6 異界からの襲撃
「駄目だ、押し切られる――!」
際限なく湧いてくる陸竜を前に、俺やアーシャ、エストは完全に手詰まりだった。
一体一体なら勝てる。
特にアーシャやエストは前回の戦いに比べて、異界のモンスターとの戦いに対する『慣れ』ができた分、格段に上手く戦えている。
魔法剣技に優れたアーシャが前衛、大火力魔法を得意とするエストが後衛を務め、複数の魔法を同時に使える俺が二人の連携をサポートする。
この陣形で、陸竜を次々と撃破していく。
――と、ここまではよかった。
けれど、しょせん多勢に無勢だ。
どれだけ優秀な戦力であっても、圧倒的な『数の暴力』の前には無力である。
もし、『数の暴力』を打ち破れるものがあるとしたら――。
――俺が覚醒するしかない――。
そう、勝利の鍵は『数の暴力』をも超えた、圧倒的な『個の暴力』。
すなわち、未来の俺だ。
「……賭けるしか、ないのか」
俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
迫りくる十数体の陸竜。
その何体かを撃破することなら可能な戦力。
条件はそろっている。
後は――俺が思いきれるか、どうか。
「……アーシャ、エスト。今から俺の言うとおりに動いてくれるか?」
「ギルバートさん?」
「ギルバート?」
「詳しく説明している暇はない。俺を、信じてほしい」
二人を見つめる俺。
「承知いたしました……っ」
「……戦友を信じるとしよう」
二人は力強くうなずいた。
「ありがとう。それじゃ――」
俺はアーシャとエストに作戦を伝えた。
そして、始まる。
俺が、『俺』になるための――最終作戦が。
「はああああああっ……!」
エストの全身から魔力のオーラが立ち上った。
「【クリムゾンレイ】!」
巨大な赤い光弾を撃ち出すエスト。
単純な火力ならルリアと同等以上の高火力魔法だ。
ぐごおうっ!
大爆発とともに陸竜がたじろいだ。
「もう一発!」
さらにエストが赤い光弾を二発、三発と放っていく。
火力自体もすごいが、このクラスの魔法を連発できるのがエストの強みだ。
魔力収束スピードが速いため、並の魔術師なら大きなタイムラグが生じる『連発』を、彼女はそれほどの時間差なく撃つことができる。
とはいえ、やはり次弾発射までの時間に隙が生じるので、そこはアーシャがカバーしていた。
「こっちですわ、陸竜さん!」
高速で動き回りながら、敵を牽制するアーシャ。
近接魔法戦闘なら最強レベルの彼女にしかできない役回りだった。
そして――。
「【クリムゾンレイ】!」
エストの何発目かの光弾が、陸竜の口内に上手く吸い込まれた。
最初から、これが狙いだ。
「【反射】!」
俺は陸竜の口の中に反射効果のあるシールドを張った。
ぐごおおおうっ!
エストの大火力魔法が陸竜の口内で乱反射すると、頭部が爆裂して吹き飛んだ。
いくら堅固な装甲を誇る陸竜でも口の中を大火力魔法でかき回されれば、脆い。
ず……んっ!
頭部を失った巨体が崩れ落ちた。
「アーシャ、陸竜の胸部に宝玉が埋まっているはずだ。取り出せるか?」
と、アーシャに指示する。
「胸部……?」
「ちょうど胸元に色の違う鱗があるだろう。そのすぐ下だ」
「やってみますわ」
アーシャが魔力剣を振るい、陸竜の鱗の隙間を切り裂くと、その下から輝く宝玉が現れた。
異界の実。
所持者に莫大な魔力を与える神秘の宝珠。
異界のモンスターがこの世界のモンスターより格段に強力なのは、体内にこの『異界の実』を取り込んでいるからに他ならない。
そして、この実を人間が取りこめば――。
『一周目』の世界において、人類は当初、異界のダンジョンやモンスターになすすべがなかった。
あまりにも魔法戦闘能力に差があり過ぎた。
そこから反転攻勢に出られたのは『異界の実』を体に取り込み、魔力を爆発的にアップさせる方法が開発されてからだ。
異界の実を取り込む際、人間が摂取できるように加工するが、この時代にはまだそんな技術はない。
だから――直接取り込むしかない。
俺はアーシャが摘出してくれた宝珠を手に取り、胸元に押し込んだ。
ず……ずずず……。
宝珠が俺の胸の中に吸い込まれるようにして消える。
同時に、全身に稲妻のような衝撃が走った。
「ぐっ……あああああああああああああああああああああっ!?」
俺は絶叫した。
体中の痛覚がむき出しになったかのような、すさまじい激痛。
一瞬で気を失い、あまりの痛みにまたすぐに覚醒する。
そしてまた気を失っては覚醒し、また気を失っては……。
断続的な激痛は、一体どれくらいの時間続いたのだろうか?
常人ならとっくに精神崩壊していただろう。
けれど、俺は耐えた。
耐えることができた。
こんなところで終わっていられない。
俺は破滅の未来を必ず防いでみせる。
そして、俺が大切に思うすべての人を守ってみせる。
『一周目』の世界で失ってきた人たちの顔が次々に浮かぶ。
今度こそ、守ってみせる。
その思いがひときわ強く弾けた瞬間、不意に痛みが嘘のように治まった。
――どくんっ!
心臓が一度、大きく鼓動する。
「これは――」
感じる。
感じるぞ。
俺の内側から、すさまじい魔力が湧いてくるのを――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます