第3話 よく似た別人

「見たのか?」

「いいえ。噂に聞いただけですが」

「どんな奴だ」

「少女です」

「少女だと?」


 ゲオルグとエーミルは声を合わせて驚愕した。


「無造作に切られた金髪で、服装は土気色の軍服です。腰につるぎを差していましたが……」


 ふと言葉を呑んだ兵士にゲオルグは詰め寄った。


「剣がどうした」

「軍扇代わりにされていましたが、剣は片歯で長い反りがありました」

「片歯の剣?」


 ゲオルグはエーミルと顔を見合わせ、それから兵士へ視線を戻す。

 剣は両歯だ。

 片歯の物など見たこともない。


「それから何より面差しが女王陛下にそっくりだったとの報でした。金髪で可憐な目鼻立ちで、とても華奢で美しい……」

 

 言いながら、自分の言葉を信じかねるといった顔つきだ。


「陛下にだと?」


 ゲオルグはさらに前に進み出た。

 

「馬鹿を言うな! 女王陛下は……」


 そこまで言ってゲオルグもまた言いよどむ。

 同盟国から招かれたテオ大公と十三歳で結婚した女王陛下はある日、王宮から忽然こつぜんと姿を消した。

 十六歳で女王の夫となった少年は、目鼻立ちがすっきり整い、手足もすらりと長かった。表情に乏しく、口数も少なく、それでいて立ち振る舞いは優雅で洗練されていた。


 テオ大公にとって妻である女王は主君であり、夫はあくまでも臣下だという身分差があり、生涯女王にひれ伏さなければならない立場だ。

 しかし、少年はそれを受け入れているかのようにも見受けられ、エーミルの目にもある意味健気に映っていた。

 その反面、少年の薄灰色の瞳には常にどこか陰があり、夢見がちな女王をとりこにした。


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