第19話 抱かせろ
助けを求める力無き民たち。それを無償で救うのが勇者の責務。
それに対して、デイモンは選考落ち。落選者。平民。
しかし、なろうと思えばデイモンは今から勇者になることもできる。
選別の儀式が聖女であるストレイアの誤認だったということを公表すれば、今からでも勇者になることは可能。
だが、それでももう今のデイモンは勇者になろうという意思が無かった。
「帝都に居た頃よぉ……クラスホルダー確実とか言われてた俺に色んな奴らが集まっていたよ。誰もが俺を褒めたたえ、ゴマすりするようにニコニコしたり、女たちはいつも俺を放っておかなかったよ。俺はな、そつらの期待には本気で応えてやる気だった。戦場に出たら魔王軍をぶちのめし、助けを求められたら助け、惚れた女を、そして勇者の責務ってことで種馬みてーなこともちゃんとやろうとしていたよ……だから、努力もした。帝都に居た頃も常に無償で奉仕活動するのが日課で当たり前のことだと思ってた」
助けを求めて必死に頭を下げる村人たち。
その様子に、デイモンは帝都の民たちのことを思い出して皮肉めいた笑みを浮かべた。
「だが、俺が落選した途端、そいつら全員掌返しだ。惚れた女も群がってた女たちも、俺に何も告げることなくセクンドと裸でヤリまくってた! そして、失意の俺に対して帝都の民衆は何て言った? 偽物だとよ! 偽物偽物偽物偽物……ぐわはははは、俺を偽物だとさ! 二度と帝都に足を踏み入れねえように永久追放だとさ! どう思う? ぐわははは、ヒデーと思わねぇかァ? 勝手に期待して、盛り上がって、人をその気にさせて……偽物偽物偽物だとよぉ!」
そう、全てはストレイアの誤認さえなければこんなことにはならなかった。
だが、ストレイアの誤認がきっかけで、デイモンは容易く掌返しをする醜い連中に辟易した。
こんな奴らのために勇者になるなんてバカバカしい。
こんな奴らのために無償で何かをするのも屈辱だった。
惚れた女に操を立てて、ずっと我慢していたのにアッサリ裏切られて、反吐が出る。
「そんな俺にィ、勇者みてーに助けろだァ? しかも、セクンドの故郷? そいつァ~ちょっと都合が良すぎるんじゃねぇのかァ? あ?」
デイモンは乱暴な口調で、土下座する村人たちに言葉をぶつけた。
「……ッ、そんなことが……ッ、う……俺たちの息子があんたに……それが本当なら、本当に親として、その……だ、だけど……」
デイモンの身にあったことを聞き、ヤオジや村人たちは悲痛の顔を浮かべる。
それが本当にあった出来事なのだとしたら、なんとも哀れであり、そしてもし本当にセクンドが「そういうこと」をしたのなら申し訳ないという気持ちだ。
そして、それでもそんなデイモンに縋る以外に自分たちの生きる道がないことに、心が苦しくなった。
「とーにーかく、さっきのでもうチャラだ。そもそもこの山に何匹居るかも分からねーのに、探して全部駆除しろとでも言うのか? ただでさえメンドクセー。それでもどうしてもってんなら、対価を払え。ストレイア、どんぐらいだ?」
「……山の中には十数匹……冒険者ギルドなどの相場では、一匹で50万マドカ……10匹で500万。恐らくいま山の中には……11、12、13……いえ、まだ……」
「ぐわはははは、だってよぉ! 意外にするんだなぁ。帝都の飯が一触1000マドカぐれーだから、ええっと……とにかくたくさんだ!」
その金額。聞いた瞬間村人たちは顔青ざめさせる。
とてもではないが支払えるような額ではない。
「つーわけだ、対価を支払えねえならやらねえ」
そう言って、デイモンは村人たちに背を向けて、もうこの場から立ち去ろうとした。
すると……
「お……お願いします! 村を助けてください!」
土下座していたナジミが駆け出し、デイモンの前に回り込んで、再び深々と土下座した。
「お金をすぐに用意できないのは本当に申し訳ないです……でも、その代わり、私にできることは何でもします! 山の中でレッドリザードを探すのが大変というのなら、私が探します。囮になります。だから、どうか……何でもします! だから、お願いします、村を救ってください!」
「あ~?」
「セクンドのこと、私にはどうすることもできない……でも、村には……まだ小さな子供たちも居て……その子たちには何の罪もありません! お願いします……お願いします! 何でもしますから! 何でも!」
悲しみのどん底に居るナジミが、自分の全てを投げうってでもとデイモンに懇願した。
何でもすると。
とはいえ、ナジミはセクンドの許嫁であり、デイモンにとってはイライラを増長するだけの相手。
だから、デイモンはムカついたので思わず……
「何でもするか……そこまで助けて欲しいか?」
「はい」
「……なら」
自分史上最悪な悪い顔を意識して笑い……
「抱かせろ」
「ッ」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」
その言葉にナジミも村人たちも顔を引きつらせる。
ナジミも涙で目を潤ませながら顔を赤くし、デイモンを侮蔑するように睨みつける。
「男の人っていつもそうですね! 私たちのことを何だと――――」
「ぐわはははは、あー、はいはい、ベタな反応してんじゃねーよ、バカ」
と、ナジミの予想通りな反応にデイモンは腹抱えて笑った。
「まったく、どーしてこうなっちまったかねぇ? 数日前の俺なら、女の方から皆が抱いてくださいって感じで俺にすり寄ってたのに、今ではただの下衆やろう扱い……だけど、勇者みてーなことをしろとか……ほんっと、バカバカしいぜ」
そして、周囲から自分に対するこの空気に、デイモンは溜息を吐いた。
(ま、とりあえずセクンドがヤリ●ン化したことは実の両親と妹と大切な許嫁や村中に教えてやったし、ちっとぐらいは復讐できたかな? たかが危険度2とか3ぐらいのモンスターだから瞬殺できるだろうし……それにストレイアはたぶん探知魔法みてーのが使えるのか? それなら、テキトーにすぐ終わらせられそうだし、一匹二匹取り逃してももうそりゃ俺は知らんってことで……そうだな。500万なんて現実的じゃねえし……報酬として、多少の食糧を分けてもらう……いや、それとももう遅いし風呂と晩飯と明日の朝飯……あとは小屋よりもう少しまともな寝床を一泊分……ってことで対価にして、明日の朝にさっさとこの村から―――)
もう、色々と交渉するのも土下座もメンドクサイので、とりあえずセクンドのことは暴露して少しはスッキリしたので、さっさとやることやってこの村から出ていこう……デイモンは本当にそう思っていた。
本当にこれで、レッドリザードを駆除してやろうと思った。
しかし……
「わ、分かり……ました。でも、約束してください! 私を抱いたら……この村を救ってくれると」
「……うぇ?」
それはデイモンのからかいを込めた冗談のつもりだった。
だが、ナジミは覚悟を決めた目でデイモンにそう言った。
「ま、ナジミ、何言ってんだお前! そんなこと―――」
「いいの、おじさま……これで村が救われるなら私は……」
「そんな、だ、ダメよ、ナジミ! あなたはセクンドと、っ、デイモン君、お願い、どうにか、この子はせめて清い体のまま……」
「おばさま! 大丈夫だから……大丈夫だから、ね」
「そ、そんな、ナジミお姉ちゃんが……やだ! だめ……ねえ、デイモン……さん、デイモンさん! ナジミお姉ちゃんの代わりに、私じゃダメ?」
「こら、シェスタ。あなたはまだまだ子供なんだから……ここはお姉ちゃんに任せて」
そう、ナジミは覚悟を決めたのだ。
自分が抱かれることで皆が助かるならと。
両親を一度に失い、そしてずっと好きだったセクンドのために守っていた純潔も初めて出会った男に捧げてしまう。
あまりにも悲劇。
だが、止めようとする村人たちの声をナジミは聞かない。
「……わ、私の家に……そこで……好きにしていいです。だけど、約束して! 私を抱いたら、この村を守って!」
「え、あ、お、……おお」
それは、デイモンにとっては完全に予想外だった。
まさかこんなことになるとは考えてなかった。
若干心が痛む。これではセクンドと同じでは?
が、同時に別の想いが込み上げてくる。
田舎娘ではあるが、帝都でもきっと評判になるであろう美貌。肉付きの良い抜群のプロポーション。
何よりも、養成学校時代からずっとセクンドが想い焦がれて心の支えにしていた故郷の許嫁。
その許嫁の純潔を自分がもらえる。
ゲスだと分かっていても、興奮した。
「ぐわははは、なんかそういうことになった! 見張ってろよ、ストレイア」
「……承知しました」
興奮してきたデイモンに対し、ストレイアはただいつものように無表情で頷くだけだった。
セクンドと同じ? 知るか。と、デイモンはナジミの手を引っ張った。
――あとがき――
お世話になっております。
本作、並み居る人気作家を押しのけ、【カクヨムネクスト週間ランキング2位】になりました!
推していただきありがとうございます! 何卒、引き続きブクマ登録及び「★★★」での評価ポイントを頂けましたら幸甚にございます!
また、カクヨムネクストのシステム上、非会員で閲覧できるのは20話までとなっており、次回以降は会員登録という残酷なシステムになっております。
申し訳ありません。もしこんな作品でも「気になる!」「抱くんか? 抱くんか! ヤリまくりか!?」と今後のデイモンを気にしていただけましたら、ご検討賜りたくお願い申し上げます!
よろしくお願い致します!!!!!
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