第39話 この幸せをこれからも続けたい

 ーーアスタルト家邸宅

 邸内の庭ではヴィストが雑草むしりをしていて、ピノンは食堂で料理の手伝いをしていた。

 2人はリタとティオの家庭教師を終えた今も邸内にいた為に、"せめてもの見合った働き"としてそれぞれ雑用をこなしていた。


「ヴィスト様、ありがとうございます…」

「いいって事よ!教師終わってからまだ少し居座ってもらってっからな…せめてこれくらいの事はな!」


「ピノンさん包丁さばき上手ですね…」

「えへへ、これでもヴィストにご飯を作っている身ですから!」



 リタとティオは敷地内花壇で水やりをしていた。


 先日新たに買った花の種を植えており、ティオはまだ芽が出ないかと毎日花壇を見つめる日々が続いていた。


「ティオ、そんなに見つめてもまだ芽は出ないよ…」

「でも、学校始まった頃に咲いたら…」

「大丈夫、時期的にはあと少しで咲くはずだから…」

「は~い」


 観念したかのようにティオは緩い返事をして、花壇を後にした。



 2人が次に向かったのは敷地内の森であった。


 そこはリタと仲の良いリスの家族が住んでいる上に、以前巨獣が襲ってきた場所でもあった。


 その時に重傷を負ったリスは巨獣を撃退した後に街の動物専門医に診せた事で命に別状はなく、現在は既に回復してこうして元の生活を送っていたのだった。


「みんな~!どんぐり持って来たわよ~!」


 リタの掛け声と共にリス達がリタに向かってきた。


 リタは手にたくさんのどんぐりを乗せてリス達はそれを美味しそうに食べる。ティオもリタの真似をしてどんぐりを手にたくさん乗せてリス達に与えていた。


「すご~い!たくさん食べた!」


 自分の持っているどんぐりを食べているリス達に感激しているティオ。

 そんなティオを見てリタは思った。


 この場所は最初にでもあったという事を…。


 リタは初めてティオを見つけた日の事を思い返していた。

 もうすぐティオを家族として迎えてから1年が経とうとしている事。

 そして、"もしもあの時自分がティオを見つけていなかったらティオはどうなっていたのか?"といった事。

 2つの考えが頭に浮かんでいたが、同時に喜んでもいた。


 ーーあの時ティオを見つけていたのが自分だったから、今彼は幸せに過ごせているーー


 ーーティオを家族に迎えたから自分も今、すごい幸せを感じているーー


 そんな思いが過っていた。


 さらには…。


 ーーこの幸せをこれからも続けたいーー


 そう言った想いもあった。


「お姉ちゃん…」

「なあに?」

「お腹すいた」


 「ぐぅ~っ」とティオのお腹から音が聞こえた。

 そんなティオにリタはボソッと笑うのだった。


「ティオ、今日は久しぶりに街でお昼食べようか!」

「わ~い!!」


 そしてリスに食事を与え終えた2人は、街へ向かいランチを食べるのだった。

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