6 ルリアとドキドキデート!


「今日も付き合ってくれてありがとう、ルリア、アーシャ」


 特訓を終え、俺は二人に礼を言った。


「いよいよ週明けに対抗戦が始まるね、ギル」


 ルリアが微笑む。


「がんばって」

「ありがとう、ルリア」

「わたくしたち一組の代表なのですからね、あなたは。無様な真似だけはしないでくださいね」

「はは、がんばるよ、アーシャ」


 勝ち気に告げたアーシャに、俺は苦笑交じりに答えた。


「もう、こういうときは素直になりなよ」


 ルリアがアーシャに言った。


「す、素直にって……」

「照れてるんでしょ?」

「うっ……」

「駄目だよ。ちゃんと『がんばって』って応援しなきゃ」


 ルリアがアーシャを諭す。


「ツンデレキャラよりデレデレキャラの方が今どきは強いからね」

「デレデレ……」


 アーシャがゴクリと喉を鳴らした。


 なんだなんだ?

 二人ともなんの話をしてるんだ……?


「うう……で、でもやっぱり恥ずかしいので……っ! わたくしはこれで失礼しますねっ……!」


 言うなり、アーシャは逃げるようにして去っていった。


「あーあ、初心だねぇ」


 ルリアはその後ろ姿を見ながら、肩をすくめている。


「俺たちも帰るか、ルリア」

「ん」


 うなずき合い、一緒に訓練場を出た。


 正門を出て『3号通り』と呼ばれる大通りを進んでいく。


 すでに日は落ちていて、周囲は薄暗かった。


 ほとんどの生徒がすでに下校済みのためか、俺たち以外に学生の姿はない。


「ルリアのおかげでいい練習ができたよ。一週間ありがとう」


 俺はあらためて礼を言った。


「ギル、がんばってたよねー。ちょっと前まではあんまりやる気なかったのに、急にどうしたの?」


 ルリアがたずねる。


「そんなにやる気なかったっけ?」

「なかったよ。『頑張ったところで、どうせ俺は魔力が少ないし、強くなれないから無駄だ』なんて言っちゃって」

「あ……そういえば、今の時期は言っていたかも」


 俺は前世での当時のことを思い出し、赤面した。


 あのときは自分の魔力の少なさに、魔術師としての将来を諦め、同時に拗ねていたんだと思う。


 今振り返ると恥ずかしい。


 どうして、もっと心を強く持てなかったのか。


 そう思う。


「やっぱり強くなりたいと思って、心を入れ替えたんだ」


 俺はルリアに言った。


「……そっか」


 微笑むルリア。


「といっても、あいかわらず魔力量は最低ランクのままだし、どこまで努力が報われるかは分からないけどな」

「ギル、すごくがんばってるし、かっこいいよ」


 ルリアが俺を見つめた。


「惚れ直しちゃった」

「えっ」


 惚れ直した、っていうのは、もともと俺に対して惚れていた相手がいう台詞だ。


 けど、ルリアが俺を……?


 いやいやいや、そんなわけないよな。


「……なんて、ね」


 案の定、ぺろりと舌を出すルリア。


「まったく。そういうネタでからかうのはよくないぞ」

「ごめん」


 ルリアは真顔に戻り、頭を下げた。


「からかったわけでもないんだけど……」

「えっ?」

「ねえ、あたしとデートするって話……どうなったの?」


 ルリアが唐突に俺に詰め寄ってきた。


「いや、本当に唐突だな」


 いきなり話題が変わってるし。


「選出戦の決勝で君が言ったんでしょ? 『俺が勝ったらデートしてくれ』って。まさか忘れてたんじゃないでしょうね?」

「えっ!?」

「じー」


 ギクリとした俺をルリアがジト目でにらむ。


 ……ごめん、ちょっと忘れかけてた。

 何せ特訓に集中してたからな。


「わ、忘れてないって。えっと、色々落ち着いたり一段落したらいずれそのうちしようかと……」


 俺はしどろもどろになった。


「じー」

「わ、わ、忘れて……ない……かな……たぶん……えっと……」

「その反応は絶対忘れてたでしょ。もう誘っておいて最悪」

「ごめんなさいちょっと忘れかけてました」


 俺は素直に謝った。


「じゃあ、今からしちゃう?」

「えっ」


 俺は驚いてルリアを見つめた。


「週明けは対抗戦が始まるし、今のうちに気晴らしというか、英気を養うというか」

「ルリアも対抗戦があるんだよな? いいのか?」

「あたしはいいよ、別に。どうせ全勝で優勝するもん」


 自信満々だった。


「じゃあ、明日の朝10時に3号通り沿いにある王立公園の噴水前で待ち合わせ……でいいかな?」

「りょーかい」


 たちまちルリアは笑顔になった。


「ふふ、楽しみ~!」


 いきなり上機嫌だ。


 まあ、デートといっても俺たちの仲だと恋愛っぽい雰囲気は皆無だ。


 単に、二人で一緒に遊びに出かけるだけである。


 ただ、俺には確かめたいことが一つあった。


 それは――前世での真実。


 あの最終決戦の土壇場で、ルリアが俺を裏切った理由――。

 そして、その裏切りは今回も起こりうるのか?


 慎重に判断しなきゃいけない。


 何せ俺が最終的に敗れたのは、ルリアに不意打ちで殺されたからだ。


 二度も同じことを繰り返すわけにはいかない。


 ルリアは俺の味方なのか。

 信頼できる存在なのか。


 そして、もし前世に引き続き今回も裏切り者だったとしたら――。




 そして翌日の朝。


 約束の十分前に公園の噴水前まで行くと、すでにルリアが待っていた。


「ごめん、もう来てたのか」

「ん。あたしも今来たところだよ」


 と、ルリア。


 なんか……いつもより綺麗にメイクしているのか、いつもより五割増しで美少女だ。


 綺麗だ――。


 幼なじみ相手だというのに、ちょっとだけドキッとしてしまう。


「ん? もしかして、あたしに見とれてた? ふふふふ」

「そ、そんなことないって」

 図星の指摘だったので、俺は慌ててしまった。


「後伸ばしになっちゃってたけど、やっとデートできるね」


 言ったルリアの頬がほんのり赤く染まっていることに気づいた。


「ルリア……?」


 なんだろう、いつもと少し様子が違うぞ。


 何か緊張しているような――でも俺とデートするのに緊張なんてするわけないしな。


 十年来の幼なじみだし、今さら照れるような間柄でもない。


 けど、ルリアの雰囲気がいつもと違う上に、いつもよりさらに美少女なので、俺の方も段々緊張感がこみ上げてきた。


 シン、と互いに言葉がなくなり、静かな空気が流れていく。


 こ、この雰囲気はちょっと気まずいな……。


 何か会話をしよう。


 なんでもいいから話して、空気を緩めるんだ。


「その、後でルリアに大事な話があるんだ」


 切り出す俺。


「っ……!」


 とたんにルリアの顔が赤くなった。


 ん、どうしたんだ?


「き、来た……いきなり、こんな展開が――」

「えっ」

「あたしの一方的な片想いだと思ってたけど、なんだギルだってやっぱりあたしを想ってくれてたんだ。なーんだ、そっかそっか。うふふふふ」

「ど、どうしたんだ、ルリア……?」




 俺はルリアと一緒に商店街を歩いていた。


 目的は小物屋だ。


「ルリアって昔から小物が好きだったよな」

「ねえ、ギル。何かプレゼントしてよ~」


 ルリアが俺に腕にしがみついてねだった。

 むぎゅっ、と柔らかな胸が俺の腕に押し当てられている。


「っ……!」


 いくら幼なじみとはいえ、意識しないわけじゃない。


「ふふ、今えっちなこと考えなかった?」

「……少し」


 正直に告白してしまった。


「ふふふ、じゃあギルにだけ特別……えいっ」


 と、ルリアがさらに胸を押し付けてきた。


「や、やっぱり恥ずかしいから、もうおしまい」


 すぐに顔を赤らめ、体を離してしまう。

 うっ、もうちょっと味わいたかった。


「ん? もっと味わいたかったって顔してる」


 さすがに幼なじみだけあって鋭いというか、俺の感情を敏感に察知するというか……。


「じ、じゃあ、もうちょっとだけ……」


 顔をますます赤くしながら、ルリアがもう一度胸を押し付けていた。


 柔らかくて、極上の弾力だ……!




 小物屋でルリアに何点か小物を買ってプレゼントすると、次は食事だった。


「あたし、麺がいい」

「俺も麺の気分だった」

「やったー! じゃあ決まりだね」


 俺たちはパスタ専門店に入った。


「あたし、トマトとベーコンのパスタ」

「俺はクリームパスタかなぁ」


 と、それぞれ注文を終え、料理が運ばれてくるまで、待ち時間になった。


 ――さて、と。


 俺はこのデートのもともとの目的を思い起こしていた。


 それは――ルリアにだけは俺が『一周目』の世界から、ここに来たのだということを話すという目的だ。


 ルリアは信じてくれるだろうか?


「ルリア」

「ん?」


 俺の呼びかけにキョトンとするルリア。


「今から言うことを……真剣に聞いてくれるか?」

「ん、なになに? もしかして愛の告白ぅ?」


 ルリアがにっこり笑う。


 正直、ちょっとムッとしてしまった。


「俺は『真剣に』って言ったぞ」

「えっ、もしかして怒った?」

「いや、まあ……少し」


 俺は思わずうつむいてしまった。


 ちょっと態度がキツかったかな、俺。


「ごめん。ピリピリしてしまった」

「あ、ううん。あたしこそ。茶化してごめん。つい勢いで」


 と、謝り合う俺たち。


「真剣に聞くね。話してくれる?」

「ああ。実は――」


 俺は大きく息を吸った。


 さあ、話そう。



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