第19話 極進化



 洞窟内部で俺は奈落竜と交戦していた。


 奈落竜が空洞を飛び、氷漬けになった爪田パーティのあたりに巨体をぶつける。


 氷の像となったパーティの面々は無惨にも、砕け散った。


「馬鹿な奴らだ。共闘しようっていったのにな」


 合理的な思考ができない奴らだから死んだ。


 だが武器はありがたく頂戴しよう。


 斧、剣、弓、メイス、鉈、ハルバード、ショーテル、居合い刀、魔導書……。


 よりどりみどりだ。


 俺はまず斧を持つ。


――【フィジカルブレス】


 さらに呼吸による身体強化で俺は筋肉を膨張。


 同時に体温もあがる。


 氷のブレスで、洞窟は極寒の気温となったが数分は持つだろう。


 奈落竜の色が変わる。


 青い竜鱗が黄色になったのだ。


「信号機かよ」


 奈落竜は始めは黒だったが、氷のブレスを放つときは青となった。


 黄色ということは……。


「雷か?」


 雷鳴が放たれ俺の斧に着弾。避雷針になってくれたが、少し痺れる。


「なら剣だ!」


 またも雷のブレスで弾かれる。


「武器を避雷針にして近づいて、拳を見舞ってやる」


 奈落竜の戦闘力は本物のようだ。


 またも龍鱗の色が切り替わる。


 今度は緑。緑ってなんだ?


「属性変化なんて、もはや裏ボスだろ!」


 奈落竜は周囲に緑を芽吹かせた。


 回復魔法を用いて、体力を回復させたようだった。


「なんでもありかよ!」


 だが接近する隙はできた。


 俺は全力の拳を構える。


(周囲に瘴気は残っている。こいつを吸って攻撃力を三倍にする!)


 俺は〈呼吸〉と〈毒耐性〉によって瘴気を充填する。


 岩を砕いたときのように攻撃力は三倍だ。


 跳躍と共に、奈落竜に接近したそのとき。


 竜の色が赤く変化する。



 ――――【ドラゴンブレス】――――



 圧倒的な火炎だ。


 氷のブレスはブレスの膜でしのげた。


 雷は武器を避雷針にして、直撃を避けた。


 だが今の俺では炎は対策不可能だ。


「死……!」


 俺の全身へ、奈落竜の火炎の口腔が向けられる


 圧倒的成長で調子に乗っていたのかも知れない。


 あるいはイバラを奪われたことで、自暴自棄になって恐怖を感じなくなっていたのか……?


 ゴウ……!


 火炎の奔流が視界っぱいに迫る。


 火炎は洞窟全体に広がり、避けられるスペースさえ埋め尽くす。


 間違いない。


 致死の一撃だ。


「俺は、まだ……」


 イバラを奪われてからは、死んでもいいとさえ思っていた。


『どうでもいい』

『自分の命に価値などない』



 と……。


 でも、違った。


 帰る場所があるんだ。


 火炎に全身が包まれる。


「ぐあああぁぁあ。あっっぁあああああぁあああああああああああっっああああぁあああああっ!!」


 ラビが待ってくれている。


 弟分だと思っていたのが実は妹分だったり。


 恥ずかしがり屋でうまく話せないけど、良い子だった。


「がああぁぁあ。ぐうぅうあぁああああああああああああ!!」


 タキナと出会い、追放されたのが自分だけではないと知った。


 追放仲間として情報を共有した。


 口が悪いけど、ラビのお世話もしてくれている。


 付き合いが浅いのにお人好し人もいるものだなと思った。


「ぎぃいぐっぅあぁぁああああああ!! がはっっがああああああああ!」


 希望があったかに思えたのに……。


 俺はここで焼かれて死ぬんだ。


 塵も残らず……。



――――【ギフト:ゴクシンカが追加されました】――――


 脳裏にパラメーターが現れる


(え?)


――――【ゴクシンカの解放が可能です】――――



 どういうことだ?


 ゴクシンカってなんだ?


 死にかけの俺の脳裏に記憶が蘇る。


 それは生命の記憶。遺伝子の螺旋。


 脈々と受け継がれる〈生命のスープ〉のイメージ。


(どういう……?)


 焼かれながら、〈ゴクシンカの概念〉を理解する。


 呼吸とは、進化の産物。


 微生物は酸素を取り込むようになり、より大きな酸素を取り込める生物へと進化し、肺を獲得した。


 海で生きていた魚が、酸素に適応して進化し、陸にあがる。


 また陸にいたものが、海に帰ることもある。



 ――――【スキルの〈概念化〉を起動します】――――



 進化とは適応だ。


 それは突然変異でもある。


 ではゴクシンカとは何か。


(極・進化?)


 圧倒的成長だけではない。



 ――――【圧倒的な適応】――――


 スキルの概念化については詳しくはわからない。


 今の俺にわかることは、俺自身が呼吸そのものであり、呼吸とは進化のための産物ということだ。


 吸い尽くし自分のものにすること。


 養分にすること。


「うぉおお。がはぁ、あぁあぁぁああああ」


 俺は炎の中で呼吸する。


 そうだ。


 俺は【呼吸使い】だ。



【呼吸適応。炎】


 炎のドラゴンブレスが肺に馴染んでいく。


「あぁぁぁあぁぁああああああああああああああああああががっっっっっぁあああ」


 焼けるように熱い。


 でもまだ身体は灰になってない。


 それどころか強靭に炎を受け入れてさえいた。


「うっっっつぷうぅうううううう……!!」


 俺は炎を吸い込みながら、一歩ずつ前に進む。


『グルゥウウウ?!』


 奈落竜もさすがに驚いているようだ。


『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』


 さらなるブレス。


 だが覚醒した俺にとっては、養分を与えているようなものだ。



【経験値が300入りました】

【経験値が300入りました】

【経験値が300入りました】

【経験値が300入りました】

【経験値が300入りました】



 死地にいることで呼吸経験値も300倍になったようだ。



【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】



 呼吸とは進化の産物。


 呼吸を司る俺は、ゴクシンカができる。 


 誰も俺を止めることはできない。


 やがて奈落竜のブレスが途切れる。


 そして俺のブレスは満タンだ。


「お返しだ」


 奈落竜の眼前に接近。


――――【アーツ獲得・ドラゴンブレス】――――


 俺はドラゴンブレスを放った。


 火炎の奔流が、俺の口腔からはなたれ、洞窟を覆いつくしていく。

 

 適応と進化。そして吸収……。


 呼吸使いの真価を俺は会得した。 


――――――――――――――――――――

炎だとさすがに無理やろ、からの〈適応〉を果たしました。


おもしろくなってきたら☆1でいいので評価&レビューなどよろしくお願いします。


コメントも気軽にどうぞ(*^^*)



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