にゃー、と猫の鳴き声が聞こえる。

 それは紅お嬢様の友達の黒猫の黒の鳴き声だった。

 それからすぐに、こら、という小さな声と一緒にがたっと言う物音が聞こえる。

 碧が怒った顔をして衣装箪笥の前まで歩いて行く。

 衣装箪笥の扉をいきよいよく開けると、そこから「あっ!」と言う声がして、紅お嬢様が胸に抱いている黒と一緒に床の上に落っこちた。

「痛い! ちょっと碧! なにするのよ!!」

 頭を抑えながら紅お嬢様は言った。

「紅お嬢様。遊んでないで、病院に行きますよ」

 碧が言う。

「嫌だ! 病院は嫌い。絶対に行きたくない!」と紅お嬢様はもう大人なのに子供のように駄々をこねてそう言った。

 それから紅お嬢様は橙と紫に引っ張られるようにして引きずられながら部屋を出ていった。衣装部屋から出て行くときに紅お嬢様は嘘泣きをしながら助けてと口だけを動かして翠に言った。

 翠がすみません。紅お嬢様と口だけを動かして言うと、紅お嬢様は怒った顔になって、役立たずと口だけを動かして翠に言った。

 そうして衣装部屋の中には碧と翠の二人だけになった。

「さあ、翠。うるさいのがいなくなったし、さっそくお掃除をはじめましょう」とまるでさっきまでのことがなにもなかったかのようにして明るい笑顔で翠に言った。

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