第2話 醒めない悪夢

 再び目の前が明るくなり、暗い閉鎖空間から外に引っ張り出される。

 今度は公園のような場所で、あの少年だけになっている。

 彼はニヤニヤした顔で私を見下ろす。頭を撫でられそうになり、伸びてきた手をさっとかわす。

シャン触んな! シャー、シャンこのクソ陰キャ!」

 反抗の意を示すつもりが、口から出たのは珍妙な鳴き声だった。そりゃそうか、今の私は人間じゃないんだし。

 少年は少し驚いたように「ごめん」と呟いた。

「……まずは名前を決めないと。図鑑には載ってないみたいだし、どんな名前にしよう」

 彼は私の名前を考え始めた。思わずため息が出る。

 今までの流れで薄々気づいていた。私はこの少年に飼われてしまったらしい。

 自由気ままな猫の気分を味わえると思ったのに、とんだ退屈な夢になってしまった。よりによってこんなキモい奴が飼い主なんて——。

「セイラ」

 不意に自分の名前を呼ばれて身震いする。その声は間違いなく少年の声だった。

 なんでコイツ、私の名前を……。

「決めた。セイラ、僕はリータ。これからよろしく」

 馴れ馴れしく名前呼びかよ。しかもガキのくせに呼び捨てって。はぁ、早く醒めないかな、こんな悪夢。

 そのとき、脇の茂みから何かが飛び出してきた。

「あっ、エキノンだ!」

 現れたのは私と同じくらいの大きさのキノコ型の生物だった。見るからに毒々しい色合いで、もはやモンスターと言ってもいい。

「よし、いくよセイラ。あいつにかぶりつく!」

 少年が腕に付けた端末を私に向ける。すると私の体は勝手にモンスターのもとへ走り出す。

 いや、無理。無理だって。あんな近づくだけでヤバそうなヤツ……え、うそでしょ。

 人間の思考に反して猫の身体がモンスターの正面へと私を仕向ける。そして、一切の躊躇いもなくそれの笠に嚙みついた。

 歯が当たった瞬間、とてつもない激臭に襲われた。あまりの臭いに立っていられず、その場に倒れ込む。

 手足が痺れてきて、意識が遠のいていく。

 私、このまま本当に死ぬのかな……。

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