6 女子だらけの学園生活
「あああ……ああああ……」
ナザリーは呆然とした表情のまま、声を漏らし続けていた。
恐怖心がまだ色濃く残っているんだろう。
それに加え、今まで馬鹿にしていた俺に失禁させられた屈辱もあるのかもしれない。
と、
「『魔法相殺』……威力、性質、属性のすべてがまったく同一の魔法同士をぶつけることで起こりうる現象……けど、こんなの教科書でしか見たことないよ、僕……」
ビアンカが俺を見つめた。
俺は彼女の視線を受け止め、それからナザリーに視線を向けた。
「学内であまり危険な魔法を使うなよ、ナザリー。事故が起きたら怪我するぞ」
いくら前世でこいつらから散々傷つけられたからって、俺は同じことはしない。
好き好んで他人を傷つけたくはないからな。
ま、ちょっとだけ怖がらせてやったのは、その、なんだ……俺だって人間なので、多少の恨みつらみは……な?
けど、それで終わりだ。
「じゃあな」
俺は彼女たちに背を向けた。
「あいつ……本当にギルバートなの……?」
呆然とした様子の二人の声が、背後から聞こえてきた。
――俺は君たちが知っているギルバート・ソウルとは違う。
これから送るのは、前世とは違う学園生活だ。
前世で力を磨いた俺が、新たに切り開く二度目の学園生活だ。
だから、もうあのころのように情けなく、卑屈に歩くのはやめよう。
力強く、一歩一歩歩いていこう。
かつ、かつ、と俺は足音も高く、まっすぐに進んでいく。
ナザリーとの戦いで多少時間を食ってしまった。
朝礼に間に合うかな、と思ったけど、幸いにも朝礼の十五分前くらいには教室にたどり着けた。
意外に時間が余っていてほっと一安心だ。
「おはよう」
俺は『二年一組』というプレートがかかった教室に入り、挨拶をした。
何人かの女子生徒が軽く挨拶してくれる。
とはいえ、俺と深くかかわってくる者はいない。
俺はこの学園において、基本的にぼっちである。
ルリアとはもちろん親しくしているけど、学年が違うから、あまり会うことがないからな。
俺はここで誰とも友だちにならず、一人でひっそりと過ごしてきた。
前世と同じ学園生活が、今世でも待ってるのかな……。
と、
「ねえ、ギルバートがナザリーに勝ったって本当かな?」
「嘘でしょ、あのヘタレのギルが?」
「いや、でも何人か目撃した子がいるって……」
ざわざわ、ざわざわ……。
教室内がざわつきはじめた。
さっきの件がすでに知られているみたいだ。
さすがは女子生徒同士のネットワークである。
……いや、まああんな目立つ騒ぎを起こしたら当然か。
何人もの女子生徒からの視線を感じた。
この学園における女子の比率は99パーセント以上。
ここに在籍する男子生徒は俺だけだ。
女の中に男が一人――たぶん、同性からは『ハーレム』として羨ましがら
れるような状況なんだろうな。
けど当人からしたら、そんないいものでもない。
周りが全員異性っていうのは、結構な『圧』を感じるものなんだ。
それに、なんともいえない居心地の悪さもある。
……まあ、ときどき周囲が女性ばかりで甘酸っぱい胸のときめきを感じることも……まあ、なくはないけどさ。
「前世じゃ、その『圧』に負けたんだよな」
俺はため息をついた。
そして、今から半年後くらいに自主退学したんだ。
そのことを俺はずっと後悔してきた。
退学後、いろいろあって俺は大きな力を得た。
そして、世界に出現した異界のダンジョンや、そのダンジョンから現れるモンスターの『大侵攻』に立ち向かうことになるんだけど――。
もし、俺がもっと早く力を得ていたら、もっと多くのモンスターをたおすことができただろう。
『大侵攻』の初動で大量に失われた命を、いくらかは守ることができたかもしれない。
もしも俺が――学園を退学しなければ。
「……!」
俺は無意識に拳を握り締めていた。
前世では最後の敵である異界王の目前で倒れた。
今度はもう失敗しない。
そのために、俺はここで力を学ぶ。
もっと早く、もっと大きな力を得てみせる。
「そして未来を変えるんだ……! 俺が……俺にしかできない方法で……!」
モヤモヤしていた考えがまとまってきた。
「よーし、やるぞっ!」
俺は席を立ちあがり、叫んだ。
「……?」
周りの女子がキョトンとした顔で俺を見ている。
あ、しまった。
つい決意を声に出してしまった――。
「教室で突然叫ばないでくださいますか? 周りが驚くでしょう?」
かつ、かつ、と足音も高く、一人の女子生徒が歩いて来た。
長い銀色の髪に青い瞳、そして気品を感じさせる美貌――。
他の女子生徒と比べても『美しさの格が違う』と感じさせる彼女はアーシャだ。
確かこのころは会話すらほとんどなかった間柄だったよな……。
アーシャ――本名はディアーシャ・ノースエリア。
ノースエリア王国の第二王女であり、祖国始まって以来の魔法の天才少女だ。
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