滅の未来を回避するという俺の目標が待っている、と。


「負けられないんだ」

「いい顔するようになったね、ギル」


 ルリアが微笑む。


「惚れ直しちゃいそうよ」




「まず接近戦でいこっか? ギルがどれくらい強くなったか見せてもらうね」

「お手柔らかに」


 軽口交じりに、俺は魔力剣を構える。


 一対一の様相だが、だからといって他のメンバーから攻撃が来ないという保証はない。


 後方に備えるエストの動きにも目を配りつつ、俺はジリジリとルリアとの距離を詰めた。

 そして――、


「【アクセラレーション】!」


 俺とルリアは同時に加速魔法を発動する。


 さっきのアーシャとの戦いと同じパターンだ。


 けれど、近接戦闘特化のアーシャと違い、ルリアは万能型の魔術師である。


 俺が近接戦闘でアーシャを圧倒したのを見ているはずだし、おそらく彼女とは違う戦法で向かってくるはず――。


 さあ、どう仕掛ける……?


 俺はルリアの動きに注視した。


 ぐんっ……!


 その瞬間、ルリアがさらに加速する。


「何っ!?」


 俺のように『弐型』の魔法を使ったわけじゃない。


 どういう理屈か分からないけど、急にルリアのスピードが上がったのだ。


「ちいっ、【アクセラレーション弐型――」

「遅い」


 慌てて『弐型』を使って対抗しようとするが、ルリアが間合いを詰める方が速かった。


「【マナブレード】」


 左手に魔力剣を生み出し、二刀流で襲い掛かってくるルリア。


「まだまだ甘いね、ギル」

「そうだな。意表を突かれたことは認めるよ。俺が一手遅れたことも」


 微笑むルリアに、俺も微笑みを返した。


「だからこの一手で――もう一度逆転だ」


 さらに魔力を高める。


 一気にすべての魔力を使い切る勢いで――魔力剣を次々に生み出していく。


「な、何、その術式は……!?」

「とっておきだ」


 俺の周囲に十二本の魔力剣が同時に浮かび上がった。


 いくらルリアが天才でも、異界の果実を食して膨大な魔力を得たとしても――この術式には、さすがに対応できないだろう。


 なぜならこれは――異界の魔法だからだ。


「【マナブレード・堕天ダテン】」


 ごうっ!


 十二本の魔力剣がいっせいに射出される。


 それらは直線的な軌道ではなく、まるで一本一本がみずからの意思を持っているかのように別々の角度から斬りかかった。


 いわば十二刀流だ。


 ルリアの二刀流では手数の差で絶対に対応できない。


 そして、この至近距離では防御魔法の発動も間に合わないし、仮に防御魔法を使ったとしても、そのまま押し切って防御を切り裂く。


「終わりだ」


 俺は冷然と宣告した。




「あーもう、悔しいっ……!」


 ルリアは顔を真っ赤にしていた。


 目の縁に涙が見える。


 あっけらかんとしているけど、本当はすごく負けず嫌いなんだよな、ルリアって。


「本当に強くなったね、ギル」


 ルリアはまぶしそうに目を細め、俺を見つめた。


「去年は本当に弱かったけど、そこから努力したんだね。あたしより強くなるなんて、ちょっと悔しいな」

「さっきのは紙一重だったよ。次にやったら、ルリアが勝つかもしれないし」

「勝つかも、じゃなくて、あたしが余裕で勝つくらいじゃないと嫌」

「負けず嫌いだなぁ」


 俺は苦笑した。

 まあ、ルリアらしいといえば、非常にらしい。


「ごめん、ベローナとソフィはあまり出番がなかったな」


 俺は二人の元に戻り、謝った。


「何言ってるんですか、先輩。格好よかったですよ」


 ベローナが目をキラキラさせて俺を見つめた。


「そう言いながら、俺の胸とか腰に指を這わせるのはやめてくれ……」

「えっ、スキンシップですよ?」

「もう、破廉恥な真似は駄目ですよ、ベローナさん」


 ソフィが彼女の手を俺の体から引き離してくれた。


「ちぇー、ソフィ先輩はちょっと真面目すぎるんですよね」

「あなたが破廉恥なんです」

「破廉恥破廉恥って、ただのボディタッチでしょ。先輩と距離を縮めるためにやってるだけですっ」


 ベローナはまったく悪びれなかった。






***

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