第3章

1 三人の美少女に囲まれる俺の登校風景


 翌日の朝。


「うーん……まだ疲れが残ってるなぁ」


 エストとの試合に陸竜討伐――二連戦をこなした俺は全身の疲労感が色濃く残っていた。


 肉体的な疲労に比べ、魔力使用による『精神力の消耗』という疲労は残りやすく、回復も遅い。


 寝起きだからということを差し引いても、頭がボーッとして思考がいつもより遅い感覚があった。


「まあ、数日はこんな感じだろうな……」


 ため息をつきながら、俺はベッドから降り、リビングに入った。


 食卓にはすでに朝食が並んでいる。


 ぐう、と腹が鳴った。




 疲労回復も兼ねて、いつもより多めの朝食を平らげていると、


「おっはよー、ギル! 迎えに来たよ~!」

「早いな、ルリア」


 いつものように自宅を訪ねてきたルリアを、俺は迎え入れた。


「ギルが遅いの。ほら、早く支度して」


 と、俺は登校の支度を急かされる。


「いつも迎えに来てくれてありがとうね、ルリアちゃん」


 母さんとルリアが談笑し始めた。


「えへへ。ギルのことはお任せください」

「いい子ねぇ。ルリアちゃんがお嫁さんに来てくれたらいいのにね」

「えっ、来てもいいんですか?」


 ルリアが身を乗り出した。


「ルリアちゃんなら大歓迎よ」

「えっ、婚約しちゃうの?」


 と、姉さんまで会話に加わってきた。


「ルリアちゃんが妹になったら嬉しいなぁ」

「えへへへ」


 ルリアは嬉しそうに顔をにやけさせている。


 それから、しばらくの間、三人の女性陣の会話を横目に、俺は残りの朝食を平らげると、自分の部屋に戻った。


 制服に着替え、登校の支度を整えてからリビングに戻る。


「ねえねえ」


 ルリアがニコニコ顔で俺に近づいてきた。


「うふふふ、お義母さんもお義姉さんも『お嫁に来ていいよ』だって」

「すでに義母と義姉呼びになってる!?」

「いやー、これはもう結婚が既成事実になっちゃいそうだね~」

「ならないから」

「あ、つめたーい! こんな美人のおねーさんがお嫁に来てくれるのに嬉しくないの?」


 ぷうっと頬を膨らませるルリア。


「そう言われても……」


 確かに美人だし、ルリアのことは好きだけど、それは恋愛じゃなくて親愛というか……。


「……誓いのキスだってしたじゃない」


 俺の耳元でささやく。


「っ……!」


 思わず飛びのいてしまった。


 そう、ルリアとのデートの日、俺は自分が『一周目』の世界を経て、ここにいることを明かし、相談に乗ってもらった。


 そして、その最後にいきなりルリアからキスをされたのだ。


「あたしのファーストキスを捧げたんだから。本気だからね、あたし」

「ルリア……!?」


 あれは『誓いのしるし』だってルリアは言っていた。


 恋愛的な意味はないんだと思っていたけど……違うのか?


「……なんて、ね」


 ぺろりと舌を出すルリア。


 いつもと同じ悪戯っぽい笑顔だった。


「びっくりした? ごめんね、ちょっとからかいすぎたかな」

「……うん、びっくりした」

「ごめんごめん」


 ルリアが頭を下げた。


「あ、でもいい加減な気持ちだったり軽い気持ちでキスなんてしないよ。相手がギルだから――他の誰でもない、あたしの大切な幼なじみだから……だから」


 ルリアがそこまで言って、言葉を切った。


 俺を見つめる瞳は、わずかに潤んでいるように見える。


 ルリア……?


「……なんでもない」


 ルリアは首を左右に振った。


 思わせぶりな態度が気になる。


 けれど、彼女はそれ以上詮索するなと言いたいのか、


「そろそろ学校行こ?」


 話題を変えて俺を促した。


「あ、ああ……」


 ルリアの真意は――あのキスの真意は、どこにあるんだろう?


 彼女が、本当は何を言いたかったのか分からないまま、俺は彼女と一緒に家を出た。


「ルリア……」


 その横顔に浮かぶ表情からは、やっぱり真意を読み取れない。


「ん? 何?」


 ルリアが振り返る。


「い、いや、その……」

「今日も授業がんばろ。対抗戦の二回戦以降のためにも、一日一日を大事に過ごさないとね」

「――そうだな」


 俺はさすがに気持ちを切り替えた。


『一周目』の世界よりも強くなる。


 そして、今度こそ破滅の未来からこの世界を救う。


 それが俺にとって、もっとも優先すべき目標だ。


 ルリアの気持ちは気になるけれど、今はいったん置いておこう。


「次の対戦相手は誰になるんだろう?」

「確か今日の放課後に抽選会をやるはずだよ」


 ルリアが言った。


「一緒に見に行く? 大講堂の方でやるみたいだから」

「ああ。それじゃ、放課後に待ち合わせしよう」

「おっけー」




 俺たちは正門を通り、校舎に続く並木道を歩いていた。

 と、


「ごきげんよう、ギルバートさん、ルリアさん」


 前方から銀色の髪をロングヘアにした気品のある美少女が歩いてきた。

 アーシャだ。


「おはようございます、ルリア先輩! おはよう、ギルバート」


 さらに別方向からは黒髪を肩のところで切りそろえた凛々しい美少女――エストも近づいてきた。


 たちまち三人に囲まれる格好になる俺。


 いずれ劣らぬ美少女たちだから華やかといえば華やかなんだけど――混酸人に囲まれると圧迫感があるな……。


「ふふ。ハーレム状態なんだから、もっと嬉しそうにしたら?」


 ルリアがニヤリと笑った。


「ハ、ハ、ハーレムって、わたくしは別に、ただ、その級友して挨拶しただけですわっ」


 アーシャが顔を赤くした。


「私にとってギルバートは戦友だ。ハーレムという言葉はそぐわないな」


 エストも無表情のまま訂正する。


「ムキになるってことは、二人ともギルのことをちょっとは意識してるんじゃない? ほら、ハーレムでしょ?」


 ルリアはますますニヤニヤした。


「い、意識だなんて、わたくしは……そ、そういうルリアさんこそ、どうなんですの?」

「そうだそうだ。意識しているのは――あなたの方ではないのか、ルリア先輩」


 アーシャとエストが逆に追及してくる。


「ん? もちろん意識してるよ~。だってあたし、ギルの婚約者として認識されてるからね。ギルの実家から」

「っ……!?」


 ルリアの言葉にアーシャとエストの表情が同時に引きつった。


 ぎぎぃ、という感じで俺に首を向け、


「本当ですの、ギルバートさん?」

「本当か、ギルバート?」


 今度は追及が俺に向かってきた。


「そ、それは母さんと姉さんが勝手に盛り上がっただけで……」

「えっ、婚約破棄する気!? ひっどーい!」

「ルリア、なんでそんなにノリノリなんだよ!?」

「ふふふ、ギルと積み上げた年月なら負けないよ~。あたし、幼なじみだからね」

「うううう……」


 アーシャが悔しげな顔をする。

 と、


「あ、ギルバートくんだ。おはよう」

「おはよ、昨日はすごかったね~」

「っていうか、学内上位が三人も……豪華なメンツに囲まれてるわね~」


 などと、周囲に他の女子生徒たちも集まってきた。


 すっかり有名人みたいな扱いだ。


 ……っていうか、あらためてみると、やたらと美少女が多いな、この学園――。

『一周目』では周りに目を向ける余裕さえなくて、そんなふうに意識したことがなかったけれど。


 今回の人生では、周りを見る余裕がある程度生まれつつある。


 そうして、あらためて今の状況を、環境を、噛みしめた。


 前世とは――俺の学園生活は明らかに、そして大きく変わり始めていた。







***

※今日~3/6まで昼12時、15時、18時の3回更新です!


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